第2話「生徒会役員」

「日車先輩たち、ほんとに卒業しちゃったんだね……」


 生徒会室に橋爪さんの寂しそうな声が響く。三年生の卒業式から三日後の月曜日、僕たち生徒会役員の四人は集まっていた。


「ほんとだね……私一年生だから卒業式には出なかったけど、どーしてもだんちゃんたちにお礼が言いたかったから学校に来たら、だんちゃんたちの顔見て泣いちゃった……そしたらえーこが『潮見も頑張って』って言って頭なでてくれた……」


 潮見さんもしゅんとした顔で言った。いつも元気な彼女がこんなにおとなしいのは初めて見たかもしれない。


「そっかー、梨夏ちゃんの気持ち分かるなぁ、私も泣きそうになったけどぐっと我慢したよ。そしたら日車先輩が『みんなで仲良くして頑張ってね』って……最後まで優しかったなぁ。惜しい人がいなくなってしまった……」

「うん、いなくなっちゃって寂しいよ……」


 橋爪さんと潮見さんが遠くを見ながら言った……って、ちょっと待て。


「ちょ、ちょっと待った、日車先輩がこの世からいなくなったみたいな言い方はダメだと思うよ……」


 僕が冷静にツッコミを入れる。橋爪さんも潮見さんも若干暴走することがある。ん? もしかしてツッコミを入れたら負けなのか?


「だってー、もう日車先輩たちは学校に来ないんだよ、天野くんは寂しくないの!?」

「そーだよー、そーとんが冷たいよー、そんな人とは思わなかったよー」

「い、いや、そんなことないよ、僕だって寂しい気持ちはあるよ……」


 僕、天野蒼汰あまのそうたは、この青桜高校の生徒会長を務めている。副会長の橋爪葵はしづめあおい、書記の潮見梨夏しおみりか、会計の黒岩祥吾くろいわしょうごを合わせた四人は、前任の日車団吉ひぐるまだんきち先輩たちから引き継いで、生徒会を運営している。

 ただ、本当に日車先輩たちのようにできているか自信がない。僕もみんなを引っ張っていく立場だが、毎日学ぶことが多いのだ。


「……二人とも、天野先輩を困らせてはダメっス」


 ずっと黙っていた黒岩くんがぽつりとつぶやいた。黒岩くんは言葉は少ないが、言動はしっかりしている。橋爪さんと潮見さんが暴走しないように見守っている感じもある。


「黒岩くんまで! なんで男の子はそんなに冷たいの! 私はそんな子に育てた覚えはありませんよ!」

「そーだよー、しょーりん見損なったよー」

「……いや、橋爪先輩に育てられてないっス……そうじゃなくて、日車先輩たちがいなくなって寂しい気持ちはみんな一緒ってことっス。天野先輩、そうっスよね?」


 急に呼ばれて僕はドキッとしてしまった。い、いかん、ここは僕がしっかりしないと。


「……うん、寂しいのはみんな一緒だよ。でも、いつまでも日車先輩たちに頼ってばかりでは僕たちも成長しないよ。橋爪さんも潮見さんも黒岩くんも、もっと自分なりに頑張りたいでしょ?」


 僕がそう言うと、生徒会室がしんとなった。


「た、たしかに、ずっと甘えっぱなしもよくないよね……せっかく先輩たちが笑顔で『頑張ってね』って言ってくれたのに、めそめそしてると笑われちゃう」

「そ、そーだね、よかった、そーとんもしょーりんも冷たい人だって思っちゃった……ごめんなさい……」

「い、いや、大丈夫だよ。僕たちがしっかりしないといけないからね、またみんなで頑張らないとね」

「……そうっスね、きっと自分たちにしかできないこともあると思うっス。一つずつやっていけば、日車先輩たちも安心してくれると思うっス」


 先輩たちがいなくなって寂しい気持ちはある。でもずっと面倒を見てもらうわけにもいかないし、僕たちが力を合わせて頑張っていくのが先輩たちの望みでもあるだろう。僕はひっそりと気合いを入れた。


「……よし、今日はこのことを話すためだけで集まったわけじゃないよね、きちんと仕事はしていかないとね」

「そうだった! 今度、年度最後の委員長会議があるんだった! みんな準備しましょう!」

「おー、そうでした! みんなでバッチリ頑張っていきましょうー! って、あれ? 私の敬語いい感じ?」

「……まぁ、潮見さんも頑張ってるんじゃないっスかね」

「なにー!? しょーりんまた生意気なこと言ってるー! こいつめー!」


 潮見さんがポカポカと黒岩くんを叩いている。いつもの光景だが、僕は少しホッとした。

 いつものように四人でわいわいと話しながら準備を進める。黒岩くんも言っていたが、僕たちにしかできないこともあるはずだ。日車先輩たちを見習いつつ、僕たちのいいところを伸ばしていけばいい。

 これからもこの四人で頑張りたいという気持ちは、みんな一緒だ。先輩たちに笑われないようにしないといけないなと、僕は思っていた。

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