04 四つの贈り物
クルリに差し出された贈り物は金貨を除いて四つ。それぞれ、
「それで、クルリよ。ほかの四つも開けてはくれないか? 旅に役立つものを取りそろえたつもりだ」
「感謝の言葉もありません」
と、丁寧さを取り繕うも、十三歳の少女はやっぱり興味津々な様子だった。
「早速中身を拝見させていただきます!」
一つ目の包みを開けると…。銀色の不思議な結晶塊が入っていた。
「それは、変幻自在の槌にございます」
その槌は、術者が思い描いた形に変化する不思議な槌。クルリが触れながら大きなハンマーを思い描いて念じると結晶が流体のように形を変えて、思い通りの形に変わるのだった。
「いい感じ!」
クルリがその場でハンマーを横薙ぎに振ると、風を切る音がブオンと響いた。
「聞くところによると、そなたは
「はい、精神操作魔法には心に衝撃が必要でして、槌で頭をガツンとやるのが一番早いのです」
(心の衝撃は物理でいいのか?)
続いて、二つ目。置いてあるのは
「それは、
少女が入れそうなほど大きな口のトランクを開くと、中に小さな小屋のジオラマが入っている。静かな湖畔の森に佇む小さなログハウスであった。
「まぁ、素敵なおうちです!」
「うむ、このトランクがあれば野宿せずに済むのでな。最近は宿代も高いと聞く」
(これで、寝ぼけた魔女(勝利の魔女)が野原で天変地異を起こすこともなくなるし…)
「お気遣い感謝いたします!」
「続いての贈り物は…」
「そちらは私たち商業ギルドの贈り物となります」
そう言って前に出てきたのは職人ギルドの女マスター。ブロンドの短髪で爽やかながら色っぽさも腹黒さも併せ持っている、二癖くらいありそうなビジネスウーマンである。
「それは、ドラゴンボーンの
見た目はものすごく細い箒であるが、持ち上げると確かにずっしりとした感触があった。
「ドラゴンの骨だと何かいいことがあるんですか?」
「ズバリ! 飛んでいる姿勢が格好良くなります」
「かっこいい?」
「旧来の竹箒ですと、搭乗時に箒が体重に負けてくにゃりとしなります。この状態ってとっても重たそうに見えますよね。『ぷぷ、あんなに箒をしならせてかわいそうw』とか密かに町行く人に噂されてしまうんです」
「えっ、そんな噂してるの?!」
「はい、しているんです。でも、ドラゴンボーンは違います。まったくしならず、ピンと真っすぐ張ってしならないから、術者がとても軽く見えるのです」
クルリは早速、箒を宙に浮かべぴょんと飛び乗って確かめる。
「なるほど! 本当にしっかりしてる。いいですよこれ!」
ギルドの女マスターは、にこやかな笑顔のままクルリに勧める。
「とってもお似合いですよ」
「ありがとうございます」
「そして、最後の贈り物である『衣』も我々から進呈させてください」
クルリは箒からぴょんと飛び降りる。正直、一番気になっていたものである。マネキンに着せられた魔導士の服…
「これってもしかして…マジックピークの…」
「さすが、クルリ様。お目が高いですね」
王都一の旅人ファッションブランドであるマジックピークが提供するクルリのための魔導服。魔女という存在は珍しくも知名度抜群。わかりやすい三角帽子も特徴であることから、その宣伝効果が高いことも女マスターはわかっていた。だからこそ無料で提供することにしたのだ。
「オフショルデザインでちょっと大人っぽいローブ。派手過ぎずアクセントになるチェック模様がかわいさを引き立てる! シンプルで涼しげなブルーのノースリーブミニワンピ。ベルトやリボンと合わせてお気に入りコーデを見つけてみましょう!」
「めっちゃ、かわいい! ありがとう!」
クルリは年相応の、うれしそうな顔をするのだった。
それを見て王様は思う。
(やっぱり、年頃の子にはこういうものの方が喜ばれるのか…)
この世界は魔女によって秩序を得た。故に魔女は尊い存在とされているのだ。しかし、どんな魔女もまた、辛い見習いの旅の果てに魔女となるのである。
「クルリよ、旅の無事を祈っておる。立派な魔女になるのだぞ!」
「ありがとうございます。クルリ、行ってまいります!」
こうして、クルリは旅に出るのだった。期待される分、魔女になるのも厳しい修行が必要なのである。
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