学校の屋上から飛び降りようとしている美少女に「どうせ死ぬなら最後に俺の童貞をもらってくれ」と言ってみたらOKされた。
りんどー
学校の屋上から飛び降りようとしている美少女に「どうせ死ぬなら最後に俺の童貞をもらってくれ」と言ってみたらOKされた。
一学期編
第1話 高校一の美少女で童貞を卒業した。
「どうせ死ぬなら最後に俺の童貞をもらってくれ」
5月中旬、夕暮れ時。
四階建ての校舎の屋上にて。
日課の読書をするためやってきた俺が入り口の扉を開けると、いつもと違う光景が広がっていた。
落下防止のために屋上の縁に設置された柵の向こう側に、女の子が立っていたのだ。
紺色のブレザーにプリーツスカート。この高校の制服を着ている。
長い黒髪が印象的な後ろ姿だ。
柵に手をかけることすらなく、棒立ちしている。
多分飛び降りるつもりだろう。
俺は女の子を引き止めるために、思いついたことを言ってみた。
「は?」
「あ、なんでもないです」
俺は女の子の冷ややかな声にビビった。
振り向いたその顔に、俺は見覚えがある。
一年生の頃から、この高校で一番の美少女なのに誰とも絡まない高嶺の花として有名だ。
成績も常に学年トップの秀才美少女。
現在は俺と同じ2年3組で、隣の席に座っている。
「てか、きみ誰?」
「
隣の席なのに存在を認識されていなかった。
ただでさえ目立たない陰キャの上に顔が前髪で隠れているような奴だからな俺は。
おまけにもう一つ事情があるから無理もない。
「あー、なんか春先に失踪してた人か」
「うん、その人」
そう。
俺は新学期が始まる一週間前から4月末まで、失踪していた。
より正確に言うと、異世界に転移していたのだ。
俺は異世界で数年の大冒険を果たした後、つい最近この世界に帰還した。
二つの世界では時間の流れ方が違ったらしく、帰ってきたら一ヶ月ほどしか経っていなかった。
「なるほどね。じゃあ、きみは何も知らないんだ」
「確かに、市ヶ谷さんが屋上から飛び降り自殺を試みている理由は知らないけど」
俺の言葉に対して、市ヶ谷さんはどこか疲れたような笑みを浮かべた。
「ははっ、はっきり言ってくれるなあ」
「悩みがあるなら聞くけど」
「それ、さっき『童貞をもらってくれ』とか最低な発言をしてた人の発言?」
「あれは言葉の綾というか」
自殺しようとしている人にとりあえず印象的なことを言って止めたかったのだけど、ゴミのような内容しか思いつかなかった。
「まあ、なんでもいいや。今更他人に期待してないし」
「いやいや、ここはとりあえず頼ってみてよ」
「よく知らない人間に手を差し伸べる奴なんて、胡散臭いでしょ」
市ヶ谷さんは俺にジト目を向けてくる。
「人が困っていて、助ける力が自分にあるなら助けた方がいいでしょ?」
俺がそう言うと、市ヶ谷さんは目を丸くした。
「上野くんって意外とお節介なんだね」
少しだけ市ヶ谷さんの表情が和らいだように見えた、その時。
不意に強い風が吹いた。
「あれ?」
落下防止柵の外側に立って後ろを見ていた市ヶ谷さんは、風に煽られてバランスを崩した。
倒れるように前のめりになる。
市ヶ谷さんは、屋上から落ちていった。
すぐに視界から見えなくなる。
「まずい……!」
その光景を目撃した瞬間に、俺の足は自然と動いていた。
普通に考えたら、今から走ったところで落下中の人間に追いつけるはずがない。
でも、俺は普通とは少し違う。
俺は常人を遥かに上回る速度で屋上を駆け抜けると、市ヶ谷さんを追いかけて迷わず柵の向こう側に飛び込んだ。
「間に合え……!」
落下中の市ヶ谷さんに追いつくため、俺は加速した。
明らかに物理法則を無視した動きだ。
あまり多用するべきではないけど、今回は例外だ。
俺は空中で頭から落ちる市ヶ谷さんに追いつくと、その華奢な体を抱きしめた。
このまま華麗に両足で着地……するほどの余裕はなさそうだ。
それでも俺は市ヶ谷さんを庇うことだけは忘れずに、背中から地面に激突した。
「ふぅ……」
背中に当たった感触は固い。
校庭脇の、コンクリートが敷かれた場所に落ちたようだ。
市ヶ谷さんが一人で落ちていたら最悪の事態になっていただろう。
「あれ、生きてる……?」
俺の腕の中で、市ヶ谷さんが呆然と呟いた。
不思議そうに周囲を見る市ヶ谷さんと、目が合う。
冷静に考えると、今の俺たちはおかしな状況だ。
二人で屋上から落下して、校庭の端で抱き合うように寝転んでいる。
今日が部活のない日でよかった。
教師が月一の職員会議をする日なので、校庭には誰もいない。
おそらく目撃者はいないだろう。
「とりあえず、離してもらえる?」
「あ、うん」
俺は言われるまま、抱きしめていた手を離した。
