第16話 嫌なこと

「彼女さんですか?」

 冒険者ギルドの受付ジェシーさんがそう答える。


 え?私? 

 心の準備が…。


 昼の連続ドラマ『隣の奥さんは良く見える』

 第5話 一緒に暮らせば意外と同じ…。

 げふん、げふん、


「ち、違うんだ。このスズカさんが調教師テイマー登録をしたいそうだ」

 なんだ、違うのか。

 意気地なしね。

「そうですか。冒険者ギルドに登録は初めてですか?」

「はい、そうです」

調教師テイマーは珍しい職業ですが、従える魔物は何でしょうか?」

「え?たしかシルバーウ…「あ~臭せえな!臭せえ、臭せえと思ったら犬ころに猫野郎か。どおりで臭せえ訳だぜ!!」


 突然、大きな声が聞こえ、声のした方向を見るとテーブルに座っていた何人かいた男の内の1人が立ち上がった。

 男は身長が180cmはある30歳前後の筋肉ダルマだった。


「なんだ!ゴメスさん。言いがかりもいい加減にしてほしいな」

 ゲオルギーさんが迷惑そうな顔で、声を掛けて来た男に話しかける。

「俺は前から言ってるが獣人は嫌いなんだよ!!」

「そうは言うがこの街の3割はお前が言う異種族だ。そんな偏見は捨てるべきだ」

「なんだと!!昼間から女なんて連れ歩きやがって」

 そういうとゴメスと言われた男は、私に近付き腕を掴み引き寄せられた。


「痛い!!」

 と思ったら、痛くなかった。

 あれ?

「黒髪、黒い瞳か。珍しいな。しかも、こんないい女は見たことがねえぜ」

 そ、そんな~!!

 異世界転移万歳!!

 遂に私にもモテ期が!!!


「この野郎!スズカさんを離せ」

「そうだ。スズカさんに乱暴をするな!!」

 ゲオルギーさんやアレクサンデルさんが、剣に手を掛け険悪な雰囲気になる。


「スズカさん、今助けますからね」

 ジョヴァンニさんが心配そうな顔で私に声を掛ける。

 あ、そうか。ここはひとつ。

「あ~、たすけて~。痛いわ~、離して~」

 私は棒読みで取りあえず助けを求める。


「こいつは俺の女にする」

 ゴメスと言う男がいきなりそう叫ぶ。

 なんですって?

 私は困惑する。この男は臭い、しかもゴリラ顔だ。


「「 いやだァ~!!(ぶ男は!!) 」」

 心の底からそう叫んだ。


 その時だった!!


〈〈〈〈〈 ワオォ~~~~~~ン!! 〉〉〉〉〉


 あの鳴き声はシルバー?


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 ズゥ-------------ン!!

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「わっ!!」

「きゃ~!!」

「わっ?!」

「な、なんだ?!これは!!」

 ギルドの中で立っていた人達が、よろけたり座り込んでいる。


「 ガルルルルル… 」


 見ると幅3mはあるギルドのスイングドアを、窮屈きゅうくつそうに押し開けながらシルバーが入って来た。


 なにか嫌なことをされたのかしら?


「シルバー、どうしたの?」

 私は間の抜けた顔で声をかけていた。


◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇


 私はシェイラ国の王都、ファグネリアにある冒険者ギルドを預かるギルドマスター、グリフィスだ。

 昼頃、2階の執務室で副ギルドマスターのクオンと、打ち合わせをしていると突然、禍々まがまがしいばかりの強大な魔力を感じた。

 私はこれでも以前はSランク冒険者だっだ。

 色んな魔物を討伐してきたが、これ程の魔力を放出できるのは高位の魔物だ。

 それも大隊(約500名)規模で討伐するほどの魔物だ。


 なぜ突然、魔力が街中から?

 いったい警備の者は何をしていたのか?

 しかもギルドの1階から魔力を感じるのだ?


 このままでは、この街は滅ぶ。

 私は冷や汗をかきながら、使い慣れた剣を持ちクオンと部屋を後にした。


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