第33話 婚約者たちは想いを告げる

 俺はアリアを連れて、王宮内にある庭園に向かった。

 この場所はアリアがクレハに「私がいなくなった時はここで集合ね」と伝えていた場所だ。

 庭園はパーティーが開かれているホールにも近い。

 到着すると、そこには既にクレハがいた。


「クレハ姉様ー!」

「アリア様! いったいどこに行っていたのですか」

「ちょっとリュート兄様と二人きりで話したくて、会いに行ってたの」

「では私とは入れ違いに……?」

「う、うん。そんな感じかな」


 これは多分、クレハがいなくなったのを見計らってから俺に声をかけたな。

 アリアが気まずそうにしていると、メイドが迎えにきた。


「それじゃあ、私は衣装直しに戻るね」

「では私も」

「あ、姉様は兄様とここでゆっくり話していて大丈夫だよ」


 アリアはそう言って、クレハにウインクした。


「アリア様、もしかして……」

「この庭園は、私のお父様がお母様にプロポーズした場所なんだって」


 アリアはそんなことを言い残して、迎えにきたメイドと共にパーティー会場の方へ戻っていった。


「……」

「……」


 俺とクレハは庭園で二人きりになった。

 なるほど確かに、草花が月やパーティー会場の明かりに淡く照らされて、幻想的な雰囲気を作り出している。

 

(……もしかして、俺とクレハはアリアの手のひらの上で踊らされたのか?)


 さっき話していた感じ、アリアは俺とクレハをくっつけたがっている節がある。

 妹のような年下の女の子にお膳立てされるのは少し情けない気はするけど、ここは素直に感謝しておこう。

 確かにこれは、いい機会だ。


「なあクレハ、少し歩かないか?」

「……? ええ、構いませんよ」


 一声かけて、俺とクレハは庭園を歩き始めた。

 まずは、当たり障りのない話題から切り出す。


「今回の職場体験……王宮でのパーティーで仕事するなんて俺たち学生には大役過ぎると思ったけど、案外成功したな」

「はい、みんな頑張ってくれたようですね」 

「ああ。でも俺はやっぱり、クレハが最大の功労者だと思ってる」

「私はリュートくんのおかげだと思ってますよ?」

「俺は風邪をひいていて、半分くらい何もしてなかっただろ。クレハはその間俺を看病しながら実行委員の仕事をしてくれたじゃないか」 

「確かにそうですけど……クラスの皆さんの配置を決めたのと、指導役のネリーさんを連れてきたのはリュートくんではないですか」


 俺とクレハは、なぜか張り合うようにお互いを褒め合った。


「なんだかんだで、俺たちはいいコンビだったってことなのかもな」

「……そうかもしれませんね」


 クレハは小さく笑みを浮かべながら同意した。


「もっとも、私たちがいいパートナーであることは、前世から証明されています」

「そうなのか?」

「はい。昔、文化祭の実行委員を一緒にやった時も大成功でした」

「あの時は、校内で一番のクラスとして表彰されたんだったか?」

「はい」


 クレハは得意げにうなずいた。

 確かに、俺とクレハはお互いの人柄や仕事のやり方を把握していたからこそ、阿吽の呼吸で今回の職場体験というイベントを進行することができた。


「俺は、クレハがパートナーで良かったと思ってる。実行委員のこともだけど、何より君が婚約者で良かった」

「そう、ですね。私も同じです」


 俺とクレハは、自然と立ち止まった。


「なあ、クレハ」

「どうしましたか、リュートくん」

「俺は、クレハと今後もいい関係を築いていきたいと思ってる」

「いい関係……とは、つまりどんな関係ですか?」


 クレハは俺を少し見上げながら、首を傾げる。

 薄々分かっているけど、明言してほしい。

 そんな問いかけだ。


「だから俺は、クレハと恋人になりたい」


 俺が告白すると、クレハは顔を真っ赤にした。


「まあ、元から婚約者ですし? こ、恋人になる……のはいいんですけど、まだ肝心なことを聞いていません」

「肝心なこと?」

「リュートくんは、私のことをどう思っているんですか」


 あからさまに動揺していたクレハは、少し落ち着いてから聞いてきた。

 明確で、直接的な言葉を待つかのように、俺のことをじっと見つめてくる。 


「俺は……クレハのことが好きだ」

「っ......! そう、ですか」


 好きだ。

 その気持ちを言葉にした途端、再びクレハの顔が沸騰するように赤くなった。


「クレハは俺のことを、どう思ってるんだ」

「えっと、その……こ、これが私の答えです……!」


 クレハは何を言うか迷った結果、勢い任せに口づけしてきた。

 身長差があるせいで、少し背伸びをしているクレハもかわいらしい。


「……こういうのも嬉しいんだけど、できれば直接クレハの言葉が聞きたいんだが」

「え、ええ……!? キスまでしたんですから、分かるでしょう……?」

「俺にだけ言わせるのは、少しずるいだろ」

「うぅ……それも、そうですね」


 クレハはまさに恥ずかしさが頂点に達したといった感じの顔をしていた。


「わ、私も……リュートくんのことが好きです。だから、恋人になります。これからも恋人として、婚約者として、末長くお願いします」

「なんだか、プロポーズみたいな言い方だな」

「もう……からかわないでください、人が恥を忍んで言っているというのに!」

「悪い。クレハがかわいかったから、つい」

「リュートくん、さては全然反省してませんね……!」


 そんなことを言って恨めしげに俺を見ていたクレハは、再び背伸びをした。

 またしても、クレハにキスされる。


「……」

「ふふん、リュートくんがうるさいので黙らせてあげました」


 クレハはなぜか得意げだった。

 ……こっちの方が言葉よりも大胆な気がするけど、なんで平然とできるんだろう。

 実際俺は照れて黙り込んでしまったので、効果は抜群だ。


「それにしても……前世の記憶を思い出す前も合わせると、今ので3回目か。こんなことなら、もっと早く気持ちを伝えれば良かったな」


 気恥ずかしさを紛らわすため、俺が冗談まじりに言うと。

 すぐにはクレハから返事がなかった。

 

「……4回目です」

「うん?」


 少し遅れて返ってきたクレハの言葉を、俺は疑問に思う。


「実はこの前……リュートくんが風邪で寝込んでいた隙に、しちゃいました」


 クレハから、なんだかすごいことを打ち明けられた。

 俺の婚約者、やっぱりかわいすぎる。



◇◇◇◇


というわけで恋人になった二人ですが、もう少しだけ続きます。

お互い両想いであることを確認して恋人になった二人ですが「そういえば相手はいつから自分のことが好きなんだろう?」と疑問を抱いて悶々としつついちゃいちゃする話です。

明日はおそらく3話くらい更新すると思います。

朝、昼、夕に公開予定です!

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