第3話「初めての訪問」
(や、ヤバい、今になって緊張してきた……しっかりしろ……)
電車が駅に着いて降りて、ホームを歩いていたら、あたしは急にドキドキしてきた。
修学旅行のオーストラリアから帰ってきた次の日、学校が休みだったので、あたし、
(今日は平日だけど、だ、大悟の家に行くってことは、お母さんとかいたりするかもしれないんだよな……真面目な大悟の彼女がこんなギャルだって分かったら、き、嫌われてしまうのでは……い、いや、そんなことはない……はず)
そんなことをぐるぐる考えながら改札を通ると、向こうに大悟がいるのが見えた。こちらに気づいたようで、小さく手を振っている大悟が可愛かった。
「こ、こんにちは、ご、ごめんねわざわざ来てもらって」
「ううん、大丈夫だぞー、ごめん待たせたかな」
「う、ううん、大丈夫。じゃあ行こうか、こ、ここからちょっと歩くけど」
大悟がそう言って歩き出したので、あたしも大悟の隣で一緒に歩き出す。あ、手とかつないでもいいかな……と思って、そっと大悟の左手を握ると、大悟はちょっとびっくりしたような顔をしたが、すぐ笑顔になった。その笑顔も可愛かった。
「な、なぁ、大悟のお父さんやお母さんには、あたしのこと話してたりするのか……?」
「ん? あ、ああ、話したよ。写真を見せろって母さんがうるさかったから、こ、この前二人で撮った写真を見せたら、『あら、可愛い子じゃない』って言ってたよ」
「あ、そ、そうなんだなー……あはは」
か、可愛い子と思われたのか、第一印象はわりとよさげ? い、いや、まだ写真だからな、油断するなよあたし……。
二人で話しながらしばらく歩いて、大悟の家に着いた。大悟が玄関を開けて、「ど、どうぞ入って」と言ってくれた。あたしは「お、おじゃまします……」と、小さな声で言って上がらせてもらった……って、あれ? 玄関に靴が少なかったような……。
「あ、あれ? 大悟、家に誰かいないのか……?」
「ん? あ、ああ、今日は平日だから父さんも母さんも仕事に行ってるよ」
あーなるほど、お父さんとお母さんはお仕事か……。
……って、えええええ!?
(え、え!? ってことは、この家にはあたしと大悟の二人しかいないってこと……!? ま、まさか大悟は、誰もいない家にあたしを連れ込んで、あんなことやこんなことしようとかなんとか思っているとか……い、いや待て、大悟はそんな人じゃない、落ち着け、落ち着くんだあたし……)
「……か、花音? どうしたの?」
大悟に言われてあたしはハッとした。い、いかん、どうも変なことばかり考えてしまう。
「あ、い、いや、なんでもない……そっか、お父さんとお母さんはお仕事か……」
「う、うん、花音が今日来ることは話してあるから、大丈夫だよ。こ、こっちに僕の部屋あるから」
大悟がそう言って部屋に案内してくれた……って、だ、大悟、全然大丈夫じゃないぞ、誰もいない家に、女の子入れてるんだぞ……と思ったが、何も言わないことにした。
大悟の部屋は片付けられていて、机と大きなパソコンと、本棚とタンスと小さなテーブルとベッドがあった。アイドルのグッズらしきものも並んでいるな。男の子の部屋ってもっと散らかっているイメージがあったが、みんなこんな感じなのだろうか。
「ご、ごめん、クッションあるからそこに座って」
「あ、うん、へ、へぇ、綺麗な部屋だな。本がたくさんあるな」
「あ、う、うん、本はどんどん増えていくからね、クローゼットにもいくつか入れてるよ」
「そっかー、そういえば大悟がおすすめしてくれたラブコメ小説、面白かったよー。主人公がかなりニブくてさー、ヒロインが猛プッシュしてきてるのに、気づかないのかよー! って心の中でツッコミ入れてしまったよ」
「そ、そうだね、あの主人公けっこう鈍感だもんね、実際にはあまりいないのかもしれないけど、そ、そこがまたいいというか」
大悟がニコニコしていた。やっぱり本や小説が好きなんだな、楽しそうなのが伝わってくる。そんな大悟も可愛かった。
しかし、そこまで話して部屋がシーンとなってしまった。や、ヤバい、何か話さないとと思うが、何を話せばいいのかよく分からなくなってしまった。せっかく大悟と一緒にいるのに、何も話さないのはもったいなさすぎる。そう思ったあたしは――
「……あ、あのさ、と、隣に行っても、いいかな……?」
あたしはちょっと下を向いて、ぽつりと言った。
「え、あ、う、うん……」
大悟がうんと言ったので、あたしは立って大悟の隣に行って、ちょこんと座った。あ、あたし何やってんだろ、ドキドキする……と思っていたら、大悟がそっとあたしの手を握ってきた。あたしは嬉しくなって、大悟の腕に抱きついた。
「え!? あ、か、花音……?」
「……ごめん、嬉しくて、くっつきたくなっちゃった……い、嫌か……?」
「う、ううん、嫌じゃないよ。ぼ、僕、実は女の子を部屋に入れたの初めてで、ど、どうしたらいいのかよく分からなくて……」
「あははっ、そっか、あたしが初めてなんだな……嬉しいな、大悟の初めてになれて……」
あたしはそう言って、大悟の肩に頭を寄せた。大悟が右手であたしの頭をなでてくれた。
「……か、花音が、か、可愛くて、僕ずっとドキドキしてる……ご、ごめん」
「あははっ、謝らなくていいよー、マジ嬉しくてあたしもずっとドキドキしてるんだ……もう離れたくないな……」
「そ、そっか、恥ずかしいな……あ、そういえば
「そっか、あたしも日車と姐さんに報告したんだ、色々聞いてもらってたからなー」
それからあたしたちはくっついて色々な話をしていた。ヤバい、こうして大悟と一緒にいれることが嬉しすぎて空飛んでしまいそうだ。
大悟は女の子と話すのが苦手だと言っていたが、あたしとは普通に話せている。やっぱりあたしが特別みたいで、それも嬉しかった。
初めてデートした時に思ったように、このまま時が止まればいいのになと、密かに思っていた。
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