第8話「姉の恋愛」
「じゃあ、姉ちゃん気をつけてよ、姉ちゃん美人なんだから、変な男が寄ってくるかもしれないからね」
弟の
(……はぁ、なんで私はこんな目にあってるんだろう……)
康介が出て行ったのを確認して、私、
そんなに変なことはしていなかったと思うが、どうも康介的には私が日車くんの隣にいたのが気に入らなかったらしい。康介はいい子なのだが、昔から私の近くにいる男の子が嫌いだった。日車くんにも変なことを言ったことがある。
私はなんだか疲れてしまった。高校三年生にもなって、自由に恋愛ができないのは寂しすぎる。でも康介には強く言えなかった。私は優しすぎるのかもしれない。
とりあえず教科書とノートを開き、勉強をしてみる……が、ペンが思うように進まない。ペンを置いて、スマホを手に取った。
(うーん、なんか集中できないな……誰かと話したいかも……)
私はそう思ってスマホをポチポチと操作した。無意識のうちに日車くんのRINEアカウントを開いていた。日車くんは二年生の時に生徒会で一緒になり、一緒にいることが増えた。優しくて、可愛い顔をしていて、勉強ができる男の子だ。この前の最後の定期テストでも日車くんは学年で二位だった。一位は私だったが、もう少しで抜かれるような点数だった。
(日車くん、忙しいかな……ちょっとだけなら大丈夫かな……)
私はスマホを操作して、日車くんにRINEを送ってみることにした。通話できないかと訊くと、『うん、いいよ』と返事が来たので、私はドキドキしながら通話ボタンを押した。
「も、もしもし、こんばんは」
「もしもし、あ、九十九さんこんばんは」
スマホから日車くんの優しい声が聞こえてきた。私はちょっとホッとしたような気分になった。
「ご、ごめんね、急に通話したいとか言って。何かしてた?」
「ううん、大丈夫だよ。ちょうどお風呂から上がったところで、後で勉強しようかなぁと思っていたくらいで。九十九さんが通話したいって言うのめずらしいね、何かあった?」
「そ、それが……」
私は今日の帰りに日車くんたちと一緒にいたところを康介に見られて、さっきまで注意されていたことを伝えた。
「そ、そっか……康介くん、やっぱり九十九さんのことが大好きみたいだね……」
「う、うん……それでなんだか疲れちゃって、誰かと話したいなって気分になっちゃって」
「そっか、うん、僕なんかでよければ話聞くよ。何でも話してね」
日車くんの優しい言葉に、私は胸がドキドキした。やっぱり日車くんは優しい。こんな私のことも笑ったりせずにちゃんと向き合ってくれる。
「あ、ありがとう、日車くんの妹さんは日車くんにあれこれ言ったりしない?」
「うーん、そんなに言わないかなぁ、絵菜と初めて会った時は怪訝そうな顔してたけど、すぐに仲良くなったからね」
「そっか……いいなぁ、私も妹がよかったかも……」
「まぁ、うちの妹も僕にくっついてくるから、ちょっと離れた方がいいのかなぁって思うことはあるけどね」
日車くんが少し笑ったので、私もつられて笑った。いいな、何も言われないのか、私も妹だったら一緒に恋愛の話とかできそうだなと思った。
「でも、康介くんは中学生だったよね? そのうち好きな女の子ができると思うよ」
「う、うーん、そうかもしれないけど、私にくっつくのはやめてくれそうになくて……私はこのままずっと恋愛できないのかなぁなんて……」
「そんなことないよ、九十九さんも、び、美人さんだから、いいなって思っている男の子がいるかもしれないしね。それに、九十九さんが恋愛することは何も悪いことじゃないよ」
また日車くんが優しい言葉をかけてくれた。いいな、こんなに優しい日車くんが私の彼氏だったら楽しいだろうな……と思ってしまった。
しかし、日車くんを本気で好きになるわけにはいかなかった。日車くんには沢井さんという彼女がいる。それでも私は日車くんのそばにいるのが居心地がよくて、よく日車くんの隣にいる。その度に大島さんが慌てているが、やっぱり大島さんも日車くんのことが気になっているのではないだろうか。
「あ、ありがとう、私は勉強以外取り柄がないから、そんなに好かれることはないと思うけど……」
「ううん、ほら、九十九さんは生徒会長としてみんなの前に出ることが多かったよね、それを見ていいなって思ってる男の子がいてもおかしくないよ」
「そ、そうかな……前にも言ったけど、私はお付き合いするなら日車くんみたいな男の子がいいな……」
「え、あ、ま、まぁ、僕みたいな子はいっぱいいるんじゃないかな……あはは」
いや、そんなことはない。それくらい日車くんは優しくて可愛かった。沢井さんが羨ましい。さすがに奪い取るようなことはしないけど、いつか日車くんみたいな男の子が現れてくれるといいな。
それからしばらく日車くんと色々な話をした。三年生ということでもうすぐ入試がある。頑張ろうねと励まし合った。
日車くんやみんなと出会えてよかった。私はいつの間にか疲れが吹き飛んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます