第34話 交渉成立
「コウイチか!!」
「ムックしゃんじゃないか!」
「知り合いだったのは分かったから、話を進めなさい」
「突然いなくなったと思ったらこんなところに……あ、そうだ。早く仕事の続きをしてよ!」
「こっちもいろいろあったんだよ。ってなんだよいきなり仕事なんて嫌だ」
「嫌とか言ってんじゃないわよ。あんたがいなくなってからブロックの建築資材が流通して人気が高騰してコイチでさらに人気を呼んでいろいろあって注残が大変なことになってんのよ!」
「ムックしゃん待って、情報が渋滞してるから待って。私にも分かるように説明」
「俺だってエルフ寮でこの世界に詳しいようであまり役に立たないオツがマユ姉に連れられて剣士と戦って病院送りの血だらけにして結界魔法を使ったら眷属ができてタイガーウルフがワンコロになったんだぞ!」
「渋滞している道路で舗装工事するようなマネはやめろ!!」
「我らが戦ったでござる」
「ボクらがやっつけたんだモん」
「あんたたちも上乗せしない!」
「「はぁはぁはぁ。で? なにがどうしたって?」」
「まったく。ふたりとも落ち着きなさいよ。コウイチ、ここはグリーンランド市の総合ギルド・ウヌマの森よ。チュウノウ国にあるほとんどのギルドが集まっているわ。働いたり商売したりするなら、ここのどこかに登録・採用される必要があるのよ」
「無職ってギルドはないか?」
「あるわけないでしょ!!」
「チッ」
「チッとか言わない! ムックしゃんはこの中の商人ギルドの長ね。ムックしゃん、コウイチは今日からここで働く新入社員」
「ギルドの長だと!?」
「新入社員ですって?!」
「なんとか収拾がついたか? 私にはまだ良く分からんが。コウイチについては、まだどこで働くのかは決まっていない。これから統合長のところへ行って」
「それならうちで働いてもらうわ」
「いや、割り振りは統合長の権限で」
「あいつはちょくちょく出かけて不在がちだし、私からうまいこと言っておくから大丈夫。コウイチ、こっち来なさい」
「あいつって。統合長なのに、この街で一番エライ人なのに」
「働くのは嫌でござる」
「「やかましいわ!!」」
ワンコロ風に言ったのに、また怒られちゃった。
「当たり前でござる。それで余計に叱られたでござる」
そんなこんなで、俺はムックしゃん商店で働くことになった。アルバイトである。多分軽作業である。あ、これがあのお団子頭の言ってた仕事なのか。
「必要なのは建築資材よ、あのブロックが必要なの」
「あのブロックってなんだ?」
「元はと言えばあんたが作ったんでしょうが!!」
「ムックしゃん、落ち着くでござる。コウイチ殿に察しを求めてもダメでござる」
「うぐぐ。そうか、そうだったわね。そこは変わりようがないわよね。うんうん」
なんかすごく気に入らない納得がされているようだが。
「花崗岩を結界で加工してブロックにしたじゃない。アレよアレ」
「最初にそれを言えよ。あれなら1個につき100ドルぐわぁぁぁお」
「銅貨5枚だったでしょうが!」
「くっそ、覚えてやがったか……ところで、俺の取り分はいくらになるんだ?」
「あんたはうちの社員になるわけでしょ。給料以外は出るわけないぐぇぇぇ」
今度は俺が絞める番である。俺にあれだけの労働をさせてタダってわけにいくかよ。
「タ、タダじゃないわよ、ちゃんと時給は払うげっごご」
「その時給っていくらだ?」
「いちいち首を絞めないと会話ができんのか、この話は。新人のアルバイトだから1時間20セントってとこぐわぁぁぁぁ」
「安いのか高いのか良く分からん……いや、高くは絶対にない。ところで、銅貨とかドルとか、ここの通貨はとてもややこしい。ちゃんと説明しろよ、読者に」
「あ、うん。そうね、そうだったわね。読者目線も大事よね?」
銅貨10枚で銀貨1枚
銀貨10枚で金貨1枚
金貨1枚で1ドル(100セント)
ちなみに、ドルは原則ドーム内(上級国民用)の通貨、銅貨・銀貨は外の世界の通貨である。円は存在しないようだ。
「てめー、俺にあれだけの労働をさせておいて、たった20セントかよ!!」
「さっきツッコみそこなったけど、あれだけの労働って働いたのほとんどボクらだモん」
「コウイチ殿の結界がないと、あのブロックは作れないとはいえ」
「「なんか不条理でござるモん!」」
「おまえら、うるさいよ」
「たったと言われてもそれがここの相場だもの、仕方ないでしょうが」
「そうか、それなら他の業者さんにあのブロックを売り込むとしよう。時給なんぞいらん。パテント料を払ってくれたらどこにだって売るぞ。1個1ドルだって買い手は付くだろう。幸いここはお店がたくさん並んでぐぇぇぇ。いちいち首を絞めるなって言ったのはお前だろうが!!」
「分かったわよ。ドーム内でのブロックの売値は3ドルだから1個につき10セント……分かった分かった。1割の30セント払うわよ。それでいいでしょ、もう」
「ワンコロ、ちょっとムックしゃんを正面から見つめろ」
「了解でござる、じーーーー」
「あ、いや、そんな、見つめられても」
「じーーー」
「あの、ちょっと。その表情止めてもらえる?」
「じーーーじーーー」
「わ、私は嘘は言って……言って……あぁもう!! 仕方ないわね。そうです、嘘ついてました!! 1個10ドルで売ってました!! だから1個あたり30セント払うからそれで許して」
「どんだけ雄弁だよ、お前の視線は」
「あるはずのない表情筋が透けて見えたモん」
「照れるでござる」
「良くやったワンコロ。これで交渉成立だ。それにしても、外の世界で1個5銅貨で買ったものを、こっちでは10ドルで売るとは。えーと、いちじゅうひゃく……38倍くらいか?」
「まるで計算が合ってないぞ、コウイチ」
「ややこしい計算は苦手なんだよ。マユ姉、何倍だ?」
「苦手ってレベルじゃないと思うんだが。200倍ってとこだな」
「なんつーあくどい商売してるんだ! ムックしゃん」
「あくどいって言わないの。これも市場価格だから当然よ。あっちとは物価水準がまるで違うし運送費だってタダじゃないのよ。このドームに入るのだって1回500ドル支払うのよ。利益が出ないと給料も払えないでしょが」
「入国料ってそんなに高いのか!?」
「サブスクで月額2189ドルになるけどね」
「どこの動画配信サービスだよ」
「あ、毎月1200ポイントがおまけでもらえる」
「だからどこのu-nextだよ!!」
「じゃあ、話が付いたので、さっそく石切場に行きましょう!」
「分かった、嫌な仕事はさっさと終わらせよう。行くぞ、お前ら」
「ところで、売値が10ドルなら、コウイチの取り分は1個1ドルになるはずだが、それはいいのかな?」
「コウイチは気づいてないモん。でも黙ってるモん」
「それでもすごい収入になりそうでござる」
「あんたたちが良いのなら、私が文句付けることはないわね」
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