1-17
土方は今までの話を丸々ひっくり返して見せるのだった。
「相手が予測通り来るなら先鋒は真命、次鋒は俺、中堅は永倉、大将は山口だ。」
すると皆その意外性に驚いている。
その中でも殊に驚いているのは一だ。
「中々に面白いけどよ、どういう布陣なんだ?そりゃ。」
永倉が説明を請う。
「一見分が悪そうな真命は小さくてはしっこい分大道具を使う原田の懐に潜り込みやすい。俺は初戦の様子を見て流れを調整する。永倉は剣術修行の旅で経験が豊富だから他流派の視野が広いし、勢いもある。それを買って手堅く大将に繋げてもらう。山口は真命と何度も試合をしてるだろう。天然理心流を相手にすることが何たるかよくわかってるはずだ。」
天然理心流を相手にすることが何たるか。
どうすれば"真命に勝てるか"ばかりを考えていた一だが、より奥にある核を噛み砕き、とらえなければならないということか。
「まぁ、もし予測が外れてもこの布陣ならそこそこじゃねぇかと思うんだが。多少相手方の意表を突くという意味でもな。」
土方はいつか見た素知らぬ顔でそう言ったが、真命と永倉は納得したようだった。
「すごい!さすがは兄上です!」
「おう、こっちはこの作戦でぎゃふんと言わせてやろうぜ!」
「山口、大将任せるぞ。」
土方に直に言い渡され、一は頷いた。
「承りました」
一は気が奮い立つのを確かに感じていた。
「よし、そうしたら真命ちょっといいか。」
「はい、兄上。」
土方が呼ぶと真命はすぐに反応する。忠犬のようだ。
「北辰一刀流の真似できるか?お前そういうの得意だろ。」
「もちろん出来ますよ!」
真命は得意気に右手で木刀を持つと、その切っ先を四方八方へ揺らす。
「みょんみょんみょーん」
その珍妙な動作に一同、硬直。
「……ふざけているのか?」と、一。
「なんか、失敗した蝉みてぇだな!」と、どこか失礼な永倉。
「いや、ノミが跳ねる音だ」と真顔の土方。
「ちょ、ちょっと!本当にこういう感じなんですよ!!」
真命は必死に弁解している。
「試しに向き合ってみてください。これ、意味があるらしいんです!」
「どれ」
土方が真命に向かい合い、木刀を構えた。
真命はその妙な動きをし続ける。土方の眉間には皺が寄り始めた。
「…なるほどな、こりゃ出方が読めねぇ。」
「でしょう?どうもそれが狙いのようですよ。」
一もなるほど、と土方の後方からそれを見ていた。あることに気付く。
「……腕が疲れてくると構えるときに剣がぶれやすいが、意図的にこれをやるならば疲れを悟られまい。」
「おお、確かに山口の言う通りかもしれねぇな!」
永倉も興味津々にその剣の動きを見ていた。
「北辰一刀流って、本当に無駄がなくて賢いですよね。我々天然理心流にはない戦術が多いので勉強になります。」
「天然理心流ってのはある意味捨て身の剣法だからな。最悪相打ちに持ち込めればいい。」
確かに真命や土方の言う通り、天然理心流と北辰一刀流は同じ勝つことが目的であるとしても戦法が対極にあるような印象だ。天然理心流が体なら北辰一刀流は頭脳というような。
「相手は手強い奴らばかりだが、戦いがいがあるってもんだな!なぁ、景気づけに甘味でも食いに行こうぜ!」
「やった!行きます!!」
永倉が提案すると、真命は案の定即賛成する。
「しょうがねぇ、付き合うか。」
土方もそんな言い方はするがどこか楽しそうだ。
「一も行こうよ!ね!」
惜しみ無く表情に嬉しさを浮かべている真命に、一は頷いて見せた。その頬がほんの少し緩んでいることは無自覚なまま。
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