第13話 商人ヤルコビッチ

 私の名はヤルコビッチ。

 シェイラ国王都のファグネリアで、商人をやっている。


 定期的に東にあるジェイラスの町へ、小麦や日用雑貨を売りに行っている。

 その日もジェイラスの町に行き販売が終わった帰り道、不思議な少女と会った。


 夕暮れになり野営の準備のため、道端に休んでいる時だった。

 暗がりの中から急に女の子が1人現れた。

 そして驚いたことにシルバーウルフを5匹従えてた。

 しかもその内の一匹は銀色の毛並みだった。

 毛並みが銀色になるのは上位の魔物の証だ。

 普通に考えても調教師テイマーが5匹の従えるのは難しいと聞く。

 しかもこんな少女が…。


 少女は髪が背中まで伸び、この国では珍しい黒髪、黒い瞳だった。

 数百年前に召喚された勇者の子孫が黒髪、黒い瞳だったと聞く。

 しかし時は流れ血は薄くなり、黒髪は居ても黒い瞳は見たことが無い。

 勇者の血筋?

 または召喚者か?


 しかし変なところがある。

 王都方面から来たはずなのに、王都に向っていると言う。

 我々に会わなければ、王都とは逆方向に進んでいたことになる。

 途中の村から出てきたと言うが村があったか?

 確かに村とは呼べない規模の集落はあるが…。


 それにシルバーウルフを魔物だと分からず、犬だと思っていたと言う。

 そんなことがあるのか?

 1.5m以上ある2本の角を生やした犬が居るのか?


 そんな彼女に魔物も懐いており、甘噛みを絶えずしていた。

 しかし甘噛みというよりは、食べようとしているけど噛むことが出来ない、そんな感じに見えた。

 例えば私が甘噛みされたら、きっと手足が千切れるだろう。

 そんな勢いだったからだ。


 そしてシルバーウルフ達に食事を出した時には驚いた。

 何もない空間から餌とお皿を出したからだ。

 マジック・バッグは商人なら、喉から手が出るほどほしいものだ。

 しかし容量が少ないものが多く、馬車1台分も入る物なら国宝級となるだろう。


 そして魔物達にあげている餌が、とても美味しそうな匂いをしている事に驚いた。

 話を聞くと犬族用の食べ物だと言う。

 犬族用の食べ物なんてあったのか?

 そう思ったが冒険者で犬族のジョヴァンニさんが、匂いに釣られ分けてほしいと言いだした。

 スズカさんは分けることは出来るが、いくらにして良いのか分からないと言う。


 そこで私が相談に乗った。

 聞くと材料はビーフとチキン。

 それに緑黄色野菜や小魚が入り、ペースト状のものは鳥の胸肉で原価は157円だと言う。

 信じられない!!

 我々でさえ肉は貴重で、中々口にする事が出来ないと言うのに。

 

 店を構えているなら経費を乗せないといけないが、品物は無くなったお父様の仕入れた在庫だと言う。

 自分が仕入れていないから、だから価値観が合わないのか。

 利益率を35~37%と考えても200円くらいしかならない。

 考えられないくらい原価が安すぎる。

 しかしこんな野営をしているなら、500円と言うところが妥当か。

 あまり高すぎるのも問題だから。


 そしてその美味しそうな匂いに食をそそられたイングヴェさんが、猫族用の食事はないのか聞いていた。

 すると猫族用の食事もあると言う。

 いったい猫族用と犬族用で何が違うと言うのだろうか?



 そのスズカさんも夕食を食べようとしている。

 マジック・バッグから取り出したのはまっ白なパンだった。

 小麦は貴重で庶民には中々手に入らないものだ。


 しかもイチゴとブルーベリージャム、そしてハチミツの入った瓶を出した。


 信じられなかった。

 砂糖や果物は高級品でジャムは高価になる。

 ましてはハチミツなど、魔物の巣から採るために命がけとなる。

 それを気軽に差し出すとは…。

 その価値すらも、わかっていないようだ。

 そして貴重な水も気前よく差し出す。


 彼女は危うい。

 誰かが守ってあげなければ…。

 

 どうやら彼女は調教師テイマーではなく、商品を売って生計を立てたいようだ。

 その方が良いかもしれない。

 冒険者なら命の危険が付きまとうものだから。



 これも女神ゼクシー様のお導きかもしれない。

 私であれば商売を通じてスズカさんの力になれるだろう。

 まずは王都に着いたら、これからのことを考えなければ…。


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