市ヶ谷さんは立ち上がると、俺のことを不思議そうに見る。
「きみ、落下した私に追いつかなかった?」
「俺の方が体重あるし、そういうこともあるでしょ」
「馬鹿にしてるの? 初歩的な物理法則くらい、理解してるから」
俺が自由落下を超えた速度で移動したことは、成績優秀な市ヶ谷さんにバレていた。
だとしても、異世界に行っている間に手に入れたチート能力を使いましたとは言えない。
「なんにせよ、助かったからいいじゃないか」
俺はそんなことを言いながら立ち上がる。
制服についた砂を払い落としていると、視線を感じた。
「上野くん、もしかして無傷なの?」
「いや、制服は破れたり汚れたりしてるけど」
「でも、肉体はなんともないんだ」
「俺って人より頑丈だから」
「ただ頑丈なだけじゃ説明がつかないでしょ。普通なら死んでもおかしくないのに」
「運が良かったんじゃないかな」
そんな言い訳をしてみるが、正直苦しい気がする。
市ヶ谷さんが俺のことを不自然に思うのは当たり前だ。
俺の肉体は異世界で強化されたので、校舎の上から飛び降りた程度はびくともしないが、普通なら死んでいる場面だ。
市ヶ谷さんは、そんな俺を興味深そうにみていた。
「私に必要なのは、きみだったのかも」
市ヶ谷さんは、いきなり俺の手を掴んできた。
「え? 急に何?」
「上野くん、私に童貞をもらってほしいんだっけ」
「いやあれは……」
半分冗談のつもりだった、と俺が言おうとしたのも束の間。
「別にいいよ、私の頼みを聞いてくれたら」
「え?」
なぜかOKされた。
隣の席に座る高校で一番の美少女が、俺の童貞をもらってくれるらしい。
「ちなみに市ヶ谷さんの頼みって何?」
「そんな話、あとでいいでしょ」
あからさまにはぐらかされた。
市ヶ谷さん、さっきは「今更他人に頼る気はない」とか言ってたのに。
俺のチート能力の一部を目にした途端、心変わりしたように思う。
「……絶対何か裏があるだろ」
しかし市ヶ谷さんの提案は、年頃の男子である俺にとって魅力的すぎる。
おかげで、即決で断ることができなかった。
「ここは人助けだと思ってさ。騙されたつもりで話に乗ってみようよ」
「やっぱり騙す気じゃないか」
「じゃあ、また飛び降りてみようかな。次は本当に死んじゃうかも」
市ヶ谷さんは、不敵な笑みを浮かべている。
その笑顔は、さっきまで校舎の屋上から飛び降りようとしていたとは思えないくらい、眩しかった。
「……」
ああ。
市ヶ谷初音って、やっぱり美少女なんだな。
俺は思い知らされた。
「おーい?」
「……自分をダシにして脅すなよ」
見惚れてしまったせいで反応が遅れた俺は、ようやくそんな言葉を絞り出した。
「ふーん……きみってお人よし?」
「薄情ではないつもりだけど」
「そっか。私、上野くんとの交渉の仕方が分かった気がする」
「……? どういう意味?」
何やら納得した様子の市ヶ谷さんを前に、俺は疑問を口にする。
「もう一度飛び降りるかきみの童貞をもらうか。私の選択肢は二つに一つってこと」
市ヶ谷さんはやたらと楽しそうに、とんでもないことを言う。
「……なるほど」
市ヶ谷さんがもう一度飛び降りるのを、見過ごすわけにはいかない。
つまり俺の選択肢は、一つしかなかった。
○
俺は市ヶ谷さんに連れられて、のこのこと彼女の家までやってきた。
市ヶ谷さんは高校生なのに、単身者向けのマンションで一人暮らしをしているらしい。
何か訳ありなんだろうか。
それはそれとして、女の子の部屋に入るのは初めてだ。
最低限生活に必要な物だけが置かれたシンプルな空間だ。
とか考えていたら、窓際に置かれたベッドに押し倒された。
俺は仰向けに寝転がるような体勢になる。
……女の子のベッドって、いい匂いがするな。
感傷に浸っている俺の腰付近に、市ヶ谷さんが跨ってきた。
「……!?」
「シャワーは……まあいいか。じゃあさっそく」
市ヶ谷さんがブレザーを脱いだ。
「あの……市ヶ谷さん? 本気でするつもり?」
「何を今更。上野くんから言い出したことでしょ」
市ヶ谷さんはどこか色っぽい笑みを浮かべながら、シャツのボタンを外し始める。
……さっき抱きしめた時は華奢だと思ったけど、訂正しよう。
市ヶ谷さんは、脱いだらすごかった。
俺はこの日、高校一の美少女を相手に童貞を卒業した。
それだけ聞いたら男なら誰もが羨むような話だろう。
この後明らかに何か要求される流れでなければ、だけど。
◇◇◇◇◇
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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