第57話 デザート

「このシチューの名前はなんというのでしょうか?」

「はい、ハッシュドビーフです」

 そう答えた。


 こういう時はカレーが定番だと思うけど、私はワインビネガーとケチャップの酸味が食をそそるこのハッシュドビーフが大好きだった。


「もしよろしければこのシチューのレシピを、教えて頂く訳にはいきませんか?実は2週間後に晩餐会を控えておりまして…。遠方からのお客様も多く、目新しいものを模索中でして…」

「う~ん」

「あっ、やはり無理ですか…」

「あ、いえ、そうではなく、調べてみます」

「調べるですか?」


 私は『ヘルプ』機能を使い『ハッシュドビーフ』について調べる。

【ハッシュドビーフ】・・検索開始・・… … 完了!

 薄切りにした牛肉をマッシュルームケチャップと肉汁のスープで煮る、ワインビネガーとケチャップを煮詰めたソースで煮るシチューです。


 わからん?

 あぁ、そうだわ!!

 私はいちからハッシュドビーフを作るやり方なんて知らない。

 生活に必要なかったから、でもルーがあれば作ることはできる。

 それなら作り方の説明をして箱ごと販売すればいいわ。

 転移前の世界に居た時と同じよ。

 作り方は分からなくても誰でも『〇〇の素』で作れば簡単に出来るものね。


「お教えしてもいいですよ」

「そうですよね、料理のレシピは普通は秘蔵ですから…」

「いや、ですから」

「これ、ダニエル。スズカさんは先ほどから、教えてもいいと言っているだろう」

「本当でしょうか?あ、ありがとうございます。助かります」

 ワイアット公爵から紹介された、ダニエルさんはここの料理長だと言う。


 私は左手にタブレットを持っている格好をした。

 そして『ネットスーパー』を立ち上げる。

 するとタブレットの画面くらいの画像が映る。

 guruguruグルグル Playを立ち上げて…。

 『ネットスーパー』アイコンをタップする。

 傍から見たらアホの子に見えるのだろうな?


 私はハッシュドビーフの箱をストレージから取り出した。

「ダニエルさん、今から料理の作り方を説明しますね。しかし教えると言うよりシチューの素を購入して頂くことになりますけど」


「購入ですか?わかりました、ちょっとお待ちください」

 そう言うと筆記用具の用意を取りに、屋敷に一旦戻っていく。


「スズカさん、この箱に書かれている文字は…」

「ワイアット公爵、それは私の国の文字です」

「そうですか…、この文字が…」


「お待たせいたしました。お願いします」

 戻ってきたダニエルさんに簡単な手順を話す。

 アクが取れたらルーを入れ、かき回して出来上がり!!と説明した。


「え?これでもうできあがるのですか?」

「そうです。私の住んでいた国の製法で作られたものですから」

「そんな貴重なものを分けて頂けるなんて…」


「それと来賓を驚かすようなデザートをご存じ無いでしょうか?」

「ダニエル控えなさい、図々しいぞ」

「しかし公爵様、今回の晩餐会はハイラムお坊ちゃまの、12歳の誕生日も兼ねておりますので」

 テレザお嬢様のお兄さんのことね。


「わかりました、探してみます」

「探すですか…」



 私はネットスーパー『SAY YOU』サイトの中を探していく。

 あっ、あった。

 これなんかどうかしら?


「ダニエルさん、お湯はすぐに沸かせますか?」

「もちろんです。お屋敷にも魔道コンロはありますから」

「それなら簡単に作れる良いデザートがありますよ。きっと喜ばれると思います」

「本当ですか?で、では、さっそく教えてください!!」


 そう言うダニエルさんの顔が必死で怖かった。


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