第14話「苦手克服」

(うーん、どうしようかなぁ、私にできるのかどうか……)


 スマホで生徒用ホームページを見ながら、私、潮見梨夏しおみりかは、ちょっと考え事をしていた。私には難しいかな、いや、何事もやってみないと分からないよな、そんなことが頭の中でぐるぐると回っている。


(――誰でも苦手なことってあるし、これからちょっとずつ練習していけばいいんだよ)


 以前、まりりん……東城麻里奈とうじょうまりなさんにそう言われたことがある。私は敬語が苦手で、これまではそれでもなんとかやっていけるだろうと思っていた。しかしまりりんがビシッと怒ってくれたことで、私はこのままではいけないと思うようになった。自分を変えたい。そのために今見ているこの募集に立候補してみたいと思った。それは――


「梨夏ちゃん、どうかした? なんか難しそうな顔をしてるけど」


 ふと顔を上げると、ひなっち……日車日向ひぐるまひなたちゃんと、まなっぺ……沢井真菜さわいまなちゃんが心配そうにこちらを覗き込んでいた。そんなに険しい顔をしていたのだろうか、ちょっと恥ずかしくなった。


「あ、いや、ちょっと考え事してて」

「そっか、なんか悩みでもあるの?」

「あ、それが……これに立候補しようかと思ってるんだけど、なかなか決断できなくて……」


 私はそう言って、二人に今スマホで見ていたページを見せた。


「ん? これは……『生徒会役員になりませんか?』って書いてあるね。あ、もしかして、生徒会役員に立候補したいってこと?」

「う、うん、そーなんだ……」

「えー! すごい! 梨夏ちゃん立派だね! 私もそのページ見たけど完全スルーしてたよー」

「まあまあ、梨夏ちゃんすごいね! 生徒会役員ってことはこの学校の支配者だね!」


 ひなっちとまなっぺが褒めてくれた。ちょっと恥ずかしかったが、私は「えへへ……」と言って笑顔を見せた。

 そう、さっきから考えていたのは、生徒会役員に立候補することだった。これまで学校で大した仕事もしたことのない私だが、生徒会役員になれば何か変われるのではないかと思った。でも本当に未知の世界で、ちょっと不安と迷いもあった。


「ううん、そんなにすごくはないんだけどね、まりりんに敬語を練習しようって言われて気がついたんだ、私このままじゃいけないって。だから何かをやって自分を変えたいって思って」

「そっかー、東城さんが言ってくれたのかぁ。でも、ちゃんと受け止めて変わろうとしている梨夏ちゃんは偉いよ!」

「まあまあ、東城さんが……! うんうん、日向ちゃんの言う通りだね、なかなかできることじゃないと思うよ」


 またひなっちとまなっぺが褒めてくれた。嬉しい気持ちになる私は単純なのかもしれない。


「――あ、みんないた! こんにちは!」


 その時、ふと声をかけられた。見るとまりりんがニコニコしながらこちらにやって来た。まりりんとケンカして仲直りして以来、まりりんはたまに私たちのクラスに遊びに来ることがある。


「あ、東城さん! こんにちは!」

「ふふふ、遊びに来ちゃった! 三人で楽しそうにしてたけど、女子の秘密の話?」

「はい、そんなところです。実は梨夏ちゃんが――」


 そう言ってまなっぺがまりりんに説明をした。


「え!? 梨夏ちゃんが、生徒会役員に!? すごーい!」

「あ、いや、実はまだちょっと不安もあって、どうしようかなって迷ってるところで……」

「そうなんだね、でも、やりたいって思ったことはすごいことだと思うよ!」

「そ、そっかな……まりりんに言われて気がついたんだ、私このままじゃいけないって」

「ああ、ということは私に刺激を受けたということなんだね、ふふふ、なんだか嬉しいなー」


 そう言ってまりりんはニコッと笑顔を見せた。さすがアイドル、可愛いなと思った……が、まりりんはすぐに真面目な顔になった。


「私もね、アイドルを始める時はすごく不安だったよ。私なんかにできるかなって。でも、今は挑戦してよかったと思ってる。梨夏ちゃんも不安になるのは分かるけど、自分を変えたいって思ったことを大事にして、一歩踏み出してみない?」


 まりりんが真面目な顔で言った。そっか、やっぱり誰でも最初は不安や迷いがあるんだな。私だけじゃない。そう思うと少し楽になった気がした。


「……うん、そーだね、私やってみたい。そして敬語もちゃんとできるようになって、しっかりした人になりたい……けど、なれるもんなのかな?」

「うんうん、その気持ちを忘れないでね。あ、生徒会役員だったら、団吉だんきちさんに訊けばなんとかなるんじゃないかなぁ? ほら、団吉さん副会長だし」

「ああ! そうですね、梨夏ちゃん、明日お兄ちゃんに話してみよっか」

「まあまあ、たしかにお兄様なら今のこの学校の支配者だし、なんとかしてくれそうな気がしますね」


 三人がだんちゃん……日車団吉さんのことで盛り上がっている。たしかにだんちゃんなら副会長だし、みんなが言う通りなんとかしてくれそうな気がした。


「そーだね、だんちゃんに訊いてみようっと! えへへ、なんかちょっとできそうな気がしてきた!」

「うんうん、梨夏ちゃんならできるよ。あ、団吉さんといえば、この前廊下で会ったら生徒会長と書記だっけ、美人の女の子二人に囲まれてたよー」

「えー! お兄ちゃん、浮気はダメだって忠告したのになぁ」

「まあまあ、お兄様はやっぱりモテモテですね、すごいです」


 それからしばらくだんちゃんの話で盛り上がった。今頃だんちゃんくしゃみしてないかなと思った。

 それにしても、私が生徒会役員か……なんかちょっと不思議な感じがするが、もしなれたら頑張りたいなと思った。

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