第四章 抜け殻の魔女
13 やさぐれの魔女
封魔の刻印。クルリ背中に刻まれた印は、実のところ魔法を封印しているわけではない。もし、この刻印が施されたまま魔法を使うと査問委員会に対して通知が届き、処分となる。
現代日本で例えるなら、執行猶予に等しい。監視装置付きで世間に戻され再び悪さをしたら実刑となるのだ。
査問から数日後…
夜が更け、客も静かになってきたころ合いのバーにクルリはいた。
「マスター、もう一杯…」
「お客様、もうその辺にしといたほうが良いかと思います」
そう言われたクルリだが、引き下がらない。
「客が欲しいって言ってるんだから出しなさいよ!」
「そんなに冷たい牛乳ばかり飲むと、またお腹がぐるぐる鳴りますよ」
「じゃぁ、ホットで」
魔法を封印されてからというもの、クルリは見事にやさぐれていた。
「ところでクルリちゃん。今日はお金持ってきたんだろうね?」
「えぇ~子供からなけなしのお金はぎ取らないでよ~」
そう言いつつ、銀貨1枚と銅貨12枚をちまちま数えてお店のつけを払うクルリ。それを数える酒場のマスター。
「うん、しっかりあるね」
「はぁ~」と、大きなため息をつくクルリ。
「それで、今は何の仕事しているの?」
マスターは心配していた。前は前で尋常ではない羽振りの良さで心配だったが、力がなくなったらそれはそれで心配であった。
クルリはまた頭をうなだれるように、柔らかいほほをカウンターにぺったりとつけてぶつぶつつぶやくように語り始める。
「今は、配送業かな…」
「配送業?」
魔法がなくなったとはいっても、変幻自在の槌や、ドラゴンボーンの箒などは健在。なので、それらアイテムの持つ効果を活用して何とか食いつなぐくらいはできた。
クルリが魔法を失って最初に始めた仕事はハンターだった。変幻自在の槌を遠距離攻撃モードに変えて、箒で飛びながらモンスターを討伐することで安全に狩りができた。
「最初は順調だったんですよ!」
「なんで、ダメになったんだい?」
クルリは一瞬顔を上げる。しかし、すぐにまた頭をうなだれ、ほほをカウンターにぺたりとつけた。
クルリは調子に乗ってあたりの魔物を狩りすぎてしまった。その後、討伐依頼が激減。同業者である別のハンターから嫌がらせを受け、乱獲をしているという理由でハンターギルドからも契約を拒否されるなど、対抗措置を取られてしまったのだ。
「よってたかっていじめなくてもいいじゃない! もう、ほんと明日から何して生きていこう」
「まぁ、彼らは、生活がかかってますからね」
人間とは難しい、同じ仕事を生業にすると、時には協力関係を構築できるが、たいていはライバル関係である。誰かがやっていることを魔法でパパッと上書きするようなことをすると、途端に町の人々に怒られてしまう。
「けっ、邪魔する奴はみんな死んじゃえばいいのに」
「君、民のために頑張るんじゃなかったのかい?」
「あの時はあの時、今は今です」
「それで、今度は配送業を始めたってことなんだね…」
クルリが次に始めたことは配送業だ。ドラゴンボーンの箒は丈夫で例えば大きなグリズリー(熊)の死骸を持ち上げることもできたほどである。
「まぁ、山の上とかの町に配送したら喜ばれるかと思って始めてみた」
クルリは特に荷馬車での移動が難しい山の上の集落へ町にターゲットを絞って特産品の配送をすることで大儲けしようと考えたのだ。
「それで、配送業はどうだったの?」
「昨日、鞄の中で寝てたら同業者に放火されました」
ボロボロに焼け落ちた虚空の箱庭トランクをマスターに見せるクルリ。
「災難だったね」
「大して稼げない上に命狙われるとかないわ~」
配送業もまた、すでにライバル社が存在する。彼らの生活の糧をクルリが介入し干渉することで壊してしまう。
「あー、やっぱ魔法欲しい…チート使って楽して稼ぎたい…」
と、まったく反省していない様子のクルリ。
「でも、失って見つけたものとかないのかい?」
マスターの問いかけに対して、クルリはまた顔を上げた。
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