第19話 クレハ・フラウレンは親友にのろける
すました顔でリュートくんからのプレゼントを受け取った私、クレハ・フラウレンは内心とても喜んでいました。
正直、ベンチに座ったまま足をバタつかせたい気分でした。
今世の私は貴族の令嬢なので、はしたないことはしませんけど。
「でも、あれは結構大胆だったでしょうか……?」
リュートくんにネックレスをつけるようお願いしたり。
髪をたくし上げて無防備な後ろ姿を見せたり。
「それにしても、リュートくんはいいセンスをしていると思うんです」
私が大好きな、猫がデザインされたネックレスをプレゼントしてくれました。
嫌われているかと思っていましたが、実はそうではないのかもしれません。
弁当作戦が功を奏したのでしょうか。
「嫌いな人にプレゼントを贈ったりはしませんよね?」
やはり、将来リュートくんと結婚したら猫を飼いたいです。
なんて、未来の家庭を想像してみたり。
そんなことを考えていたら、リュートくんとなんだかいい雰囲気になってきて。
もしかしたら……と思っていたら王女様がやってきました。
大変無邪気な女の子で、勢いよくリュートくんに抱きついていました。
今はリュートくんに懐いているだけに見えますが、彼女が恋心を自覚する日も近いはずです。
それであのど直球な素直さ。
「私みたいなツンツンとしたかわいげのない女よりも、かわいらしい年下の女の子に靡いてしまうかもしれません……」
相手は王女様ですし。
悔しいですが同性の私でも見惚れてしまうくらいの美少女でした。
「どう思いますか? フレデリカさん」
放課後。
ミルシア地区にある学生向けのカフェにて。
私はフレデリカさんに、惚気……ではなく悩みを聞いてもらっていました。
「ツンツンとしたかわいげのない? クレハさんが?」
フレデリカさんの不思議そうな反応を見て、私は思い出します。
私とリュートくんは、他人にはいちゃいちゃカップルとして知られていました。
「もしかして、まだ喧嘩しているのですか?」
「実は、そんな感じです」
「個人的にはそうは見えませんが……」
フレデリカさんは私の話にピンときていない様子です。
「そうですか?」
「はい、お二人の仲は順調に見えますわ。他の女性に靡くなんて想像できません」
「でも、アリア様に限らずリュートくんに思いを寄せる女の子はきっと多いです」
「だとしても、リュートさんがクレハさん以外の女性に興味を持つとは思えませんわ」
「分かりませんよ? 結婚した後だって、きっと魅力的な女性が次々とリュートくんに言い寄るはずです!」
「ふーむ」
フレデリカさんは、私を見て何やら考え込む仕草を見せます。
「どうしましたか?」
「クレハさんは彼を信用していないというよりは、自分に自信がないだけなのかなと思いまして」
「そんなつもりは、ないんですけど……」
「素直に『好きだから他の女の子と親しくしすぎないでほしい』とお伝えしたらいいのでは?」
「そ、それができたら苦労しません!」
「はぁ……そういうものですか」
フレデリカさんにため息をつかれてしまいました。
なんだか呆れられている気がします。
「何か、リュートくんと仲良くなるいい方法はないでしょうか?」
「うーん、結局クレハさんの気持ち次第ではないかと思いますわ」
フレデリカさんの対応はどこか投げやりです。
私は腑に落ちないものを感じながらも、考えます。
「何か、きっかけになるようなイベントがあればいいのですが……」
「イベントと言えば、もうすぐ初めての定期テストがありますわ」
「言われてみれば、そうですね」
自分で言うのもなんですが、私は元々成績優秀です。
しかし最近はリュートくんとのことに気を取られすぎて、少しだけ不安があります。
「あまり恋愛ばかりに集中している場合ではないかもしれませんよ」
「確かに……いえ、待ってください」
「どうしましたか?」
フレデリカさんが、例の生温かい視線を向けてきます。
先ほどまで呆れられていたと思ったのですが……。
一周回って面白がられている気がします。
私としては真剣なのですが……まあいいでしょう。
「テストと聞いて、いい作戦を思いつきました」
「作戦、ですか?」
「はい、うまくいけばリュートくんと恋人になれます!」
「そうやって周りくどいことをしているから、不安になるのではないでしょうか……?」
得意げに私が言うと、フレデリカさんは苦笑しました。
意味はよく分かりませんが、私はもう決めました!
作戦決行です。
さっそく明日、リュートくんに話を持ちかけてみましょう。
◇◇◇◇
そんなわけで、次回は素直になれないクレハが色々と策を弄する話です
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