第1話「デートの約束」
(ど、どうしよう……デートの約束してしまった……)
通話が終わって、私はスマホを持つ手が震えていた。
とんでもないことをしてしまった。今度の日曜日に男の子と映画を観に行く約束をしたのだ。言い出したのは私だが、彼はいつものように『いいよ』と言ってくれた。
(どうしよう、男の子と二人で出かけるなんて初めてで、どうしたらいいのか……こ、これってデートなんだよな……あれ? 私が間違っているのかな……)
とりあえずスマホを置いて深呼吸してみる。それでも落ち着かず、立って部屋をうろうろしたり、ベッドに腰掛けたり、私は慌しかった。
(で、でも、やっぱり一緒にいたい……)
そう、私、
今日、日車がスーパーでバイトをしている姿を見に行ったのだが、キリっとしていて学校で見る姿とはまた違ってカッコよかった。さすがに一緒に行った
(そ、そうだ、どんな服着ていけばいいんだろうか、あ、あまり派手な格好は嫌われるよな……)
私は慌ててタンスやクローゼットの中を漁った。しかしどの服もピンと来ない。どうしよう、服を買うべきなのだろうか……。
コンコン。
その時、部屋のドアをノックする音が聞こえた。「は、はい」と言うと、妹の
「お姉ちゃんどうかした? なんか物音が聞こえてたけど……って、服いっぱい出してどうしたの?」
「あ、い、いや、それが……」
真菜に言うべきか迷ったが、隠しきれないと思ったので言うことにした。
「そ、その、で、デートの約束してしまって、どんな服にしようか迷って……」
「え、デート!? 誰と!?」
「あ、その……ひ、日車と……」
「日車……って、まあまあ! お兄様と!? それは一大イベントじゃない!」
「ま、まぁ、そうなのかな……」
「うんうん、そっかーお姉ちゃんとお兄様がデートするのかぁ。あ、そしたら私がファッションチェックしてあげるよ!」
「え!? い、いや、まぁいいか……このへんに服を出してみたんだけど、どれもピンと来なくて……」
私はベッドの上に出してあった服を指差して、決めきれないことを伝えた。
「うーん……お姉ちゃん、ショートパンツとかデニムとかのパンツ系ばかり出してるね、スカート持ってないの?」
「う、うーん、そんなに持ってないかも……」
「そっかー、動きやすい格好もいいけど、ここは女の子らしい格好が……あ、そうだ、ちょっと待ってて」
真菜がそう言って私の部屋を出て行った。何をしているのだろうかと思っていたら、すぐに戻ってきた。
「私、この前このスカートお母さんに買ってもらったんだけど、ちょっと大人すぎたかなと思って。これいいんじゃない? お姉ちゃんにも入ると思うよ」
真菜が手にしていたのは、薄いピンクのフレアスカートだった。私と真菜の背は二センチくらいしか違わないし、体型も似ている。私でも入らないことはないと思うが、こ、これは……。
「……ん? お姉ちゃん、どうしたの?」
「あ、いや、そ、そんなのあまり着たことがなくて、恥ずかしいというか……」
「なんだー、恥ずかしがることないよー、さあさあ、今すぐはいてみて!」
「え!? い、今……!?」
真菜がぐいぐいと押し付けてくるので、私は仕方なくそのスカートをはいた。うう、恥ずかしい……。
「うん、お姉ちゃん、似合ってるよ! そして上はこれを着てみて!」
「え!? う、上も……!?」
スカートだけでなく、上着も用意していた真菜。黒のブラウスだった。とりあえず言われるがままに袖を通してみる。
「まあまあ! これでいいんじゃないかな、お姉ちゃん金髪だから黒が似合う気がするね。あ、靴は私の黒のサンダル履いていいからね!」
「え、あ、いや、自分のスニーカーあるし、それを履こうかと……」
「スニーカーなんてダメだよー、せっかくここまでしたんだから、私の言う通りにサンダルにして!」
もはやどこかのスタイリストだろうか、真菜がぐいぐいと勧めてくる。従っておかないと怒られそうな気がしたので、「わ、分かった……」と答えておいた。
「ふふふ、お兄様もビックリするんじゃないかな、お姉ちゃんがとっても可愛くて!」
「そ、そうかな……恥ずかしいな……」
「もー、恥ずかしがったらダメだって! それにしても、お姉ちゃんがデートだなんてめずらしいね、どっちから誘ったの?」
「あ、わ、私が映画観に行かないかって、日車に言った……」
「まあまあ! 映画デートかぁー、いいなー私もいつかお兄様とデートしたいなぁ」
「え!? そ、それは、どうなのかな……」
「ふふふ、大丈夫だよ、お姉ちゃんからお兄様をとるつもりはないから!」
なんだか日車が私のものみたいな言い方だったが、ツッコミを入れるとまた怒られそうな気がしたので、何も言わないことにした。
でも、本当によかったのだろうか。日車は優しいから、無理して私に合わせているのではないだろうか。そう思うとちょっと不安になってきたが、さっき通話した時に日車は『僕も楽しみにしてる』って言ってくれた。無理をしているわけではないと思うことにしよう。
普段着慣れない服を着て、恥ずかしい気持ちもあるが、日車は私を見てどんな顔をするだろうかと、少し楽しみになってきた。
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