第17話「学校と妹と私」

「おー、沢井、ちょうどいいところに。すまんがちょっと職員室まで来てくれないか?」


 ある日の昼休み、私、沢井絵菜さわいえなは、トイレに行った後教室に戻ろうとしていると、担任の大西浩二おおにしこうじ先生に呼び止められた。


「……え? あ、あの……」

「ああ、そんなにビックリしなくていいぞ、ただここではちょっと話しにくくてな」

「あ、は、はい……」


 とりあえず大西先生と一緒に、私は職員室に行くことにした。あまり職員室は好きではないのだが……どうしても中学時代に怒られていたことが頭に浮かんでしまう。

 それにしても、大西先生は何の話があるのだろうか。まさか、以前上級生に殴られていたことがバレたのだろうか。あれは団吉……あ、日車団吉ひぐるまだんきちという男の子に見られただけだからな……あとは火野陽一郎ひのよういちろうと、高梨優子たかなしゆうこという友達くらいしか知らないはず。みんなここだけの話にすると言ってくれたので、たぶん先生は知らないはずだが……。

 よく分からないまま、職員室に来た。大西先生は自分の席に座って、隣を指さして「そこ座ってくれ」と言った。私は椅子に腰掛けた。


「すまんな急に、ちょっと話したいことがあってな。この前沢井は学校休んでたよな」

「あ、はい……」


 なるほど、この前学校を休んだことか。殴られたことじゃなくてよかった……というのはおかしいか、休んだ時に何かあったのだろうか。


「その、言いにくいんだが、妹さんがいじめられたとかで、沢井は妹さんのことを思って一緒にいたんだよな」

「あ、はい……って、あれ? なんでそのことを……?」


 そう、大西先生が言うように、この前妹の真菜まなが学校でいじめられて、私は真菜のことが心配だったので数日休んで真菜と一緒にいることにした。まぁ、いじめられた原因が私のことでもあったから、私も申し訳ないと思っていた。

 しかし、そのことは大西先生には話していない。なぜ知っているのだろうか。


「ああ、すまん、実は休んでいる間に日車と話してな。俺が沢井のこと気になってるんじゃないかって、わざわざ話しに来てくれたんだよ」


 な、なるほど、団吉が話してくれたのか。まぁそれは全然構わないのだが、そうか、団吉が……。


「そ、そうなんですね……」

「ああ、勝手に話してすまんな、日車も沢井のこと心配してたみたいでな。悪く思わないでくれ」

「はい……大丈夫です」

「それにしても、大変だったな。妹さんは大丈夫か?」

「はい、学校にも行けるようになりました」

「そうか、それはよかった。まぁ学校なんて休むくらいなんてことないからな、無理はしないように沢井も見守ってやってくれ」


 そう言って大西先生がはははと笑った。先生がそんなこと言っていいのかと思ったが、言わないことにした。


「それと、日車の言う通り、俺は沢井のことも気になってたんだ。妹さんのことで不安定になってないかとな。日車に沢井のそばにいてやってくれと言ったんだが、少しは落ち着いたか?」

「あ、はい……だんき……日車くんも優しくしてくれたので……」

「そうか、それもよかった。これは以前日車にも言ったんだが、俺は沢井が一人でいることも気になってたんだ。あまり学校が楽しくなさそうだったからな。でも最近は日車や火野や高梨と一緒にいるな。沢井もよかったんじゃないか?」

「は、はい、前よりは学校が楽しくなったな……と。学校はいつも怒られてばかりだったから……」

「ああ、もしかして金髪のことか? まぁ中学ではさすがに難しいよな。いいじゃないか、似合ってるんだしここでは自分のやりたいようにやればいいんだよ」

「あ、ありがとうございます……」


 うちの高校はどちらかというと進学する子が多いのに、かなり校則が緩い。なので中学生にも人気だ。生徒の自主性に任せているらしいが、まぁ先生がこう言うのだからいいのだろう。


「……よし、沢井も変わったな。妹さんのことを考えて行動できる沢井は偉いよ。しかしあまり抱え込まずに、これからも日車やみんなに支えてもらえよ」

「は、はい……」

「あと、学校のことは気にしなくていいからな。いつでも休んでいいからな」

「あ、はい……大西先生って立派な先生なんですね……」

「おいおい、日車と同じこと言うなよ、俺はみんなのことをちゃんと考えてる先生だぞ。ああすまん、もうすぐ午後の授業が始まるな、ここまでにしておこうか」


 私は「し、失礼します」と言って、職員室を後にした。そうか、みんなが私や真菜のことを気にしてくれている。私は先生にそんなことを言われたことがなかったので、少し驚いたのと同時に、嬉しい気持ちになった。

 ……あ、教室に戻ると、団吉が大島おおしま杉崎すぎさきと何か話している。あの二人はどうも団吉と距離が近い。よく見ておかないといけない。

 それはいいとして、私は団吉と色々な話をしたくなった。大西先生の言う通り、あまり抱え込まずにいこうと強く思った。

 

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