第11話 欲しがり屋さん

 ジャムがあると話した途端、商人のヤルコビッチさん、冒険者のゲオルギーさんとアレクサンデルさんの3人が驚いている。


 なぜだろう?

「本当ですか?スズカさん」

「えぇ、本当です」

 アレクサンデルさんが聞いてくる。

 ここで嘘を言う必要があるのか?


「ハチミツがあるとは、信じられん!!」

 ヤルコビッチさんまで言っている。

 どうしてだろう?

 仕方がない。

 現物を見せるか?


 そう思い私はネットスーパーで、ハチミツとブルーベリーを追加購入した。

「はい、これです!!」

 そう言うと私はイチゴとブルーベリージャム、そしてハチミツの瓶を出した。


「「「 こ、これは?! 」」」


 ヤルコビッチさんと冒険者4人が口を上げて呆然としている。

 なぜ?!


「こ、こんな貴重な物を頂く訳には参りません」

 ヤルコビッチさんが驚いた顔で私に言ってくる。

「どうしてでしょうか?」

「どうしてと言われましても。こんな歪みのない透明なガラスでできた、容器に入ったジャムなど見たことがありません。どれほどの価値があることか…」

「ガラスが珍しいのでしょうか?」

「勿論です!!ガラスを使うなど、よほどの富裕でもない限り使っておりません。まして容器に使うなど、こんな贅沢で無駄なことはしません」

 あぁ、この世界ではガラスが高価だと言うことね。



「しかもジャムもそうです。イチゴとブルーベリージャムなどと。それに私には妻がおります。スズカさんのお気持ちにお応えする訳には参りません」

 なんの話だ~??

 私が不思議そうな顔をしていると、ゲオルギーさんが聞いてくる。


「もしかしたらスズカさんは、ジャムを誰かにあげる意味を知らないのでは?」

「どう言う意味でしょうか?」

「やはりそうか。スズカさんはちょっと世間とズレているから、もしやと思ったが。街に行って1人で暮らして行けるのか?」


 し、失礼な!!

 するとゲオルギーさんが訳を話してくれた。


 そもそも砂糖や果物は高級品で、加工した甘いものは更に価値があると言うこと。

 役人に賄賂を渡す時も、お金以外なら甘いものが代わりになる。

 甘いものなら見つかっても、硬貨ではないから賄賂にならない。


 そして異性にあげる場合は別の意味となる。

 高価な甘いものをあげるという事は、愛の告白と同じだ。

 富裕層の間では高価な物を差し出し、二人で甘い恋を囁こうと言う意味になる。


 ましてガラスは高価で、そんな容器に入ったジャムは値段が付けられない。

 それを頂くなど未だかつてそれほどの、求愛を聞いたことが無いそうだ。


 では何?

 私は商人のヤルコビッチさん、冒険者のゲオルギーさんとアレクサンデルさんの3人に告白したと言うこと?

 なんだそれ?


 そしてハチミツは更に貴重だそうだ。

 1mはあるキラービーという、魔物の巣からハチミツを採るそうだ。

 何百匹のキラービーを相手すること自体、難易度が高い。

 だからどんなに欲しくても売っていない。

 どんなにお金を積んでも買えない。

 それがハチミツだって!!


 なるほどね。 

 それほど貴重な物を簡単に出せば驚くわよね。

 でも出してしまったので、そこはスルーで。


「まあ、でも在庫なのでお気になさらずに…」

「そう言われましても…。値段も思い付きません」

「では今回だけと言うことで、1枚500円でどうでしょうか?」

「ヤルコビッチさん、せっかくスズカさんがそう言ってくれているんだ。お言葉に甘えましょう」

「しかし、ゲオルギーさん…」

「さあ、どうぞ、どうぞ!!」

 そう言いながら私はジャムの蓋を開けていく。


「判りました。頂きます!!」

 そう言うとヤルコビッチさんは、パンにジャムを塗って行く。

 

「おぉ、旨い~!!」

「本当に美味おいしい」


 そしてハチミツをパンに塗る時には、全員が緊張した顔をしていた。

「「甘い~!!」」

「「これがハチミツか?!」」

「「俺、初めて食べたよ」」

 3人で物凄く驚いた顔をしながらパンを食べている。

 初めて食べる人にしてみれば、それほどの感動なのね。


 そしてジョヴァンニさんと、イングヴェさんを見ると食べたそうな顔をしている。

 さっきペットフード食べたよね?


 えっ?別腹?

 仕方がないわね。

 私は彼等にもパンとジャムを手渡す。


 もう、みんな欲しがり屋さんだね!!


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