02 見習い魔女の旅立ち
「見習い魔女のクルリよ、よくぞ参った」
玉座を前に、クルリは跪いて国王陛下に頭を下げていた。
「若輩の身ではありますが謁見させていいただきましたこと大変感謝しております」
「気にするでない。そなたは偉大な魔女の
クルリがちらりと王様を見る。
「陛下直々のご配慮。わたくしにはもったいない限りであります」
素知らぬ顔で返事したクルリであったが、クルリは知っていた。過去、師匠でもあり母でもある魔女たちから聞いているから。王国は魔女に対しては見習いのころから旅のお祝いとして何かたくさんいいものを進呈してくれるのだ。
だから、クルリは
(なにくれるんだろう?)
と、もらう前から期待に胸が膨らみにやにやと笑顔に変わるのであった。
一方で国王にも考えがあった。
「時に、クルリよ。そなたはこれから魔女となるため修行の旅に出るのだが、魔女の力を得て何に役立てようと考えた?」
この質問は、先々代の魔女である創造の魔女が旅立つときに聞いた質問と同じもの。当時、若き王子だった国王も立ち会った記憶がある。
(せめて、先代の魔女たちよりも
そう国王が願う理由は簡単である。
(あの時の返事は本当にひどかった…)
先々代の魔女(クルリの曾祖母)である創造の魔女はこう答えたのだった。
「イケメンだらけの楽園を創造し、その楽園を観察しながら美酒を頂きます」
これを聞いた、当時の国王は厳粛な王で有名であり、同時にどんなことにも動じない胆力があった人であるが、そんな王の顔が引き吊って、ほほの筋肉がピクピク動いていたことを鮮明に覚えている。
(さて、このクルリという少女はどうだろうか?)
国王の質問に対してクルリは顔を上げ、口を開く。
「魔女の力は絶大。であるからこそ、私の力は私一人ではなく、多くの民の意思で決めるべきと思っております。民の声を聴き、彼らが望む幸せのためにこそ力を使いたいと考えているのです」
「なるほど、そなたは民のためにありたいと願うのだな?」
「はい!」
謁見の間では、たくさんの大臣や王の一族が見守っている。そして、聴衆がざわざわと騒ぐ。
「なんと
「歴代で一番まともだな!」
そんな、ざわつきを聞き取ったクルリ。
(うまく行ってる。これで、旅のお金たくさんもらえるかな!)
彼女はそのざわつきでにやにやするのだった。しかし、肝心の国王の表情はまだ晴れやかではなかった。
「クルリよ。もう一つ、問うても良いか?」
「はい、国王陛下。なんでもお答えいたします」
だから、国王は先代の魔女である勝利の魔女にした質問と同じものをすることにした。
「そなたの母(創造の魔女)をもってしても解決しえない課題は世界にまだ多くある。そなたは、どんな課題から解決しようと考えている?」
ちなみにであるが、その時の勝利の魔女の答えは…
「とりあえず、いい男を捕まえて人生に勝利したいです!」
(できれば、もっと世界を広く見てほしいところだった…)
現在の国王は、そんな記憶を巡らせながら、クルリを見る。これから答える、クルリの視線はまっすぐだった。
「この100年における母たちの献身により、国家の治安は見違えるほど改善され、飢える民もなくなり、国家との争いもなくなりました。ですから今後は、私の得意な精神治癒魔術を用い民の心を豊かなものにできないかと考えております」
またしてもざわつく会場。
「やはり、聡明な娘だ。視野の広さも持ち合わせている。完璧じゃないか!」
「ここ、100年で最高の仕上がりだな!」
自分をほめる言葉であふれている。褒められて顔がにやにやするのを抑えるのが精いっぱいのクルリである。
しかし、まだ国王陛下の顔は渋いままだった。
「クルリよ。これが最後の質問だ」
「はい、国王陛下」
「もしも、私が
かつて、魔女のいない世界は混沌としていた。暴君が人民を抑圧し、飢えに苦しむ民を横目に贅沢をし、反抗心を抱くものには抵抗する心を奪うまで重税と懲罰を科したという。
今ここでは、もしそうなったとき、クルリは国王をどうするのか国王自身に問われているのである。
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