異世界貴族に転生して15年、犬猿の仲のクラスメイトが婚約者に転生していた事実に気づきました
りんどー
第1章 前世の記憶を思い出した二人が両片思いから脱するまで
第1話 前世の記憶を思い出す
高校二年生の俺……
一人ではない。隣には女の子がいる。
彼女は中等部の頃から五年連続で同じクラスの、いわゆる腐れ縁的な存在だ。
犬猿の仲と言ってもいい。俺と彼女はなんだかんだ一緒にいることが多かったが、いつも言い合っているような関係だ。
いつも通り、ちょっとした口喧嘩を交えながら、同じ方向にある家に向かって歩く。
異変があったのは帰り道の途中、大通りの横断歩道を渡っていた時だ。
信号は間違いなく青だったから、二人とも油断していたんだろう。
呑気に歩く俺と女の子に向かって突っ込んできたトラックを、回避することができなかった。
咄嗟にできたのは、女の子を庇うように、抱きしめることだけだ。
「
そういえば、こいつのことを下の名前で呼んだの、これが初めてだったかもな。
そう思った直後、全身に強い衝撃を感じたのが、俺の最期の記憶だった。
「……っ!? 夢、か」
目覚めた時、俺はベッドにいた。
ここは病院……ではなさそうだ。天井の雰囲気が明らかに違う。
体を起こして周囲を見る。
20畳ほどはありそうな広々とした部屋は、中世ヨーロッパ風の装いをした豪奢な空間だ。
ここは俺……リュート・アークライトの部屋だ。
「うん……? 中世ヨーロッパ? リュート?」
待て、なんだか記憶が混乱している。
俺はリュート・アークライト、大貴族アークライト家の長男として生まれ育った15歳。
現在は通っている学園が春休みなので実家に戻っている。先日中等部を卒業し、もうすぐ高等部に進学する予定だ。
俺は付近に置かれた鏡を見る。
「間違いなく、俺の顔だよな……」
金髪と翡翠色の瞳、婚約者からはよく、整った顔立ちだと褒められている。
日本人離れした容姿だ。
「日本人ってなんだっけ……あ」
その瞬間、俺は全てを思い出した。
先程の夢は、夢ではない。
記憶だ。
前世の俺の、最期の記憶。
俺はかつて、大白竜斗という名前の日本人で、高校生だった。
犬猿の中のクラスメイトと下校中、トラックに轢かれて死んだ……はずだ。
しかし俺は、こうして生きている。
「これって……異世界転生したってことか」
その手の漫画や小説は、読んだことがある。
まさか、自分が当事者になるなんて。
「でも、リュートとして生きてきた記憶はちゃんとあるんだよな……」
俺の頭の中には、これまでの15年間の記憶が確かに存在している。
それに加えて、竜斗として生きてきた前世の記憶が、急激に蘇ってきた。
「つまり俺は……今更前世の記憶を思い出して、異世界転生していた事実に15年も経ってから気づいたってことか」
俺が鏡の前で困惑していると、部屋の扉がノックされた。
「失礼いたします。おはようございます、リュート様。今朝はもうお目覚めでしたか」
「ああ、おはようネリー」
専属のメイドであるネリーが部屋に入ってきた。
ネリーは俺より3歳ほど年上で、メイドではあるが姉のような存在でもある。
「顔を洗ったら、さっそく着替えましょうか。本日は大切なお客様がいらっしゃることですし、いつも以上に気合の入った服装を選びましょう」
「大切なお客様……って誰だっけ」
俺はネリーが持ってきた水桶で顔を洗ってから、尋ねる。
「おや。リュート様がクレハ様との約束をお忘れになるとは珍しい。大切な婚約者ではございませんか」
「あ、そうだ。今日はクレハと会うんだったな」
クレハ・フラウレン。
今世における、俺の婚約者だ。
フラウレン家とは家族ぐるみの付き合いがあり、クレハと初めて会ったのは3歳の頃。
婚約が結ばれたのは6歳の時で、親同士が決めたことではあったが、本人同士も当初から乗り気だった。
俺とクレハは同い年で昔から仲が良く、今は恋人一歩手前といった関係性だ。
「思い出したら急に目が覚めてきた。せっかくだし、今日はこの前クレハと買いに行ったあの服を着よう」
「かしこまりました。すぐに用意いたします」
ネリーは一礼すると、クローゼットのほうに向かう。
一時的に一人になって、俺はふと思った。
(前世の記憶を持った状態で婚約者に会うのって、なんだか気まずいような……)
俺、リュート・アークライトは、間違いなくクレハのことが好きだ。
彼女のことを大切に思っているし、将来的には予定通り結婚したいと思っている。
その気持ちは、前世の記憶を思い出した今も変わっていない。
少しだけ、今までと違うことがあるとすれば。
前世の俺にも好きな人がいたことを、思い出してしまったことだ。
「紅羽……あの時、どうなったんだろうな」
記憶が蘇ったばかりだからだろうか。
転生してから15年も経っているはずなのに、感覚的には最期の事故のことがまるで昨日の出来事のようだ。
あの時、竜斗が身を挺して庇った相手は、助かったのだろうか。
大好きな婚約者と会う日だというのに、頭の中では別の人のことが気がかりで仕方がなかった。
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