第9話 欲しがる

「そろそろ食事にしましょうか?」

 商人のヤルコビッチさんが、みんなに声を掛けている。

 冒険者の人達も何やら、バッグから食べ物を出しているようだ。


 街灯もない暗い道を歩くのは危険だから、今夜はここで野宿だ。

 そして陽が昇り次第、街を目指す。

 私もそれに同行させてもらえることになった。

 これで一安心、一人で不安だったのよ。

 


 そうそう、ワンコ達にご飯をあげないとね。

 私はストレージから犬の餌を入れる食器を5個出した。

「えっ?!」

 ヤルコビッチさんや冒険者のゲオルギーさんが驚いている。

 そうか、突然何もない空間から物を出したら驚くよね。

 気を付けよう。


 そして食べかけのドライフードをお皿に分けて入れる。

 あぁ、そうだわ。

 そう考え私は左手にタブレットを持つような仕草をし、視界の中にあるアイコンをタップして『ネットスーパー』を立ち上げる。

 そして『ペットコーナー』を探す。

 あった!!


 今夜でお別れだから奮発して、犬大好き『ワンチュール』を購入しようと思う。

 やっぱり肉系のささみチキンが良いかな。

 そしてドライフードが入ったお皿の上から、購入した『ワンチュール』をかけスプーンを購入しかき回す。


 カラ、カラ、カラ、カラ、カラ、

  カラ、カラ、カラ、カラ、カラ、


「さあ、どうぞ。召し上がれ」

 そう言いながら私は、餌の入ったお皿をワンコ達の前に置いて行く。


 ワン、ワン、ワン、ワン、ワン、ワン、

  ワン、ワン、ワン、ワン、ワン、ワン、

   ワン、ワン、ワン、ワン、ワン、ワン、


 ワンコ達はとても喜んで、美味しそうに餌を食べている。


「あの~スズカさん。マジック・バッグをお持ちなのでしょうか?」

 ヤルコビッチさんが聞いてくる。

 マジック・バッグ?

 何それ?

 私はタブレットの『ヘルプ』機能を使う事にした。

 マイクマークをタップする。

 すると人の顔をしたマークが浮かぶ。

 これに質問すれば良いのね。


 左手を口に近づけ質問をする。

「マジック・バッグとは?」

 すると画面に文字が浮かぶ。

『見た目以上に物が入る魔法の鞄。収納魔法が付与されており、古代遺跡より発掘される』

 そうなんだ。

 ストレージみたいなものね。

「えぇ、まあ、そうです」

 そう私は曖昧に応える。

 でもなぜかヤルコビッチさんが、不思議そうな顔をして私を見ている。


「ではそのバッグはどこにあるのでしょうか?」

 あっ!しまった。

 私が持っているのは首から下げた水筒だけだったわ。

 マジック・バッグは鞄ね。

 鞄、鞄、鞄と。

『ネットスーパー』の中で鞄を捜したけど無いみたい。

 それならこれでいいか?

 そう思いポーチがあったので、購入しストレージから出して首から下げた。


「はい!これがそうです」

「そ、そうですか。ですが後付けで出て来るとは思いませんでした」

「まあ、バッグも色々ありますから」

「そうですね」

「そうですよ」

「・・・・・・・・・・・」


「「あはははははは!!」」



「あの~スズカさん。その魔物達が食べているのは、なんでしょうか?」

 冒険者で弓担当のジョヴァンニさんが聞いてくる。


「あぁ、これはドッグフードです」

「ドッグフードですか?」

「犬族専用の食べ物です。まさかこの子達が魔物だとは知らなかったので、与えてみたのですが美味しそうに食べてくれるので」

「何が入っているのでしょうか?」

 私はドッグフードの『愛犬元気んげんきん』の袋を取りだし見てみる。

「そうですね、主にビーフとチキン。それに緑黄色野菜や小魚ですかね」

「その後からかけたペースト状のものは…」

「鳥の胸肉ですね」

 私は入物の品質表示を身ながら応える。

「そんなに入っているのですか?!道理で美味しそうな匂いが…。私に少し売って頂けませんか?」

「へっ?!」

 そう言うとジョヴァンニさんは、皮の兜を脱いだ。

 すると可愛い耳が頭にちょこんと…。

「私は犬族の獣人なので、その美味しそうな匂いを嗅いだらたまらなくなって」

 獣人が居るんだこの世界は。

 しかしいくらで売って良いのかが分からない。

 だってバラ売りなんて考えてなかったから。

 


「お世話になるのでお金は要りません」

「こちらもそう言う訳にはいきませんよ」

「でも…、そう言われてもいくらにして良いのか、値段が分からなくて」

「では私がお力になりましょう」

 私が困っているとヤルコビッチが、助け舟を出してくれた。

 商人さんなら相場が分かるかもしれないわね。


 私はそう思いジョヴァンニさん達と距離を置き、ヤルコビッチさんと小声で話す。

 ドッグフードは2.2kgで550g入りの袋が4つで800円、ペースト状の餌は120円。

 一回の食事量が100gだとしてもドッグフード100g約37円+ペースト状の餌を足しても157円かな?

 

『ほう、そんなに安いのですか!』

『安いでしょうか?』

『えぇ、そうです。あれほど美味しそうな匂いがして、栄養価も高いご飯が1食200円もしないとは』

 まあ、人のご飯としては考えてないからね。

『他に経費は掛かっていますか?』

『掛かっておりません』

『経費は掛かっていない?それはおかしい。どこかで購入したのなら、そこまでの経費が掛かるはずです』

 あぁ、いけない。

 ネットスーパーだから経費は掛からないけど。


 あぁ、そうだ。

『実は他界した私の父は商人をやっておりました。その時に仕入れた商品がたくさんあり、それを売って生活できればと思いまして…』

『ほう、それは。私もお力になれればと思います』

『ありがとうございます』

『では値段ですが、今回は500円でどうでしょうか?』

『えっ?そんなに高いのですか』

『そうですね、この場合は良いと思います。通常、販売価格の値段に決め方は、コスト原価から考えて商品の値段を決める。利益率から考えて商品の値段を決める。競合、市場と比較し、この内のどれかで値段を決めます』

『はあ』

『しかし、今回の場合は以前から購入してあった在庫であると言う事と、競合する者が無いことを考え、そしてこの場所で野営をしている状態での販売ですから原価の2.5倍でも良いと思います』

『そうですか』

『もし、これで店舗を構え商売をするなら、利益率が35~37%くらいになるようにすると、商売としてやって行けると思います』

 私にペットショップをやれと?


 ヤルコビッチさんとの相談も終わり、ジョヴァンニさん達の元に戻って来た。

「価格は決まりましたか?」

「はい、一食500円でどうでしょうか?」

「おう、そんなに安くていいのですか?!もちろんお願いします」

 そう言うと彼らは500円とお皿を出してきた。

 私はそれを受け取りお皿に、ワンコスペシャル(犬の餌)を入れた。


「「へい、お待ち~!!」」


 涼香すずかの声が夜空に響き渡った!!


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