魔術師はクズ男を探して性格を反転させようと目論む
遥海 策人(はるみ さくと)
第一章 見習いクルリは言いくるめられない
01 反転の魔女
特徴的な三角帽子をかぶったクルリは高い崖の上に立っていた。
見下ろす夜の森は静かだった。
少女が魔法の杖を構えると杖は形を変えていき、ハンマーの形態に変わる。これを大きく振りかぶり、そのまま崖の上から飛び降りてしまった。
その真下。3人の山賊が焚火をして暖を取っていた。
「俺は山賊の王になってやる!」
そういう熱い意気込みを語る男は、この近辺では有名なロフィという山賊のリーダーである。いつもテンガロンハットをかぶっているため、テンガロンのロフィなどと呼ばれている。
そんな、ロフィの脳天に向けて少女は狙いを定め飛び降りてくる。
「迷える心をくるりと反転!」
詠唱の完了と同時に寸分の狂いもなく振り下ろされるハンマー。それがロフィの頭部に命中した。森には衝撃音が響き渡り木々をざわつかせるほどだった。
「大丈夫かロフィ!」
吹き飛んだ距離が衝撃の大きさを物語る。しかし、ロフィはふらりと立ち上がる。そして、こうつぶやいた。
「おれ、やっぱ山賊やめる。実家に戻って農家を継いで堅実に生きる」
熱い夢を語っていた男の性格が急に反転し真逆の人格に変わってしまったのだ。
「お前、魔女だな! この能力は、反転の魔女!」
少女の正体に気づいたもう一人の男が、とっさに剣を構えて大きな声を出した。剣を二本構えるスタイル。身のこなしの軽さ。それを見て、少女も手に持つ武器を二つに割ってより取り回しの良いバールのようなものに変形させる。
「魔女は許さない、一人残らず駆逐してやる!」
二つの剣を構えた山賊の名はグレン。わけがあって山賊になるが、仲間を大切にする一方で敵に対しては全く容赦ないことで有名であった。
二人とも向き合っていたが、
そんな少女をグレンは軽業のごとく飛び上がって回避する。そして、そのまま木と木を飛ぶように渡り行き、瞬く間に森の中へ姿をくらまし、少女の死角にいったん逃げる。
そして、森の木々を利用して少女の背後を取る。まったく気づいていない少女。
(もらった!)
しかし、間一髪で回避する少女。剣はわずかに少女の身体を外す。
(なかなかやる!)
そう、グレンが思った時だった。少女の胸をかすめた剣が服を破き、裂け目からふくよかなおっぱいがはみ出してくるではないか!
(!!!)
そんな、おっぱいに見とれて隙だらけのグレンの側頭部に重々しいバールのようなものが命中する。
「それは
分身に気を取られていたグレンもまた吹き飛ばされてしまう。そして…
「魔女様大好き! ぶひィー!」
と、起き上がったときには生真面目な性格が反転して、囮のクルリにべたべたと抱き着いている。
そんな戦いの様子を見ていた、3人目の山賊は葛藤していた。仲間の
「逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ…」
三人目の山賊の名はケンジ。ケンジは自分の持つ勇気を振り絞り、震える手でナイフを取り出し戦う決意を示す。
一方、少女は遠くからゆっくりと歩いてくることだけわかった。夜の森に響くのは、少女がパキパキと小枝を踏みしめる音だけ。
じりじり距離が近づく。
(ゴクリ)
そして、目を凝らすと暗闇の中でも少女の姿が浮かぶような距離になってきたときである。そんな、少女の槌が急に輝きだす。
「えっ?!」
リング状の光が徐々に収束し、ありえないくらい強烈な光線がケンジめがけて飛んでくる。
「あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
と、心臓を光線が貫き、魂が悲鳴を上げるほどの苦しみを感じる。ケンジの意識が一瞬だけ途絶えた。その場に転がるケンジ。しかし、外傷は何もない。そんな、ケンジが目覚めた時には…
「うひゃ~、人生は逃げたもん勝ちだもんね~。ケンジ、とんずらしまーす!」
と、暗闇の中へ消えてしまった。引っ込み思案でいろいろなものを背負い込む性格のケンジは反転し、外交的だが責任を取らないタイプの人間に代わってしまう。
何はともあれそれ以降、山賊テンガロンの一見は姿を消した。
「お疲れ様です」
戦い終えた少女が二人の騎士に迎えられる。
「すごいわ。これが、魔女の力なのね…」
そう言われ、少女はようやく口を開く。
「私は、クルリ。『反転の魔女』名に恥じない仕事をさせていただきました」
この世界の魔女は厳しい認定試験を受けねば名乗ることが許されない。この物語は、クルリが三人の師匠である、絶対の魔女、勝利の魔女、そして、創造の魔女の三人に勝つまでの紆余曲折を
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