第15話 顔と身体が

 その後、家に戻って風呂でも入ろうとお湯をためた。


「お湯をためたのはボクだモん」

「風呂を洗ったのは拙者でござる」


 そして気持ち良く入浴しようと思ったら、そこに見知らぬ美少女がいてひっくり返った。


 どんがらがっちゃ~ん、ごん!


 最後のごんが一番痛かった。


「痛たたた、なんだ鏡かよ。俺が写ってただけじゃねぇか」

「………………」

「はぁぁぁぁぁ!?」


「ただでさえ響く浴室で大声出さないでもらいたいモん」

「シッポの毛が抜けそうになったでござる」

「シッポの毛ぐらいどうでもいいだろ。なんだこれ、誰だよこいつ、なんでこんなことに?!?!?!」


「鏡に映ったのが自分だと、最初に認識していたでござろう?」

「ござろうってお前……いつからだ?」

「木の上に転生したときからずっとだモん」

「拙者はその姿しか知らないでござる」


 鏡には10才前後と思しき美少女が映っていた。あれ、耳が長いな? まさかこれって。


「見まごうことなきエルフの子でござるな」

「ツルペタって呼んであげるモん」


「おかしなあだ名を付けるな! だが俺、女の子じゃなかった。ちゃんとあるものはあるじゃないか。毛はまだ生えてないけど。転生したら女の子だった、じゃなくて良かった。って良くねぇよ!」


「我にはおかしな名前を付けたでござるが」

「自分で自分にツッコんでるモん」


 身長は160センチメートルぐらい。体重は52キログラム(体重計があった)。3サイズは上から83,65,88ぐらいかと思われる。筋肉質で身体は立派な男だ。体つきは中3相当かな?


 だが顔が美少女だ。むしろ幼女だ。街で出会ったら惚れてまうやろってぐらいに。金髪碧眼。サラサラヘアーに前下がりボブ。そこから少しだけ飛び出た尖った耳。長い睫毛にまん丸の顔。どう見ても日本人ではない。


「だからエルフだとあれほど」

「そ、そうだけど。それもそうだけど! なんでこの髪型だったんだ」

「お団子頭でないだけマシだモん」

「それもそうだけど!」


 こんな不可思議な体型と容貌で、俺の人生はいったいどうなってしまうのだろう。


「別にどうもならん」

「オツは人ごとだと思って適当なことを」

「若返ったのだから文句言うやつがあるか。そもそもお主がすることは同じであろう。たぐいまれな身体能力があり、結界魔法も使えて、すでに2匹の眷属を従えている。努力次第では高名な冒険者に」

「それは嫌」


「食い気味に拒否ったモん」

「よほど嫌なのでござるな」


「顔と下半身のイメージが一致しなくてなんか不安だなぁ」

「そのうち慣れる。それより冒険」

「嫌だ」

「ものすごい被せたでござる」


 ま、まあ。容姿に関してはいまさらどうしようもない。なにしろ育成契約だ。健康な身体がもらえただけでもありがたいと思うことにしよう。まずは風呂だ。おい、お前ら。


「びくっ」

「どきっ」

「なんだその反応は。一緒に入るぞ。洗ってやるからこっち」

「嫌でござる」

「やだモん」

「食い気味に拒否するな!!」


「やれやれ。主人が主人なら眷属も眷属だ」


 その後、俺は2匹をとっ捕まえて強引に湯船に沈め、全身をしこたま洗ってやったのであった。


「全身の毛が抜けるかと思ったでござるぅぅ」

「抜けねぇよ!」

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