第69話 笑顔
俺の名は犬族のアントン。
お頭達と『屋台の店シルバー』に来ている。
のっそり。
大型のシルバーウルフが動く。
なぜ、こんな街中に大型のシルバーウルフがいるのだ?
しかもこいつは高位の進化系の魔物だ。
「ひぃ、ひぃ~」
「助けてくれ~」
狐族のジョフレと狼族のヨルゲンが座り込み情けない声を出す。
アモスお頭はさすがだ。
こんな魔物を見ても動じていない…。
いや、違う。
動けなくなっているのか?
すると後からやって来た冒険者達が、魔物に声を掛けている。
「こ、これはシルバー様。お元気そうで…」
「相変わらず、
『ワフッ!』
一声軽く吠えると『なんだ、用事が無いなら呼ぶなよ』、そう言いたげな顔をして魔物は厨房の奥に戻って行く。
「お、おい、姉ちゃん…。あ、あれはなんだ?」
「知っていて来たのでは?あれはシルバー。この店の看板狼よ」
「看板狼だと?!魔物が普通に居る訳が無い。優秀な
「そんな~、優秀だなんて」
「なにを照れているんだ?」
すると冒険者の一人が教えてくれた。
「知らなかったのか?このスズカさんは冒険者ギルドでは有名な、Aランクの
「Aランクだと?この女の子がか?」
まさか高位の
あんな魔物を従えているなら、誰もこの店に手出しをする奴はいないだろう。
命は惜しいからね。
「私はもう17歳です!!あなた達は、この辺りの地回りの人なのですか?」
女の子にしか見えない子が17歳とは…。
「あぁ、そうだ。だがそれも以前の話だ」
「アモスお頭!!」
「いいんだもう。明日からまた仕事を探すしかない」
「どう言うことかしら?」
「俺達は獣人だ。仕事を探しても雇ってくれるところも無い。あったとしても低賃金でこき使われるだけだ。生活も
「働きたいけど仕事もなく、悪いこともできない、と言うことね。」
「そう言うことだ。冒険者でやって行くには装備を買い揃える金も無い。武器の扱いを教えてくれる人も居ない。八方ふさがりなのさ」
「では仕事を探している、ということなのね」
「まあ、そう言うことだ。だが俺達が働けるなんて、
「四人共、仕事を探しているの?」
「そうだ」
「百円単位の計算は出来る?」
「あぁ、あまり大きな数字はわからないが、食事代くらいの計算ならできるぞ」
「それなら良いわよ、
「どういうことだ?」
「雇うということよ、どう?」
「ほ、本当か?!」
俺達は耳を疑った。
人族が俺達をこんな簡単に雇うなんて。
きっと何か良くない裏があるのでは…、そう思ってしまう。
「いつからこれそう?」
「ほ、本当に俺達を雇ってくれるのか?姉ちゃん」
アモスお頭が声を上げ聞いている。
「私は姉ちゃんではなくてスズカよ」
「わ、悪かったスズカさん。俺はアモス。この三人はジョフレとヨルゲン、そしてアントンだ。明日からでも来れるぜ」
「では、明日の朝から来てくださいね。みなさん」
そう言うと彼女は人族が俺達獣人に、向けるとは思えない程の笑顔で微笑んだ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
いつも応援頂いてありがとうございます。
※地回りとは
地付きの顔のきく者。盛り場などを縄張りとして仕切る者をいう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます