11 クルリのユートピア


 クル「母さんたちこそ、これまでたくさんの過ち犯して来たのだから、私のやっていることに口出ししないでください! Q.E.D.」


 査問員会内ではため息に近い重たい呼気のみが聞こえた。どんよりとした雰囲気。クルリが勝利を確信して強気の言葉を吐いたために他ならない。



 ゆえに母たちの目がとうとう本気になってしまった。

 


 創造「では、そろそろ本番と行きましょうか」


 勝利「クルリ。事業計画には中年とあるけれど、救っている男は二十~三十歳なのね。中年というには若すぎないかしら?」


 クル「そ、それはその…あっ、被害の深刻さを鑑みて優先順位付けした結果このようになっただけであり、決して私の好みとかで選別はしておりませんよ」


 絶対「好み?」


 絶対の魔女である母さんが反応をする。妙に勘のいい母は、絶対の魔法を使った。


 絶対「汝クルリよ、そなたは私の前では本当のことしか絶対に言えなくなる」


 そして、母さんの瞳が大きく見開かれ、私に今一度問いかける。


 絶対「もう一度聞くわ。あなたの好みで選別してないのかしら?」


 この言葉にあらがいたくて仕方ない脳の細胞が一斉にわめくも。母の絶対の魔法にはあらがえない。それが絶対の魔女の力。


 クル「いいえ、優先順位は私の好みに沿うようにつけております。中年たちは興味ないので切り捨てております。私の好みは、ちょっとワイルで整ったひげとしっかりしたあごの骨格の男性を優先して選んでいます。濃い感じが私にとっては背伸びしている気持ちになってたまらなかったのです」


 今の言葉を吐き出し、クルリは地にひざをつく…。苦しい。なぜか苦しい。正義を気取っていたのに、公私混同していたことが暴露される気持ちは、どうしてこんなに苦しいのか。いや、自分の好みの部分を暴露したから苦しいのか? そんな細かいことなんてどうでもいいけど、今すぐ消えてしまいたくなるクルリだった。しかし、


(こんなところで自分が築き上げたユートピアを壊されてたまるものですか!)


 と、気持ちを立て直す。


 勝利「はい続いての諮問。初年度会計報告書の営業外損益の雑支出細目にある『靴費』に金貨四千枚使っているけれど、具体的内容を答えよ。あなた靴を集める趣味なんてなかったわよね?」


 クルリは目が点になった。クルリに細かい会計はわからぬ。会計報告書は護衛も兼任できるイケメン会計士のセバスティアンにつけさせていたから、セバスティアンのほうをちらりと見た。


 クル「会計をセバスティアンが担当しております。彼から事情を聴いてもよろしいでしょうか?」


 うまくやるようにセバスティアンに視線を送りつけるクルリ。セバスティアンの頼もしくも優しい微笑みを見て安心する。が、しかし…。


 絶対「あんたも、絶対の魔法かけておくわ」


 と、絶対の魔女によって嘘がつけない体にされてしまう。


 セバ「該当の『靴費』は正式には『靴ぺろ費』とされていたものです」


 一同「靴ぺろ費!?」


 絶対「それってもしかして?」


 セバ「はい、クルリ様の靴を舐めるといつでも金貨一枚がもらえる制度でありまして、どうしても金に困っている中年男性に話をけしかけては、わらいながら靴を舐めさせておりました。クルリ様の将来がたいへん心配になるような立ち振る舞い、わたくしも困惑しております」


 創造「本当なのクルリ?」


 答えたくない! なのに体が全くいうことを聞かない!


 クル「はい。本当です。私は三人の師匠に長年いびられて生活していた反動で支配しはいよくえておりまして、たった金貨一枚で中年過ぎたいい大人がひざまずきながら無様に言うことを聞く様子を見て興奮を覚えるようになってしまっていました」


 お、恐るべし絶対の魔法…


 勝利「それで、悔い改めるつもりは?」


 クル「つい出来心で始めました。ですが、今この瞬間でも反省はしておりません。というか、お金で人の心を買っちゃいけない決まりってないじゃないですか! だから、私悪くないです!」


 三人の師匠はお互いにちらちらと視線を交わして確認する。


 一同(これは…もう黒だな)


 師匠たちはそう思いながらも、クルリに最終確認を行う。


 勝利「では、クルリ。最後の諮問です。あなたが連れているこの十三人のイケメンたちの役割を説明なさい」


 今まで陰に隠れていたイケメンたちにスポットライトが当たる。闇に浮かび上がる十三人の屈強な男たち。クルリは彼らを使って一体何を考えていたのだろうか?


 絶対「まず、聞くけれど、この人たちに反転魔法は使ったのかしら」


 クル「いいえ、彼らは最初から美しき心を持っていたので使っておりません」


 一同「あぁ~、それは不味いわね」


 クル「どういうこと」


 絶対「まあいいわ。まずはセバスティアンについて説明なさい」


 クル「彼は先ほど紹介した通り、護衛もできる会計士です」


 セバスティアンが顔を上げる。整った顔つきに鍛えられた筋肉。そんな彼が笑顔を見せる。


 絶対「それで、ちょっとあなたに聞きたいのだけど…」


 セバ「何なりとお申し付けください」


 セバスティアンは丁寧にお辞儀を返す。


 絶対「まず、あなたの毎月の報酬ほうしゅうがくはいくらかしら?」


 セバ「はい、会計士として毎月金貨五十枚、護衛ごえい兼任けんにん手当てあてとして金貨百枚となります」


 絶対「つまり、毎月金百五十枚の報酬を得ているわけね」


 セバ「はい、クルリ様のためですから」


 クル「そうよ、一人で二人分仕事しているんだからお得でしょ!」


 絶対「一般男性の四倍くらいの報酬を得てるけどね!」


 クル「イケメンだからいいでしょ!」


 絶対「…」


 勝利「…」


 創造「ちょっと、二人とも黙らないでよ」

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