12 崩壊


 三人の師匠たちは、引き続き屈強な男たちの目的について査問していた。


 勝利「それで、その隣のハンサムな彼は?」


 眼鏡をかけた几帳面きちょうめんそうな男であるが、腕には三つの筋が走り筋肉のふくらみがはっきり分かった。


 クル「護衛もできる秘書官です」


 勝利「秘書も雇っているの?」


 クル「はい、私のビジネスは毎月金貨10万枚にも及びます。依頼人との取次もとてもたくさん必要なため雇いました。もちろん、いざというときに備えて日ごろから鍛錬を欠かしておりません!」


 勝利「ふーん」


 創造「その左から2番目の彼、私の好み…ではなく、何の役割なの?」


 クル「護衛もできる猫専育員です! 全国各地に事務所を持っておりますので、支給用の猫ちゃんたちを彼が育てております。もちろんいざというときに備えて日ごろから鍛錬しております!」


 創造「へぇー」


 絶対「一番右端の人は?」


 護衛騎士っぽいよろい姿すがたの彼を指して言う。


 クル「その人は護衛もできる護衛騎士です。私の財産はもはや莫大ばくだいになっておりますので護衛は必要不可欠。もちろん、いざというときに備えて日ごろから鍛錬をしております」


 絶対「護衛兼任ではなく、護衛騎士そのものではなくて?」


 クル「あ、確かにそうです!」


 絶対「なのに、帳簿を見ると彼にも兼任けんにん護衛ごえい手当てあてが付いているのね?」


 クル「それはその…」


 絶対「そういうの、ちゃんとした方がいいと思うわよ~」


 クル「社長の私がいいって言ったからいいじゃない! 私は母さんたちと違って魔女の過ちを犯さない自信があります!」


 魔女の過ち、これは魔女というこの世界で最大の名声を手に入れてしまった人が必ず歩む道。それを、経験し乗り越えるために修行があると言っても過言かごんではない。魔女は決して無敵ではないことをしっかり学んでいるかどうか。それはもちろんクルリににも問われているのである。


 創造「クルリ、良いですか。落ち着いて聞きなさい」


 勝利「あなたはもうだいたいの過ちを犯しています」


 絶対「最年少でかつ過去最悪の失態よ」


 クル「いや、うそでしょ?!」


 創造「嘘ではありません。ね、ヴィクトリア」


 勝利「えぇ、彼らの本音を暴いておやりなさいアブソリア」


 絶対「やれやれ…魔女使いが荒いですね…」


 クル「何をしようっていうの? 彼らは私に絶対の忠誠を誓う最強の護衛もできるサーバントたち。そんな簡単に私たちの絆は崩れないわ!」


 クルリの兼任護衛騎士たち全員が戦闘態勢ともとれるポーズをする。部屋に充満する戦意で査問委員会の空間に熱気がみるみる広がっていく。充満する汗臭さ。


 兼任「クルリ様、ここは私たちがお守りいたします。下がってください」


 クル(あ、このシチュエーションいい!)


 夢見心地のクルリに対して母であるアブソリアが立ちはだかる。


 絶対「いい、クルリ。男ってのがどんなものかよくお勉強なさい!」


 絶対の魔女アブソリアは、再び嘘をつけない呪文を唱え、一人一人に次のようにたずねた。


 絶対「あなたたちはクルリのことどう思っているの?」


 男たちからたぎる熱気が急に消え温まりつつあった空間にまた冷たい冷気が流れ始める。兼任護衛騎士たちは魂が抜けたような顔をするようになった。


 会計士「正直、金払いが良いからついて行くだけです。生意気な娘の護衛をするくらいならそのまま逃げようと思っております」


 クル「えっ、セバスティアン。何を言っているの? いつも、命がけで守ってくれるって言ってたじゃない!」


 会計士「そう言っておけば喜ぶからそうしているだけ。実は黙っておりましたがすでに妻と娘がおりますので、命はそっちに捧げます。実にチョロい娘です」


 クルリは心に五十のダメージを負った。


 秘書官「私もお金をくれるならだれでもついて行きます。今はたまたまこいつというだけです。特にクルリ様のことはなんとも思っておりません。私に命の危険があれば降参して逃げます」


 クル「ええっ!」


 クルリは心に追加で百のダメージを負った


 飼育員「そもそも、僕は人間に興味ありません。僕の猫と一緒にいられるなら何でもいいです。小娘の相手は苦痛な業務の一つでした」


 クル「ええええええっ!!!!」


 クルリの心のライフはゼロになった。クルリは床に膝をつき、うなだれる…。


 護衛騎士「正直、遊ぶ金欲しさでやった。稼いだ金は町のギャンブルや娼婦につぎ込んだ。そのためには靴でもなんでも舐めた。反省はしていないし、悪いとも思っていない。搾り取れるだけ搾り取ろう灯っていた。あと、俺はこの小娘には一切興味がなかった」


 クルリはついに床に伏した。


 絶対「はい、あと九人にも聞くからね!」


 査問室にはクルリの魂の叫びが木魂こだましたという。耳を塞ごうとも、絶対の魔女の魔法により脳にその声が直接届くようにされ、それぞれの男の本音を聞くたび、時にあおむけで絶叫ぜっきょうし、耐えきれなくなるとうつぶせに寝ころび嗚咽おえつをもよおすほどだった。


 この様子はまるで悪魔祓いでもしているかのようだと記録されている。




 クル「わ、私が間違っておりました。お願いします。許してください…」


 創造「ようやく認めたましたね。では、懲罰を勝利の魔女より宣告します」


 勝利「被告人クルリは、我々査問委員会に対して深い反省の念を示すこと」


 クル(なんだ、反省したふりで良いのね)


 勝利「そのため、次回の魔女審査委員会まで、クルリの魔力を封じることとします」


 クル「え?」


 勝利「つまり、しばらく魔法なしで頑張りなさい」


 クル「えぇぇぇぇ~~~~~~~~!!!!」

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