第五章 メタ読みの魔女
17 メタ読みの魔女
「で、掟を破って魔法を使ったということ?」
アブソリアは怪訝な表情を浮かべる。
「人助けですよ? 命助けたんですよ? いいことじゃない!」
「あのね、あんたのそういう発言が余計なのよ」
「いや、でもあそこで言いつけ守ってロレンスさんが死ぬところを眺めてたら、私の処分が取り消されたっていうんですか?」
「指摘しているのはそこじゃないわ、救命したことは確かに必要なことだったけどね、もうちょっと言い方と態度というものがあるでしょう」
アブソリアに言われ、クルリは口をへの字に曲げて考え始めた。アブソリアの言いたいことは簡単であり、メタ読みして行動しているような雰囲気をこの後にある査問委員会で出さないでほしいということだった。せっかく弁明の機会を与えたというのに台無しにされては困る。
「じゃぁ、こういえばいい?」
「どれどれ…」
「私が封印を破り魔法を行使した理由としましては、ロレンスさんの負傷具合は一般の応急処置で助かるレベルを逸脱しており救命のためにはやむを得ぬものであった。よって、今回の行動は王国法第十三条の定めるところの緊急回避に相当すると考えている」
「違うってば! 裁判っぽく理由を語れって言ってんじゃないの、慈愛の心で行動した感じを出せって言ってんの!」
アブソリアは時々娘について不思議に思うのである。一体、どこからこんな言い回しを覚えてくるのかと。そして、どうして我が娘は空気が読めないのかと。これも、新しい世代の特徴なのだろうか?
「そりゃね、私だっていやな未来が見えたからあんたを送ったわけなんだけどさ…」
アブソリアの占いはある意味絶対であり、今回の通り彼女がロレンスの死を予言したならそれは必ずその時期にやってくる。そして、これはアブソリア自身では変更ができないものである。
しかし、他人であれば運命の変更を行えるし、反転が大好きなクルリなら負の暗示を覆すことができる。カウンターさせると強い魔法というのは母のお墨付きなのだ。
「あぁ、やっぱり未来見てやったんですね。それで、魔法を封印されている娘に魔法使うように仕向けたんですね」
「だから、メタ読みするじゃいの! あんたは子供らしく可愛げを持ちなさいよ。そういうことはもうちょっと葛藤してからやるものなの。国際ルールなの! 思考時間ゼロ秒の超速で判断してんじゃないわよ! 見てるこっちは面白くないでしょ!」
「母さん、これからの時代○○らしくなんていうバイアスはなくなるのが国際ルールですよ」
アブソリアはクルリのおでこをデコピンし、ペチッと音が部屋に響く。
「あら、お早い参集だこと。アブソリア」
姑のような登場の仕方をするヴィクトリア。それに続いてやってくるゼロは…
「ヨーヨー、ヘイユー、今度は何の罪でここにきたんだYO!」
と、ヒップホップスタイルで査問委員会に登場するのであった。しばらく、ゼロおばあさまの小刻みな震えのような、ボイスパーカッション付きのダンスを眺める一同。
まるで次の展開を待っているかのようにループするおばあ様の口ずさむリズム。そして、誰もツッコミを入れようとしない空気。
アブソリアが顎でクルリに合図するものだから仕方なくクルリが口を開くのだった。
「おばあ様、その恰好で査問なさるのですか?」
待ってましたと、おばあ様のリズムがクライマックスを迎える。
ヘイ、ユーの査問はなしだYO!
封印破りはご法度、だけどユーのハートはホット!
※略、実際には5分くらい続きます。
だから、査問はノープロブレム!
「えっと、つまり査問がないのに私たちがここに集められた理由は?」
ヒップホップスタイルから一転してゼロが姿勢を正す。
「クルリ! これから始めるのは魔女審査委員会よ! アーユーレディ?」
「え、えぇ…」
クルリは練習もままならないまま、審査委員会が突然に始まるのだった。
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