第15話「ランチ」

「あらー、沢井さんこっちこっちー」

「まあまあ、こんにちは、すみません遅くなってしまって」

「いいのいいのー、私もさっき来たところで。それじゃあ行きましょうか」


 ある日曜日、日車団吉ひぐるまだんきち日車日向ひぐるまひなたの母である私、日車沙織ひぐるまさおりは、沢井絵菜さわいえなちゃんと沢井真菜さわいまなちゃんのお母さんである沢井佳菜さわいかなさんと駅前で待ち合わせをしていた。これから二人で駅前の近くのファミレスにご飯を食べに行くのだ。

 団吉と絵菜ちゃんがお付き合いをするようになって、お互いの家にお世話になることも多くなり、沢井お母さんとも話したりランチに行くことが増えた。沢井さんは私よりちょっとだけ年下で、丁寧で礼儀正しくて優しい感じがした。真菜ちゃんと口調が似ているが、もしかしたら真菜ちゃんがお母さんの真似をしているのかもしれないなと思った。

 二人で駅前の近くのファミレスに行く。ここは安くて品数も多く、けっこう人気のところだ。お昼ということもあって人は多かったが、なんとか座ることができた。


「何食べましょうかねー、ピザもいいわねー、でもやっぱりパスタかしら、これだけあると悩むわー」

「ふふふ、そうですね、でも最近私ちょっと体重が増えてきたみたいで……」

「あらー、沢井さん綺麗だから全然そんな風には見えないわー」

「いえいえ、日車さんもお綺麗ですよ。やっぱり今日は体重のことは気にせずに食べましょうか」


 二人でわいわいと話しながら注文をした。デザートも食べたいのにちょっと頼み過ぎたかしら。まぁいいか。


「あ、そういえばこの前ね、団吉と絵菜ちゃんが『進路で迷ってる』って言ってたわ。もうすぐ二年生も終わるからね、まぁたしかに迷うところもあるよねと思ったわ」

「まあまあ、そうだったのですね。あの二人もちゃんと先のことを考えているんですね」

「そうそう、だから人生の先輩として、ちょっとだけお話してあげたわ。周りに流されないようにして、これからじっくり考えなさいって」

「そうですね、二人の人生ですからね、二人がやりたいと思ったことを私も応援してあげたいです」


 団吉も絵菜ちゃんも高校二年生がもうすぐ終わるということで、三年生になると受験生だ。たしかに進路で迷いや不安があると思う。私たち親はそっと見守りながら、たまにアドバイスができたらいいなと思う。


「そうね、私もそう思う。それとね、二人とも高校卒業して、離れ離れになってしまうのが寂しいみたい。ふふふ、若いっていいわねー」

「まあまあ、ふふふ、二人とも可愛いところありますね。絵菜も家で団吉くんの話をしていると嬉しそうで。あまり笑わない子だったので、こんなに変わるんだなってびっくりしています」

「そうなのねー、そういえば絵菜ちゃんが金髪なのって中学の頃からって聞いたわね、色々言われなかった?」

「はい、中学の頃は先生たちにも注意されたり、私も色々言われてしまいました。でも、本人がそうしたいって思ったことだから、私はそれを尊重してあげたいなって思って」


 今通っている青桜高校は校則がかなり緩く、制服はあるが髪型は自由だ。絵菜ちゃんもそれであの高校に行きたいと思ったのかもしれないなと思った。


「そうね、本人も思うところあってそうしているんだもんね。絵菜ちゃん、芯はしっかりしているから大丈夫だと思うわ」

「ふふふ、強がるところもあるけど、実は心配性で寂しがりやで……でも、団吉くんがいてくれてほんとによかったなって思います」

「あらあら、ふふふ、団吉も恥ずかしそうにしているけど、絵菜ちゃんのこと大事に想っているみたいだからねー、あ、あんまり話すとあの二人くしゃみしてるかもしれないわね」


 私がそう言って笑うと、沢井さんも笑った。

 注文した料理が運ばれてきた。パスタにピザにドリアに、どれも美味しそうだ。


「いただきましょうか……あ、このミートソースのパスタすごく美味しいわ」

「あ、このミラノ風ドリアも美味しいです。この美味しさでこのお値段ってちょっとびっくりしちゃいますね」

「ほんとねー、そうだ、ワインも頼まないかしら? 沢井さんはお酒いける人?」

「あ、はい、ワインなら大丈夫です」

「よし、今日はいただいちゃいましょうか、赤ワイン頼んでみるわね」


 私が赤ワインを頼むと、すぐに持って来てくれた。二人で注ぎ合って、「かんぱーい」と言ってワインをいただく。うん、さっぱりしていて呑みやすい。


「ふふふ、絵菜ちゃんと真菜ちゃん見てると可愛くてねー、なんか娘が増えたような気分にいつもなっているわ」

「まあまあ、ふふふ、私も団吉くんと日向ちゃんが自分の子どもなのかもって思う時がありますよ」

「あらあら、ふふふ、同じような気持ちね。そういえば日向と真菜ちゃんはもうすぐ受験ね、大丈夫かしら……」

「そうですね、あの二人も頑張っているみたいですし、きっと大丈夫ですよ」


 日向も真菜ちゃんも、勉強ができる団吉に色々訊いているみたいだ。まぁ親だから心配する気持ちもあるけど、沢井さんの言う通り、きっと大丈夫だと思うことも大事なのだろう。

 それからデザートにケーキもいただいて、二人で子どもたちの話で盛り上がった。ごめんね子どもたち、お母さんたちは楽しませてもらったわ。

 ふふふ、やはり沢井さんは丁寧で優しくて話しやすい。いいお友達ができたなと思った私だった。

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