第5話「彼氏と彼女」
(や、やべぇ、なんか緊張してきた……楽しみにしてるんじゃなかったのかよ……)
駅前のベンチに座って、俺、
なぜこの暑い時に駅前にいるかというと、
この前、花火大会の時に高梨に告白した。女の子に告白されたことはあったが、自分から好きだという気持ちを伝えるのは初めてで、俺は足が震えていた。フラれるかもしれないと思っていたら、高梨も俺のことが好きだと言ってくれた。俺はそれが現実なのか分からなくなってしまったが、高梨もフラれるのが怖くて言えなかったと言っていた。同じ想いだったんだなと知って、二人で笑った。
そして、俺たちは
「あ、や、やっほー、ごめん、待たせちゃったかな」
そんなことを考えていると、ふと声をかけられた。見ると高梨がいた。高梨はロゴ入りの白いノースリーブのシャツに、ブラウンのショートパンツ、足元は白いスニーカーを履いていた。高梨は女の子の中でも背が高い。綺麗な腕と、スラっと伸びた足に俺はドキッとしてしまった。
「お、おっす、いや、大丈夫、俺が早く着いてしまったから」
「そ、そっか、ひ、火野くん、カッコいいね……ドキッとしちゃった……」
「え、あ、そうかな……た、高梨も、綺麗だよ……」
「そ、そうかな、あ、ありがとー……」
どことなく会話がぎこちなかった。や、ヤバい、こういう時は男の俺がしっかりしないと……。
「じゃ、じゃあ行こうか、電車ももうすぐ来るだろ」
「そ、そだねー、行こっか」
二人で並んで歩き出す……のと同時に、俺は高梨の手をそっと握った。高梨の顔を見ると、ニコッと笑いかけてくれた。高梨はかなり美人だ。こんな綺麗な人が俺の彼女だなんて、ちょっと不思議な感覚になる。
「……ん? どうかした?」
「あ、い、いや、なんでもない……あ、電車来るみたいだな、乗ろうぜ」
あ、危ない、あまりに綺麗でドキドキしてるなんて恥ずかしくて言えない……しっかりするんじゃなかったのか俺。
電車で移動して、ショッピングモールにやって来た。そういえばこの前団吉と沢井もここでデートしたと言っていた。あの団吉が女の子と二人で出かけるのがめずらしくてビックリしたが、最近よく一緒にいるからそれも納得だった。
二人でショッピングモールの中を色々と見て回る。「あ、猫ちゃんだー、可愛いよねー」と言っている高梨がまぶしくて、俺はなかなか直視できないでいた。
「あ、もうすぐお昼だね、なんか食べよっか」
「あ、そうだな、フードエリアに行ってみるか」
二人でフードエリアに行く。夏休みということもあってか人は多かったがなんとか座ることができた。高梨はたこ焼きを、俺はお好み焼きを食べることにした。
「あつーい! けど、たこ焼き美味しいなぁ」
「あはは、やけどしないようにな、お好み焼きも美味しいぜ」
「ふふふ、火野くん優しいよね、でも……」
そこまで言った高梨が、少し下を向いてしょんぼりしたような顔になった。
「え、あ、どうした?」
「あ、いや、火野くんはモテるから、女の子みんなに優しいのかなーなんて……ちょっと不安になっちゃった……ご、ごめんね、せっかく楽しくやってるのに」
高梨の言葉を聞いて、俺は奥歯をぐっと噛みしめた。彼女を不安にさせたくない。男なら誰でもそう思うだろう。そう思った俺は――
「た、たかな……優子、聞いてくれ」
少し下を向いていた高梨が、ビックリしたような顔で俺を見た。
「お、俺はその……性格みたいなものはなかなか変えられないと思うけど、優子のことが大好きなのは変わらないんだ。今日も綺麗な優子を見てずっとドキドキしているし、その、俺のことを信じてほしいというか……」
なんか最後の方がグダグダになってしまった気がするが、なんとか自分の気持ちを伝えることができたのではないかと思う……って、あ、あれ? 俺は今なんて呼んだ?
「……ふふふ、優子って呼ばれるのがこんなに嬉しいって思わなかった……ありがとー。そうだ、わ、私も火野くんのこと……そうだな、陽くんって呼んでいい?」
「え、あ、ああ、いいよ……」
「ふふふ、ありがとー。陽くん大好きだよ……って、花火大会の時にも言ったねぇ」
そう言って優子がクスクスと笑ったので、俺も笑った。陽くん……か、初めて呼ばれるけど、特別感があって嬉しかった。
「あ、そういえば団吉と沢井もいつの間にか下の名前で呼び合うようになってたな」
「あ、そだねー、ビックリしたけど、あの二人も仲良くなってるんだねぇ」
「ああ、しかし俺の気のせいかもしれないけど、もしかして沢井って――」
「あー、ストーップ! それ以上は言わないでおこうよー。私たちがあの二人を見守るってことで」
「な、なるほど、そうだな、それがいいのかもしれねぇな」
また優子が笑ったので、俺もつられて笑った。そうだな、あの二人がさらに仲良くなってくれることを祈って、そっと見守るのがよさそうだ。
たこ焼きとお好み焼きを食べた俺たちは、またショッピングモールを見て回った。優子の手の温もりが伝わってきて、俺はとても嬉しかった。
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