第18話「後輩たちと」
「日車先輩、ここはこうなるんですよね?」
「ああ、そうだね。その考え方で合ってるよ。実はこれ応用としてここがこうなるとこうなって……」
「ああ! そうなんですね! さすが日車先輩! カッコいいです!」
二学期のある日、僕、
「うふふー、日車先輩、この空間ベクトルの証明問題、美しいですね~、思わず見とれてしまいましたよー」
数学に取り組んでいるのは、
「そうだね、図で表すとそうなるよなって思うけど、実際証明するとなるとなかなか難しいところもあって、逆にそれが美しさを引き出しているのかもしれないね」
「そうですよね~、ああー数学って面白いなぁ! あ、こっちの問題はこうなるんですかね?」
「ああ、そうだね、それもその考え方で合ってるよ……って、ち、近――」
「ねーねー、だんちゃん、私のも見て見てー、ここの英文の意味が分からないよー」
英語に取り組んでいるのは、
「ああ、ここはこういう意味をして、この単語を使って……」
「あーなるほど! さすがだんちゃん、できる男は違うねー!」
「い、いや、そんなにできる男というわけでもないけど……って、ち、近――」
「ちょ、ちょっと、二人とも日車くんにくっつきすぎじゃないかしら、私が教えてあげるから訊きなさいよ」
なんだか僕と距離が近い橋爪さんと梨夏ちゃんを見て、大島さんが言った。
「あ、大島先輩はいいっス、日車先輩の教え方が完璧っス」
「あ、さとっこはいいっスー、だんちゃんに訊きたいっスー」
「だ、だからなんで黒岩くんの真似するのよ……あ、黒岩くん、さっきの問題できたかしら?」
「……うーん、一応できたんスが、物理もなかなか難しいもんっスね……」
物理に取り組んでいるのは、
「ああ、できてるじゃない、大丈夫よ。たしかに物理は難しいわ。私の足も何度も引っ張ってくれたし……ブツブツ」
「お、大島先輩……? あ、九十九先輩と天野先輩がずっと話し込んでいるっスね……」
黒岩くんがぽつりと言った。見るとたしかに九十九さんと
「ふー、疲れてきましたね。九十九先輩さすがです。僕一人じゃこの問題は手も足も出なかった……」
「ううん、天野くんも基本は分かってるから、あとはそれをうまく使ってあげるといいよ」
「なるほど……それがなかなか難しいですよね。あ、みんな休憩しているみたいですね、集中してると時間があっという間ですね」
ふと時計を見ると、一時間くらい勉強していたようだ。たしかにあっという間のように感じる。
「そうだね、あまり集中しすぎてもよくないから、ほどほどにね」
「さすが日車先輩! 心と身体のケアも大事ってことですね! あ、そうだ、みんな集まっているところでちょっと訊いてみたいことがあったんだった!」
「ま、まぁ、そんな感じなのかな……って、橋爪さん、訊きたいことって?」
「はい! 私や梨夏ちゃんは以前生徒会に入りたい理由を言ったと思うのですが、黒岩くんのことは聞いてなかったなと思って!」
「……え? じ、自分っスか……?」
自然と黒岩くんに視線が集まる。黒岩くんは恥ずかしそうにしていた。
「そういえば、たしかに黒岩くんのことってあまり聞いたことがなかったわね。さぁ話しなさい! これは先輩命令よ!」
「な、なんなんスか大島先輩……じ、自分はまぁ、人の役に立ちたかったというか……実は、中学までは柔道をやっていて、主将もやってたんス。その時も後輩に頼られたりしてたんスが、もっと他の道でも人の役に立ちたいなと思って……」
あまり話すのが得意ではない黒岩くんが、恥ずかしそうにしながらも話してくれた。そうか、人の役に立ちたい……か。素晴らしいことだなと思った。
「そっか、黒岩くんもしっかりした考えを持っているね。大丈夫、これから生徒会でこの学校のみんなの役に立つことが多くなると思うよ」
「つ、九十九先輩……なんか、そう言われると恥ずかしいっスね……」
「うんうん、しょーりん立派だねー、可愛い私がよしよししてあげよーか?」
「……まぁ、潮見さんは九十九先輩みたいにもっとおしとやかになるべきだと思うっス」
「なにー!? しょーりん、生意気なこと言ってるー! こいつめー!」
そう言って梨夏ちゃんがポカポカと黒岩くんを叩いている。まぁ、いつもの光景というか、なんというか。
「まぁ、みんなしっかりした考えを持っているから、大丈夫だよ。ただ、あまり抱え込まないようにしてね」
「そうね、日車くんの言う通りだわ。一人で抱え込まず、四人で力を合わせるのよ」
「そ、そうですね、僕がけっこう突っ走りがちだからな……気をつけないといけませんね」
僕と大島さんの言葉を聞いて、天野くんがぐっと拳を握った。うん、この四人ならこれからも力を合わせてうまくやっていけるだろうと、僕は思っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます