10 母はクルリにお灸を据えたい


「私。おば様たちよりうまくやっていると思いますよ」


「反省の色がないようね。いいわ、査問さもん委員会いいんかいを開催します」


 クルリは時空じくう転移てんい魔法まほうで吸い出され魔女の査問委員会が始まる。


 この場所には、創造の魔女、勝利の魔女、絶対の魔女の三人が勢ぞろいしていた。三人がクルリの前に立ちはだかり取り囲むように並んでいた。


 中央に立つ創造の魔女であるゼロおばあ様が口を開く。


 勝利「この査問結果によって、あなたは罰を受けることもあります。良いですね」


 絶対「ここでの決定は絶対よ。覚悟なさいクルリ」


 創造「ここに、見習いクルリの査問委員会を始めます」


 罰を受けることになると、お仕置きをされたり、敗北はいぼくの紋章を打ち込まれ数か月間はその約束を絶対守らねばならなくなる。


 ここで忘れてはならないことは、頻繁ひんぱんに査問委員会は開かれており、クルリも過去に二回お仕置きされたことがある。



 一回目の罰は、クルリと一緒に遊んでいたマヒロ君という男の子に対して、当時は十分な臨床実験をしていない性格反転魔術を試してしまった時である。


 反転魔術は心の衝撃(物理)と魔法の注入タイミングが非常に繊細せんさいであったため、マヒロ君の性格が中途半端に変わってしまった。反転魔術なので、理論上は二回反転させると元に戻せるのだが、マヒロ君は残念ながら戻すことはできず、体は男の子だけど心は女の子という「男の娘」状態になってしまったのである。


 その時は普通にマヒロ君の実家に謝りに行った。


 ご両親は「もともと女の子っぽいところありましたけどね」と、笑顔で許してくれたけど、きっと本当は複雑な気持ちだったんだろうなと罪悪感を今でも持っている。ただ、かわいい服を身に纏ってどんな女の子よりもかわいくなったマヒロ君は、クルリが見てきた中で一番輝いてもいた。非常に複雑な気持ちである。



 二回目は、クルリが九歳の時受けた査問とその刑罰である。


 当時、シングルマザーの母は毎週火曜日には家を空けてどこかに出かけていた。クルリが成長して手間もかからなくなったから城下町へ遊びにでも出かけていたのだろう。魔女の一族はみんなこんな感じなのでクルリ自身もあまり深く考えていなかった。しかし、母がいない隙にちょっと大人の香りがする化粧品とかシャンプーとか試したくなってこっそり使ってみたことがある。


 ――その中に、試作のれ薬が紛れ込んでいた。


 クルリは惚れ薬の感染に気付くことなく普通に城下の学校に通ってしまった。惚れ薬の潜伏期間は一週間。クルリを通じ学校から各家庭へ伝搬。ひと月後には町で惚れ薬パンデミックを起こし、城下が少女漫画みたいに色恋沙汰に飢えた人たちで溢れてしまったのである。


 あの時は、町の広場にある処刑場に吊るされて公開おしりぺんぺんとか言う時代を感じる超古臭い方法でお仕置きされて、クルリがたまに夢に見るほどトラウマになっていた。


 まぁ、かくいう惚れ薬作っていた母さん(当時三十二歳)も一緒に同じ刑罰を受けて、二度と男遊びできない恥を植え付けられてしまったのだけど…。



 とにかく、査問委員会とは魔女の過ちを戒める恐ろしい場所である。ここで勝たねば、また何をされるかわかったものではない。


 勝利「クルリ、まずはあなたが今している修行の内容を説明なさい」


 クル「はい。近年は魔女の台頭で女性の権力が高まり、相対的に落ちこぼれた男性たちが社会を乱す根源となっております。そんな恵まれない中年被害男性たちを救うために私の事業は存在しているのです。さあ、人生も半ばだとあきらめずわたくしクルリにご相談ください。人生のV字回復お約束いたします!」


 絶対「助けるのは男の人限定なの?」


 クル「今はそうですが、いずれ支援の手が拡大されれば。そう遠くない将来には女性にも支援の手を広げられないこともないと考えております」


 絶対「なるほど、男意外に広げるつもりは今のところないと」


 クル「はい。おっしゃる通りです。とにかく今は手が足りていないのです」


 勝利「ちまたでは救った男を売り飛ばす奴隷商みたいなことをしているという噂があるが?」


 クル「噂は噂にすぎません。私は転職の斡旋をしており、移籍金として転職者の得るであろう給与の三か月分相当を受け取っているだけです。これは、一般的かつ正当な報酬の算出方式です。支援対象者の心のケアだけでなく、無職であることが多いため就職サポートも手厚く行った結果にすぎません」


 その後も、クルリは母たちの追及を乗り越えていく。


 クル「私はこのビジネスにおいて何一つ世界の価値を棄損せず、私と顧客と取引先、すべてにおいてウィン・ウィンの関係構築を果たしていると自負します」


 そして、そろそろ質問も出尽くした頃合いである。順調に交わしていたクルリはまたも調子に乗る。


 クル「母さんたちこそ、これまでたくさんの過ち犯して来たのだから、私のやっていることに口出ししないでください! Q.E.D.」


 クルリは勝利を確信していた。


(今の私を裁く理由などない!)


  

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