第6話「遠距離恋愛」

 二学期のある日、俺、相原駿あいはらしゅんは、友達である日車団吉ひぐるまだんきちくんの家に行くことにしていた。

 というのも、この前の夏休みに日本に来たジェシカさんとまたビデオ通話をしようという話になったからだ。以前自分のスマホでジェシカさんと話したことはあったのだが、スマホを使ってしまうと翻訳アプリが使いづらいので、まだまだ俺の英語力では話すのが難しかった。

 日車くんは英語もできるし、パソコンを持っているので、また頼らせてもらおうと思っていた。日車くんのように翻訳アプリがなくても英語が話せるようになりたい。もっと勉強しなければいけない。

 二年生の時に日車くんと一緒のクラスになり、俺は変わっていった。それまで学校なんて楽しくないし、とりあえずギリギリでも高校だけ卒業しておけばいいかという思いだったが、日車くん、大島聡美おおしまさとみさん、富岡愛莉とみおかあいりさんとよく話すようになってからは、学校が楽しくなった。自分でも信じられないが、俺は嬉しかった。

 そんなことを思い出しながら駅前へ着くと、日車くんが来ていたみたいで、俺を見つけて手を振っていた。


「……こんにちは、ごめん、待たせたかな」

「こんにちは、ううん、さっき来たから大丈夫だよ。じゃあうちに行こうか」


 駅前から歩いて、日車くんの家に行く。以前もおじゃましたことがあるのでだいたいの道順は覚えていたが、日車くんは迎えに行くよと言ってくれた。

 これまで日車くんを見てきたが、彼は優しかった。勉強ができない俺のことも笑ったりバカにしたりせず、勉強も丁寧に教えてくれる。みんなが頼りたくなるのも分かるなと思った。

 二人で話しながら歩いていると、日車くんの家に着いた。「相原くん、上がって」と促されたので、「……お、おじゃまします」と言って上がらせてもらった。


「おかえりお兄ちゃん、あ、相原さんこんにちは! いらっしゃいませー」


 パタパタと足音を立ててやって来たのは、日車くんの妹の日車日向ひぐるまひなたちゃん。背が小さくて可愛らしい感じがする女の子だ。


「……あ、こんにちは、おじゃまします……」

「相原くんちょっと待ってて、パソコン持って来るね」


 リビングに案内された俺は、日向ちゃんと二人きりになる。や、ヤバい、何か話さないと……と思っていると、


「相原さん、ジェシカさんとお話するのは久しぶりですか?」


 と、日向ちゃんが話しかけてきた。


「……あ、うん、夏休みに会って以来かな」

「そうですかー! きっとジェシカさんも嬉しいと思いますよ、大好きな相原さんの顔が見れて!」

「……あ、そ、そうかな、うん、そうだといいな……」


 そう、俺とジェシカさんはお付き合いをしている。日本とオーストラリアなので遠距離恋愛というやつだが、俺は好きだという気持ちに距離は関係ないと思っている。


「パソコン持って来たよ、よし、準備するね」


 日車くんがパソコンを持って来て、慣れた様子で準備をした。ジェシカさんからメッセージも届いたらしく、日車くんは通話アプリの通話ボタンを押した。


『もしもし、ハロー、あ、みんな映ってるね!』


 パソコンからジェシカさんの声が聞こえてきた。画面にも笑顔のジェシカさんが映っている。


『こんにちは、お久しぶりです。ジェシカさんお元気ですか?』

『うん、元気だよー! 夏にそっちに行って以来だねー、ダンキチ、シュン、ヒナタちゃんは元気かな?』


 英語が分かるようで分からなかったので何も言えないでいると、日車くんが「みんな元気かなって訊いてるよ」と教えてくれた。


『……あ、こんにちは、俺も元気です』

『ジェシカさんこんにちは! 私も元気です!』


 俺と日向ちゃんが英語で話すと、ジェシカさんが『そっかー、みんな元気そうでよかったよー!』と言っていた。たぶんゆっくり英語を話してくれているのだろう。俺もなんとか聞き取ることができた。


『夏はありがとねー、ダンキチ一家にもお世話になったし、シュンやみんなに会えて嬉しかった! パパとママに写真を見せたら、日本もいいところだねって言ってたよ!』

『いえいえ、僕たちもジェシカさんに会えて嬉しかったです。楽しい思い出ができました』


 日車くんとジェシカさんが流暢な英語で話している。俺は半分くらいしか分からない。今まで勉強をサボっていた自分を恨みたくなったが、どうしてもジェシカさんに伝えたいことがあった。俺はスマホを見ながら、


『……ジェシカさん、お、俺、離れていてもジェシカさんが好きです。も、もっと英語勉強して、バイトもして、オーストラリアに行きます。だから、待っていてくれると嬉しいです……』


 と、たどたどしい英語で言った。日車くんと日向ちゃんの前で恥ずかしかったが、どうしても自分の気持ちを伝えたかった。


『シュン、ありがとう。私もシュンが好きです。この前会った時にね、もっと大好きになっちゃった。私と結婚してくれるんだもんね。ずっと待ってるよ。あ、私もまた日本に行くからね!』


 ジェシカさんが笑顔で言った……が、最後の方がよく分からなかったので日車くんに訊いて、言葉の意味をやっと理解することができた。け、けけけ結婚か……。


『……あ、は、はい、ジェシカさんを、お、お迎えに行きます……』

『ふふふ、赤くなってるシュンが可愛いねー! あ、日本語少し覚えたよ! 愛してるはアイシテルって言うんだよね! シュン、アイシテル!』


 ジェシカさんが楽しそうに言っていた。アイシテル……か。恥ずかしいけど、嬉しかった。


『あはは、ジェシカさん、駿くんに伝わっていますよ。僕も駿くんに英語を教えますので、次会った時はもっと英語が上達していると思います』

『うん、楽しみにしてるよー! あ、ヒナタちゃん、また女子の秘密の話しようね!』

『……あ、わ、私か、はい! また一緒に女子の秘密の話しましょう!』


 じょ、女子の秘密の話……というのがよく分からなかったが、ジェシカさんと日向ちゃんが楽しそうだ。まぁいいか。

 それから四人で色々な話をしていた。ジェシカさんの楽しそうな笑顔が見れて、俺は嬉しい気持ちになっていた。

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