第19話「力を合わせて」

「うんうん、みんな立派だったよ。ボクも男装・女装コンテストはしっかりと見させてもらったからね、いやー今年も楽しかったよ!」


 そう言ってパチパチパチと拍手したのは佐久本慶太さくもとけいた先輩。元生徒会長で、僕、日車団吉ひぐるまだんきちや生徒会のみんなはお世話になっている人だ。

 文化祭が終わって数日後、僕たち生徒会役員は生徒会室に集まって今後の会議などの準備を行っていた。そこに慶太先輩が僕たちの様子を見に来てくれたのだ。慶太先輩は夏休みで生徒会の仕事は終わったが、こうしてたまに顔を出してくれる。や、やっぱり他の元生徒会役員のみなさんとは会うことがないのだが、慶太先輩が何でも教えてくれるので問題はなかった。


「あ、ありがとうございます……あああ、また思い出してしまった、やっちまった感がすごいです……」


 うああと言いながら頭を抱えたのは会計の天野蒼汰あまのそうたくん。文化祭で行われた『男装・女装コンテスト』には僕たち生徒会役員が全員出ることになった。天野くんは可愛らしいメイドさんになっていた。そのことを思い出したのだろう。


「ほ、ほんとだね……私も思い出してしまった……なんであんなことやっちゃったんだろう……」


 顔を赤くして俯いているのは、生徒会長の九十九伶香つくもれいかさん。九十九さんは告白系男子としてカッコいい姿を披露していた。いや告白系男子というジャンルがあるのか分からないが。


「ま、まぁ、あれも思い出だと思うことにしましょ。二人とも可愛いしカッコよかったからいいのよ」


 二人をフォローしているのは、書記の大島聡美おおしまさとみさん。大島さんはスーパーエリートサラリーマンとして九十九さんと同じくカッコいい姿を披露していた。美人の二人は男装も似合うなと僕は思った。


「うんうん、聡美さんの言う通りだよ。この学年での文化祭は一度きりだからね、楽しい思い出ができたと思えばいいんじゃないかな。そして団吉くんの女装も可愛らしかったね、ボクはドキドキしてしまったよ」


 慶太先輩がニコニコ笑顔でそう言った。ま、まぁ、副会長の僕も清楚系女子としてステージに上がったのだが、今思い出しても恥ずかしすぎる。そういえば僕の妹の日向ひなたがバッチリ写真を撮っていて、母さんに見せていたのだった。穴があったら入りたい気持ちになった。


「あ、ありがとうございます……って、な、なんか複雑な気分ですが……」

「あはは、まあまあそう言わずに。伶香さんと団吉くんは優勝もしたし、よかったよね。実はボクも一年生の時はクラスで演劇をやってね、主役として素晴らしい演技をしてみせたものだよ」

「あ、そ、そうなんですね……」

「みんなの活躍を見てると、なんだか自分のことを思い出してね。ああ、ボクの話はどうでもよかったね、四人とも生徒会役員になってしばらく経つけど、どうだい? 少しは慣れてきたかな?」


 僕たち四人の顔を見ながら、慶太先輩が言った。


「あ、はい、会議やイベントでみんなの前に出ることが多くなって、緊張で噛みそうになることもありますが、少しずつ慣れてきたのかなと」

「そうかそうか、団吉くんは副会長だからね、司会進行でみんなの前で話すことも多いだろう。ボクが見る限り団吉くんはちょっと話すのに慣れていないところがありそうだったので、少し心配していたんだ。でも、しっかりとこなせているからさすがだよ」


 慶太先輩がポンポンと僕の肩を叩いた。慶太先輩は人の目を見てその人のことが分かってしまう観察眼が鋭かった。さすがだなと思った。


「日車くんは頑張っているよね。私も負けないようにしないと……」

「そうね、九十九さんの言う通りだわ。日車くんよくできてるわよ。さすがね」

「日車先輩さすがです! この前も部長会議でしっかりと司会進行してましたし、やっぱりできる男は違いますね! しかしこの日車先輩を超える男に僕はなれるのだろうか……ブツブツ」


 九十九さんと大島さんと天野くんが褒めてくれた。恥ずかしいけど嬉しい気持ちになる僕は単純なのかもしれない。しかし天野くんが何かブツブツ言っていたような……気のせいかな。


「うんうん、みんなも信頼しているね。その関係性が大事だよ。これからもそのまま頑張ってくれたまえ」

「あ、は、はい、頑張ります」

「それと、団吉くんだけじゃない。伶香さんも聡美さんも蒼汰くんも、しっかりと自分の仕事ができているようだね。ただ、前に言ったように一人で抱え込むのはよくないからね。四人いるからみんなで力を合わせて運営していくんだ。特に伶香さんと団吉くんは一人でなんとかしようとする傾向がありそうだからね、気をつけてね」


 慶太先輩がそう言って、僕たちは「はい」と返事をした。やはり慶太先輩の観察眼は鋭いものがあった。


「まぁ、このボクが信頼している四人だからね、みんなちゃんとやってくれるということは分かっていたよ。ボクも安心して受験勉強に専念できそうだよ。ああ、それと――」


 ん? 何かあるのだろうかと思ったら、慶太先輩がそっと僕に近づいてきて、


絵菜えなさんは元気かい? また会えると嬉しいよ」


 と、小さな声で言った。


「え!? あ、は、はい、元気にしてます……」

「そうかそうか、それはよかった。ああしまった、ちょっと職員室に用事があるのを思い出した。それではこれで失礼するね」


 慶太先輩が手を振りながら生徒会室を出て行くので、僕たちは「ありがとうございました」と言った。そう、慶太先輩はなぜか僕の彼女である沢井絵菜さわいえなのことを気に入っているのだ。


「私たちも今日は終わりにしましょうか……って、慶太先輩、最後に何か言っていたような……」

「ああ!! い、いや、なんでもないよ、あはは……じゃ、じゃあ今日は片付けて帰ろうか」


 三人が頭の上にハテナを浮かべていたが、僕は慌てて話をそらした。うう、なんで慶太先輩はあんなに絵菜のことを気に入っているんだろう……。

 と、とにかく、これからもこの四人で協力して生徒会を運営していく。その思いは四人とも強く持っていた。

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