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近藤の襲名記念試合は総司が言っていた通り門人を紅白の組に分けて行い、代表の四名同士が剣術試合を披露する。一の属する白組は真命、永倉、土方の四人、対する紅組は総司、原田、山南、藤堂の四人だ。
「相手に山南さんと総司が固まったのは厄介だな~。」
永倉が頭を掻きながらぼやいている。
道場の井戸の横で白組の四人が結集し、目下作戦会議の真っ最中、いやまさしく井戸端会議かもしれないが。
「誰が割り振りを決めたんだろうな?」
「何でもくじらしいですよ?総司が言ってました。」
「ったくことごとく運がわりぃなー!」
永倉と真命が何だか不吉な会話をしているが、無理もないことか、と一は思う。何しろ総司は言わずもがな最強、山南は北辰一刀流の名人。
北辰一刀流は、一言で表すならば合理的な剣だ。そして間を読むことに長けている、すなわち隙を突く術を鍛えられた剣術である。頭脳明晰な山南に似合う流派といえよう。
「でもきっと付け入る隙はありますよ!完璧なんてないんだから。皆で策を練りましょう!こっちには兄上がいます!」
しかし真命はいつも通り前向き、快活だ。兄上、という言葉が出て面子の期待は土方に集まる。
皆の視線の先の土方は黙したまま腕を組んでおり、既に何かを思案しているように見える。
「山南さんだけじゃなく藤堂も北辰一刀流だ。固まってる分ある程度の対策は取れる。あと鍵になるのは順番だろう。」
そう言うと土方は腰を落とし、地面に指で文字を書き始めた。
真命と永倉は習って腰を落とし、土方が書いていることに注目する。一は立ったまま、その様相を何となく眺めていた。
「まず相手の出方を予測するところからだが…やはり頭脳は山南さんだろうな。先ずそこを攻略するところからだ。」
「ってことは、山南さんの気分になって考えるわけですね!」
「そういうことだ」
真命の言葉に頷く土方は、地面に名を列挙し始める。
「山南さんは学がある人だ。そういう類いの人間は良くも悪くも型にはまりやすいところがある。となると…先鋒は原田、次鋒は平助、中堅は山南さん、大将は総司と考えるのが綺麗な気がすんな。槍術の原田で勢いを付け、同じ流派の藤堂と山南さんで上手いこと調整し、最後を総司で飾る。」
「はぁ、なるほど」と永倉は感嘆している。確かに理にかなっている予測だ。
「それを踏まえてこっちの出方を考えるぜ。よく聞いてろよ。山口、お前もだ。」
土方に名指しされ、一は躊躇いつつも永倉と真命の間に入って腰を落とす。それを確認すると、土方は本題に戻る。
「先鋒は永倉、次鋒は山口、中堅は俺、大将は真命。それが妥当。」
まぁ、そうなるだろう。一もそれが妥当だとは思っていた。
永倉は神道無念流という、力業を得意とする剣術流派。槍術の原田と相対しても劣らず戦える可能性がある。その流れを汲んで一と土方、道場で総司に次ぐ実力と言われる真命を大将にするのは当然といえる。
「だが、それは"あくまで"妥当だって話だ。」
土方は口角を上げる。一は思わずどきりとさせられた。
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