第36話 高価で価値の無いもの

「では、出しますね」

 そう言うと私はストレージから豚の魔物を出した。


〈〈〈〈〈 ドン!! 〉〉〉〉〉


 私は無意識に軽くジャンプした。

 するとジェシーさんとマッスルさんもつられ、一拍遅れてジャンプする。


「こ、これはワイルドボアじゃないか?!しかもこんな大物を…」

 マッスルさんが口を開け驚いている。

 この豚の魔物はワイルドボアと言うのね。

「ジェシーさん、内密と言うのはそのマジックバックのことかい?それともそこのお嬢ちゃんが凄腕ハンターだと言うことかい?」


 まあ、お嬢ちゃんだなんて。

 この人はきっと良い人だわ、キラリ!!


「その両方、いいえ、これから見ること、聞くことの全てです」

「それほど凄いのかい、そのお嬢ちゃんは?」

「お嬢ちゃんではなくてスズカと言います」

「スズカさんか、俺は解体をやっているマッスルだ。よろしく頼むよ」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


「しかし1.5m以上はある大物だな」

「肉は引き取りますから、解体とそれ以外の素材の買取をお願いします」

「こいつなら肉は200kgはとれるぞ。そんなにどうするんだ?」

「私は調教師テイマー使役しえきしているシルバーが食べるのです」

「ほう、あんたがあの噂のAランクの調教師テイマーさんかい」

「Aランク?」


「スズカさんは特別にギルドマスターの判断で、Aランクの昇給試験を受ける必要がないのです」

「それでいいのでしょうか?」

「本来は駄目ですが、この王都を半壊させる実力がある魔物に、実力を見せろ!とは言わないでしょう」

 シルバーは、そんなに凄いんだ。


「わ、わかりました。それから解体にどのくらいかかりますか?」

「そうだな。今は暇だが職員も少ない時間帯だから2時間くらいだろう」

「わかりました、その頃にまた来ます。他に置いて行ってもいいいですか?」

「なにがあるんだ?」

「これです」


 私はこれなら肉は食べないだろう、と思う魔物を出した。

 ミラベルちゃんを襲ったキラービー3匹だ。

 肉が取れそうな魔物は後日にすることにした。

 私のストレージに収納しておけば時間が経過しないけど、周りからすれば保存の関係で変に思われそうだから。


「キラービーか?!良く倒せたな。こいつは体が硬く剣を中々、通さない。しかも首と胴の関節部を綺麗に切断しているなんて」

「シルバーが優秀なもので…」

「それを使役しえきしているあんたが凄いのさ」

「そうでしょうか。では時間をつぶしてからまた来ますね」

 そう言うと私は冒険者ギルドを後にした。



 これからどうしようか?

 そうだ、冒険者ギルドから少し歩くとヤルコビッチさんの店だ。

 ヤルコビッチさんのところに行ってみよう。




「おはようございます!!」

「あぁ、スズカさん。おはようございます。あなた~、スズカさんがいらしたわよ」

 奥さんのリリーさんが迎えてくれる。


「やあ、いらっしゃい。丁度、話がありまして」

 そう言われ私は客間に通される。

「実はイチゴ、ブルーベリーのジャムですが、2缶ずつ欲しいのです」

「売れたのですか?」

「えぇ、富裕層の奥様に売れました。女性はライバル意識が強く、他の人が持っている珍しいものを自分も欲しくなるようで」

「そうかもしれませんね」

「ただ、数が多いと価値がなくなるので、月に2缶ずつが限度と言ってあります」

「わかりました。では収めてください」

 私はネットスーパーでイチゴとブルーベリーのジャムを2缶ずつ購入して、ヤルコビッチさんに渡した。

 そして代金として20万円をもらった。


「ハチミツに関してはオークションは来週にあるので出品しておきますので」

「よろしくお願いいたします」


「それからスズカさん。食堂で紙皿を使っていると、『燃える闘魂』のジョヴァンニさんから聞きましたが本当でしょうか?」

「本当です。洗い物が間に合わなくて、使い捨ての紙皿を使ったら欲しいという人が多くて…」

「使い捨て?現物を見せて頂けますか?」

「いいですよ。はいどうぞ、これです」

 私はそう言うと、ストレージから紙皿を出した。


「な、なんと?!」

 私が紙皿をストレージから出すと、ヤルコビッチさんはとても驚いていた。


「スズカさん、これは欲しがるわけです。こんなに白く、綺麗な紙は見たことがありません。それに貴重な紙を皿代わりに使うと言う発想自体も、聞いたことがありません」

 いや~、そう言われても紙皿を洗って、また使う人はいないでしょう。

 18枚で106円の紙皿ですよ。

 でもこの世界では紙は貴重なのね。

 価値観の違いですか。

 だからポスターもすぐに盗まれたのかしら。


「そうですか。実は昨日も紙皿が欲しいと言う人族の人が来まして。面倒なことになりそうなので、今日から木皿に戻したのです」

「それが良いと思います。私の店に置いてもいいのですが、その紙皿は紙としての価値はありますが、値段が付けられないものです」


「どう言うことでしょうか?」

「先ほども言いましたが白い紙はとても貴重で高価です。紙の価値としてはありますが、紙を皿代わりにすると言う発想はないのです。そのため、売りに出しても購入者は現れないでしょう。この紙皿は高価で価値の無いものと言うことになります」

「そうかもしれませんね」


「スズカさんは少し自重して頂いた方がよろしいかと思います。変な人達に目を付けられますよ」

「わかりました」

「今後はもし何かあれば、私に事前に相談して頂ければいいと思います」

「ありがとうございます。では今後はそうさせて頂きます」


 この世界に来て頼れる人ができて、スズカはとても嬉しかった。


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