1-7
「一くん、ちょっとそっち持ってよ。」
「あぁ」
せーの、という総司の掛け声と共に一は箪笥の片側を持ち上げて位置をずらす。
「ツネさん、これでいい?」
総司がそう声をかけたのは近藤の妻、ツネである。
「はい、ありがとう。」
ツネは笑顔で丁寧に礼を言って、箒で箪笥の裏を掃き出した。どうやら、今日は細々とした部分の掃除をしたいらしかった。
「ここは男手が多くて本当に助かります。」
「腕っぷしに自信がある人もそれなりに多いしね。何でも手伝うから言ってよ。」
「総司さん、本当にお優しいのね。」
その男手の中にはもう俺が入っているということか。
一は幾分か逞しくなった自分の腕に触れた。
一はすっかり試衛館に居着いてしまっていた。元々剣の腕を磨くという名目で放浪している三男坊という、勝手気ままの身だ。どこに居ようが変わらぬ。
どたばたと廊下を走る音が聞こえてくる。その音の主はやはり真命だった。
「おツネさん!雑巾持ってきたよ!」
「あら、ありがとう。」
ツネに頼まれて雑巾を絞ってきたようだ。
「総司と一も手伝い?」
「まぁそんなとこだよ。真命はもう待ち伏せ終わったの?」
「今日はじっと座ってるのも暑くて帰ってきちゃった。洗濯物はよく乾きそうだって村の皆は嬉しそうだったけど。」
「そう。あ、じゃあ昼過ぎに川にでも行こうよ。」
「おう、いいね!」
ついでに胡瓜や西瓜を冷やそうだの、総司と真命は他愛のないことをやけに楽しそうに話す。
「山口さんもご一緒したら?」
ツネは好意のつもりだろうが、そんなことをしている暇があるなら剣術の鍛練に時間を割きたいと思うのが一だ。
しかし。
「てことで、一も行くぞ!」
断る前に真命に背を叩かれた。
「別に僕は構わないけどさぁ、真命ってば一くんの顔見えてる?どう見ても渋いんだけど。」
総司の言う通りである。だが真命は戯れ言だと言わんばかりに全く意に介していないようだった。
「いいじゃないか、折角なんだから。それに行けば楽しくなるに決まってるし!ねっ!」
歯を見せた笑顔を向け同意を求めてくる。邪気が無いところが余計に一を苛立たせる。一発拳が飛びそうになった。
「やれやれ…ってことだし、まぁ一緒に来なよ。悪いようにはしないからさ。」
総司は肩をすくめていたが、その表情は柔和だった。
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