1-20
近藤の襲名記念試合当日は晴天に恵まれた。近藤は総大将のように
その他の門人や近所の人々も集まっており、祭りのような賑わいである。
一は白い鉢巻きを付けた。
「よし、白組必勝だ!出陣!」
永倉が威勢の良い声を上げる。土方と真命の表情も締まっている。
貼り出された紙には紅白それぞれの組で名前が書かれている。
紅組の順は先峰原田、次鋒藤堂、中堅山南、大将沖田。面白いほどに土方の読み通りとなっていた。
「うわ、すげえな。土方さんの予想どんぴしゃりじゃねえか…」
これには永倉も目を丸くして驚いていた。
「ということはこちらの作戦通りと言えます!やる気が出て来た!」
先鋒の真命は袴の袖をたくし上げる。
「とはいえ油断はするんじゃねぇぞ。存分にやってこい。」
「はい!兄上!」
土方が真命の背を叩いて送り出した。
一はそれを黙って見ていたが、振り返った真命が笑いかけてくるので目を逸らしてしまった。
原田は槍の長さそのものの、尺のある木刀を担ぎ観衆の中央で待っている。真命は怯む様子なく軽やかにその正面に構える。
「相手は真命か。正直意外な順で驚いてるがここは俺がもらっていくぞ。」
「誰であろうと突破します!本気で来て下さいね!」
井上の始め、の掛け声で戦いの火蓋は切って落とされる。
一は槍術使いである原田の試合をしかと見るのは始めてだったが、柄の長い武器が縦横無尽に動き回る様は想像以上の迫力だ。原田の槍裁きは実に見事で、武器の重量を感じさせず千の手から繰り出されているように見えた。もし相対したら思わず退いてしまうかもしれない。
しかし真命も負けてはいない。持ち前の身のこなしはこの戦いにおいて大いに活かされていた。舞うように攻撃をかわし、原田の懐に入る隙を虎視眈々と狙っている。
「うわ、やるなあいつら!まるで武蔵坊弁慶と牛若丸だ!」
永倉の例えは的を得ている。前に読んだ義経記の五条大橋での戦いの場面が図らずとも浮かんでくる。
「あいつは、よくここまで育ってくれた」
一の横にいる土方が小さく独りごちる。
「…拾い子だと聞きましたが」
「なんだ、もう聞いてたのか。うちに来たての頃は心配も多かったんだが、改めてこう見ると気付かねぇうちに成長してるもんだな。少し安心できた。」
土方が真命を見詰める瞳には、親が子を思うような慈愛が滲み出ている。
「……あの」
真命とはどこで出会ったのですか。
優しげな横顔に一はそう問おうとしたが、その時観衆の声援が一気に盛り上がった。一は反射的に試合をしている二人に目線を戻した。
蜻蛉の記憶 浅倉 山義 @asakurayamagi
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