第7話「そばにいたい」
二年生になり、さらに勉強が難しくなってきたが、私、
今日は初めての生物の授業がある。二年生から化学と生物は選択制となり、生徒がどちらか自由に決めることができる。私は迷うことなく生物を選んだ。その理由は――
「あ、大島さんも生物なのか、一緒だね」
私の目の前である男の子が言った。その子の名は
実は私が生物を選んだのも、以前日車くんと話していた時に、彼が生物を選ぶと言っていたからだった。私も生物を選べば、日車くんのそばにいれるのではないかと思ったのだ。
……そう、私は日車くんのことが気になっていた。高校に入って初めての定期テストで彼に負けてから、私はずっと彼を追いかけてきた。まぁ、今のところテストは負け続けているのだが、いつか彼に勝ちたい気持ちもあった。
だが、それとは別にひとつ問題もあった。それは――
「そうね、化学でもよかったんだけど、どんなことやるのか気になってね。一応化学も勉強するつもりよ。あれ? 沢井さんもいるのね、ちょっと日車くんにくっつきすぎじゃないかしら?」
私はそう言って日車くんの右腕をツンツンと突いた。そう、日車くんはいいのだが、隣にいる
え? それがどうしたって? 実は日車くんと沢井さんがお付き合いをしているのだ。そのことに気がついたのは一年生の二学期だった。その前から何となく二人は仲が良さそうだなと思っていたのだが、まさかお付き合いしているとは。
「そんなことない……大島こそ離れろよ……」
沢井さんが日車くんの袖をきゅっとつまんで言った。
「あ、あのー、二人ともお願いだから仲良くしてくれないかなーなんて……あはは」
日車くんがちょっと引きつった顔で言った。ごめんね日車くん、沢井さんはライバルなの。簡単に仲良くするわけにはいかないわ。
「あ、私、ここに座っていいかしら?」
「あ、うん、いいよ。こうして集まるとなんだか一年生の時を思い出すね」
日車くんが笑顔でそう言った。やっぱりよく見ると、いや、よく見なくても可愛い顔をしている……私は密かにドキドキしていた。
(……なんとか生物でも日車くんと一緒になれたわね。まぁ、二年生でも一緒のクラスになれたから、それだけでも嬉しいんだけど。ふふふ、沢井さん残念ねクラスが違って)
心の中で沢井さんにちょっと勝ったつもりでいた。ふふふ、二人に何かあったら私が日車くんを奪っていくからね……。
* * *
その日の放課後、帰ろうかなと思って準備をしていると、少し離れた席で日車くんも帰る準備をしていた。私は話しかけてみることにした。
「日車くん、お疲れさま。もう帰るの?」
「あ、お疲れさま。うん、そろそろ帰ろうかなぁと思っていたところだったよ」
日車くんがまた笑顔で言った。うう、やっぱり可愛い……私は何度ドキドキすればいいのかしら。
「そうなのね、ま、まぁ、よかったら途中まで、一緒に帰らないかしら……?」
「あ、うん、いいよ……と言いたいんだけど、なんだろう、どこからかすごく視線を感じる……」
日車くんがそう言って少し震えたような仕草を見せた。視線? と思って周りを見渡すが、別にこちらを見ている人はいな――
「……あ」
「……あ」
二人で同じ言葉を言ってしまった。そう、教室にはいなかったのだが、廊下から沢井さんがすごい目でこちらを見ていた。放課後なんだから別に入ってきてもいいと思うのだが、違うクラスの教室には入りにくいのだろうか。
「お、大島さんごめん、絵菜も一緒にいいかな? たぶんそうしないと僕がボコボコにされそう……」
「な、なんか日車くんも大変なのね……私はいいわよ」
たしかに、優しい日車くんとちょっと怖そうな沢井さんだと、沢井さんの方がぐいぐいと引っ張っていきそうな感じはする。日車くんも苦労しているのね……。
「え、絵菜ごめん、待たせてしまったかな」
「ううん、大丈夫……って、二人で何の話してたんだ……?」
「え、あ、いや、一緒に帰らないかって大島さんが言ってただけで……」
「そうよ、日車くんが帰ろうとしていたから、私が声をかけただけよ。沢井さんどうしたの? まさか私に嫉妬してるのかしら?」
「……なんで大島に嫉妬しなきゃいけないんだ……」
「あ、あのー、二人ともケンカはよくないよ、な、仲良くね……あはは。じゃ、じゃあ帰ろうか」
日車くんを真ん中にして、左に私が、右に沢井さんが並んで帰る。沢井さんが日車くんの袖をきゅっとつまんでいるのを見て、私は日車くんの左腕に抱きついた。
「え!? お、大島さん!?」
「ふふふ、日車くんモテモテね、まぁ私みたいな可愛い子が腕組んであげるんだからね、ありがたく思いなさいよ」
「……自分で言うセリフじゃないな」
「さ、沢井さん? ふ、ふふふ、沢井さんより私の方が可愛いんだからね、それはもう決まっていることよ」
「……ふふっ、可愛い子にしては恋の噂が全くないよな」
「さ、沢井さん!? くっ、勝ったつもりでいるのかしら、今に何も言えなくしてやるわ……!」
「ちょ、ちょっと二人とも、僕を挟んでケンカするのやめてくれないかな……そしてすごく歩きづらいんだけど……あはは」
私がぐいぐいと日車くんに迫ると、沢井さんも負けじと日車くんの右腕に抱きついていた。
(……ふ、ふふふ、まぁいいわ、二年生も始まったばかりだからね、私は簡単にあきらめる女じゃないのよ。沢井さん、覚悟しておきなさいよ……!)
日車くんとのテストの勝負もそうだが、沢井さんにも負けたくない。私はこれまで以上に色々なことを頑張っていこうと強く思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます