バレンタイン特別編 後編
現代日本で言うところの、バレンタインデー当日。
俺はクレハから手作りチョコをもらえることになっている。
今日は平日なので、普通に授業がある日だ。
朝、いつも通り寮の前でクレハと待ち合わせた。
「おはようクレハ」
「おはようございます、リュートくん」
真冬の朝とあって、寒がりなクレハはかなりの重装備だ。
寮から校舎に向かうまでは徒歩五分程度の距離しかないのに、制服の上から分厚そうな毛皮のコートを着て、首回りには口元が隠れるくらいマフラーを厳重に巻いている。
やけにもこもこして、小動物のようだ。
「では行きましょうか」
「あ、ああ」
クレハのことだから、既にチョコは準備してあるはずだ。
てっきり朝に顔を合わせたらもらえるのかと思っていたけど、違うらしい。
早くクレハの手作りチョコが欲しいところだけど、俺の方から催促するのは気が引ける。
(まあ、その内渡してくれるだろ)
俺は期待に胸を膨らませながら、クレハと一緒に登校した。
○
結局昼休みになるまで、クレハはチョコを渡してくる気配がなかった。
クレハは休み時間の度にそわそわしながら俺を見るばかりだ。
前から手作りでチョコを作ると宣言していたし、今更恥ずかしがることじゃない気がするんだけど……。
昼休み。
冬場は外だと寒いので、空き教室で二人の時間を過ごしている。
俺とクレハは、窓際の席に並んで座り、弁当を食べていた。
「リュートくん、これをどうぞ」
弁当を食べ終わった頃。
クレハが綺麗な包装に包まれた小箱を手渡してきた。
「これはもしかして」
「はい、バレンタインのチョコです」
「さっそく食べてみてもいいか?」
「もちろんです。そのために作ったのですから」
俺は包装を剥がし、箱を開ける。
中には一口サイズのチョコが6個入っていた。
見た目はお店で売っていてもおかしくないクオリティだ。
一つ手に取って、食べてみる。
ほのかに甘くて、苦い。
「ビターチョコか。こういうのもおいしいな」
「それは良かったです」
「でも、クレハはどちらかと言えばもっと甘い味が好みかと思ってたけど」
少し意外に思いながら小箱の中のチョコを眺めていた俺の横から、クレハが手を伸ばしてきた。
クレハはチョコを一つ手に取る。
「実はこのチョコを甘くする方法があるんです」
「……? その方法って?」
「こうです」
クレハは手にしたチョコを自分の唇で挟むように咥えた。
上目遣いで俺の方を見ると、少し顔を近づけてきた。
……まさか、そこから食べろってことですかクレハさん。
キスを待っているような体勢に近いクレハだが、チョコを咥えているとなんだか普通より背徳感みたいな何かがある気がする。
もちろんそんなのは、チョコを食べない理由にはならないけど。
俺はクレハが咥えるチョコをおいしくいただくことにした。
これだけ至近距離だと必然的にお互いの唇が触れ合うことになる。
……なんかもう、チョコを食べているんだかキスしているんだか分からないな、これ。
「……」
少しして食べ終わると、クレハは頬を赤くしてボーッとしていた。
自分から仕掛けてきたくせに、放心状態だ。
「クレハ、こんなのどこで覚えてきたんだ」
「へっ……? あ、その。フレデリカさんから、チョコを渡すときにおすすめの方法があると言われて」
「ああ、なるほどな」
またフレデリカにからかわれたのか。
クレハは親友の影響を受けすぎていて、時々不安になる。
絶対面白がってやらせているだけで、フレデリカ本人はこんなことしないだろうし。
……まあ、今回は感謝しておこう。
おかげで貴重な体験ができた。
◇◇◇◇
ギリギリ日付が変わる前に更新できて良かったです。
次はまた気が向いた時に番外編を書いてみようかなと思います。
余談になりますが、本日から新しいラブコメを公開しているので、良かったら以下のURLから読んでみてください。
『学校の屋上から飛び降りようとしている美少女に「どうせ死ぬなら最後に俺の童貞をもらってくれ」と言ってみたらOKされた。』
https://kakuyomu.jp/works/16817330653190478232/episodes/16817330653191845923
異世界貴族に転生して15年、犬猿の仲のクラスメイトが婚約者に転生していた事実に気づきました りんどー @rindo2go
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