1-8
強引に連れられた一は、気が向かないまま二人の後ろ姿を追う。
一が自ら訊いたわけではないが平助が言うには真命と平助は一と同い年、総司と佐之助は四つ上らしい。それ以外の者は、更に年上。
さほど垣根は感じないが、総司は真命より多少大人びている印象がある。いつも側で真命のやることを見守っていて、ときに口を出し導いている。その匙加減というか、奔放な真命の扱いには相当長けている。幼馴染みだけのことはある。
二人は夏野菜が入った籠を竹刀に通して担いでいる。総司が持っている方は一が使わなくなった竹刀だった。
まさかこんな使われ方をするとは、あの竹刀もさぞ心外だろう。一は心の内で嘲笑していた。
「マコトちゃん!」
「ソウジくん~!!」
畦道を歩いていると、子どもが四人寄ってきた。
「おう、お前ら今日も元気そうだなぁ」
真命は親しい友人に挨拶するように子どもたちに声をかけている。
「ふたりともどこへ行くの?」
「これから川へ涼みに行くんだよ。一緒に来る?」
総司がそう言うと、子どもたちは沸き立った。その様子を見て真命も総司も優しげに微笑んでいて、まるで老夫婦のようにも見える。
しかしその前にこいつらは男同士じゃないか。つい馬鹿げたことを考えてしまった、と一は浮かんだものを即座に払拭する。
「こんにちは!初めまして!」
自分の真下当たりから突然声が聞こえてきたと思えば、子どもたちが近くに寄って来ていた。思わず一歩後ずさる。
「俺、一郎ってんだー!」「私、りつ!」
ひとりが言い出すと呼応するように他の子どもが同時に喋りだす。結局誰が誰だかわからない。
「おにいさんは、何て言うの?」
かろうじて聞こえた問いに、一は答える。
「…山口一だ。」
すると子どもたちは「ハジメくん遊ぼ!」だの「よろしくね!」だの、また同時に喋っている。収拾がつく気配がない。
しかし一向に口を出してこないあの二人。一のどうにかしろという視線は真命が捕らえた。
だが、ただ楽しそうな笑顔を向けられるだけで一には腹立たしかった。
人が困っているというのに何がそんなに面白いのだ。
この人でなし。
いつもいつも、笑ってばかり。
「おーい、置いてっちゃうよー?」
何気ない総司の呼びかけが助け船になった。子どもたちは再び二人の元へ駆けていく。一の元にはひとりの女児だけが残った。
「ハジメくん、行こっ」
小さな手が一のマメだらけの手を引く。
「ねぇハジメくんはここに引っ越してきたの?」
「まぁ…そんなところだ。」
実家は江戸だがここからは少し離れている。
「どうしてここにきたの?」
「剣術の修行のためだ。」
「すごーい!!ハジメくん、強そう!」
「……そこまでではない」
「えー?絶対そんなことないもん。」
「…何を根拠にそんなことが言える。」
「強そうな顔だから!!」
一は思わず軽く吹き出した。まさかそんな答えが返ってくるとは想像していなかった。
一は手を引かれるがまま、田舎道を進んでいった。
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