第31話 アリア様のお世話係(雑談相手)
私、クレハ・フラウレンは執事服のリュートくんと戯れた後、職場体験における本来の仕事に戻りました。
アリア様のお世話係です。
まあ、お世話と言っても名ばかりです。
実際にアリア様のお世話をするのは日頃から専属でその任についているメイドの方が務めます。
私の役目は、メイドの方々に身支度を整えられているアリア様とお話しすること。
要するに暇つぶしの相手です。
「そういえば、クレハ姉様の言うとおりにしてみたらうまくいったよ!」
王宮内にあるアリア様の部屋にて。
アリア様は鏡台の前に座って、今も3人のメイドたちに髪をセットされながら化粧を施されています。
メイド服を着た私はその隣に椅子を置いて、話を聞いていました。
隣には、同じくお世話係のフレデリカさんも座っています。
……彼女がメイド服を着ていないのはどういうわけでしょう。
もしかして私だけハメられましたか、これは。
「うまくいった……とはもしかして、今回婚約する王子様とのことですか?」
「うん。姉様が言ってたとおり、素直になって話してみたらお互いの誤解が解けたの! 私たちは嫌いあってると思ってたけど、実は両想いだったみたい」
「おめでとうございます。だからアリア様はご機嫌だったのですね」
私は喜ぶ一方で、別の感情も抱いていました。
アリア様の恋がうまくいったことは嬉しいです。
嬉しいのですが……。
せっかくできた妹のようなかわいい女の子の気持ちが、他の人に向くというのはなんというかモヤモヤします。
「まあ、アリア様はお人形のようにかわいらしいですし、お相手の方も好きになって当然ですね」
「へへ、そうかな?」
アリア様は嬉しそうにはにかみます。
この笑顔を見ていたら、妙な気持ちはすぐに吹き飛んで、応援したい気持ちに変わりました。
私では熟練のメイドさんのようにアリア様の身支度を整えることはできませんが、今のところ話し相手としての役割は果たせていると思います。
フレデリカさんもいますが、基本的には黙って様子を見ているだけです。
私がいるから充分だと思っているのでしょうか。
「ところでクレハ姉様はリュート兄様とはどうなの?」
ふと、アリア様が話題を変えました。
「どう、とは」
「仲良くなれた?」
「元から仲良しですよ。最近も順調です」
私がそう言うと、横からフレデリカさんの笑い声が漏れ聞こえてきましたが気にしません。
「順調って……具体的には」
「具体的なことは……アリア様が相手でもさすがに言えません」
風邪で寝込んでいるリュートくんにこっそりキスをしたなんて、誰かに言えるはずがありません。
「じゃあ、兄様と恋人になった?」
「それは……」
「まだなんだ」
アリア様に呆れられてしまいました。
が、すぐにアリア様は何かを思いついたような顔をします。
「だったら、今回のパーティーでくっつくしかないよ!」
「アリア様、立ち上がらないでください」
「あ、ごめん」
アリア様がポンと手を叩きながら立ち上がろうとすると、髪をセットしていたメイドから叱られてしまいました。
「そう言われても私は今回、招待客ではなくアリア様のお世話係ですから」
「でも、パーティーの最中にちょっとリュート兄様と会う時間くらいは作れるでしょ?」
「まあ、その気になれば……そうですね」
「だったら、何かしら口実を作って二人きりになるべきだよ! そうしたら、後はリュート兄様の方からきっと……」
アリア様はその先は口にせず、頭の中で想像を働かせていました。
「なるほど……だからと言って私がリュートくんに二人きりになりたいと誘えるかは別の話です」
「変なところで意志が強いですわね……」
きっぱりと言う私の隣で、フレデリカさんがボソリと呟いていました。
「姉様が直接誘えないなら……私がきっかけを作ってあげるね!」
「アリア様が、ですか?」
なんだか、状況が引っ掻き回されそうな予感がします。
「アリア様は本日の主役なんですから、あまり変なことは……」
「でも、リュート兄様と恋人になりたいでしょ?」
「……否定はしません」
「姉様は兄様のことが好きなんだよね?」
「まあ……はい」
なんでしょう。
素直な質問にそのまま答えているだけなのに、やたらと恥ずかしいです。
「そして、兄様も姉様のことが好きなんだよね」
「おそらくは……少なくとも、私はそうだといいなと思っています」
「じゃあ……!」
「だとしても、アリア様は何もしなくていいですからね」
「えー……善処はするね」
一応アリア様は引き下がってくれたんでしょうか。
でもどこか釈然としない様子です。
私はそんなアリア様を見て、何かが起こる予感を抱いていました。
◇◇◇◇
というわけで次回はまたアリアが何かをするようです。
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