第21話 地震

「それだけじゃない。早いタイミングで後ろからの侵入を教えていただき、どれほど被害を減らすことができたことか」


「神獣様も大変素晴らしい働きで、この村を助けていただきました。あれで救われた村人もたくさんいました」

「タイガー……ワンコロ様でしたか。噂に違わぬ最強の魔物の片鱗を見せていただきました」

「でもそれよりもなによりも、あの結界魔法。心底感服いたしました。もうなんでもご命じくだされ」


 お前ら手のひらくるっくるだな、おい。


「その上、退治したゴブリンの魔石約170個を、全て快く寄付してくださるそうで、感謝感謝かん痛いっ」


 思い切りぶん殴ってやった。


「調子に乗んな! そこまで言ってないだろ。ってあれ、いくらぐらいになるんだオツ?」

「大きさにもよるが魔石1個で銀貨1枚にはなるのではないだろうか」

「銀貨? 普通に出てきたんでいままでツッコまなかったが、ここの通過はドルじゃないのか?」

「我もよく分からんのだが、ここでの通貨は銅貨と銀貨、たまに金貨となっているようだ」

「スライムの魔石2ドルとはなんだったんだ?」」

「さ、さぁ? 我にはドーム外の情報がインストールされておらんので分からんのだ」


 なにかのツールみたいなこと言いだしやがった。


「最初にツッコみ忘れたので間が抜けたでござるな」

「やかましいよ」


「しかしコウイチ様はどのようにして結界魔法を習得されたのでしょうか。さぞや過酷な修行をされて」

「え? いや、なんとなくできるようになってた」

「な、なんとなく?!」

「あれ、人型にとっては究極魔法ですよ!?」


「もぐもぐ、そうなのか、この肉塩気が足りないいなぁ」

「いや塩気の話は置いといて。あれはてっきり神獣様の魔法かと思っておりました」

「いやぁ、それほどでもないモん」

「お前は褒められてないからな。って人型にとって、とはどういう意味だ?」


「魔法には初級から中級、上級とランクがありまして」

「おおっ、いかにも異世界って感じだ。それで?」

「人でもエルフでもノームでも、使える魔法は上級までと決まっております」

「ふむふむもぐもぐ」

「食べながら人の話を聞くなんて行儀が悪いモんごくごく」


「酒を飲みながら聞いてるお前に言われたくないわ。その中には結界魔法はないってことか」

「ええ。そんな便利なものがあれば誰でも使いますからね。でも人型には使えない究極の魔法……のはずだったのですが」


 初級はほぼ生活魔法。中級になると適正に応じた攻撃・防御魔法を習えるようになる。そして上級はさらに強力な魔法となるそうだ……ん? 習う?


「習うって、誰に?」

「学校でですよ」

「学校があるんか!?」

「ありますよ。ただし魔法を教えられるのは上級国民だけですが。あのドームの向こう側にいる人たち……あれ? コウイチ様も上級国民なのですよね?」


「ドーム?」

「向こう側?」

「コウイチが上級国民?!」


 お前ら一斉に質問するな。お頭が困ってるだろ。


「どうして俺がその上級国民とドームの向こう側ってことはこっちはなんだ?」

「お頭がものすごい困ってるモん」


「え、え、とですね。だってあの家に住んでいるわけでしょう? あそこはドームの向こう側です。上級国民しか入れませんよ」


(あの家、俺たち勝手に入ったよな)

(隠してあった鍵を見つけたのでござったな)

(隠してあったにしては、雑だったモん)

(てっきり俺のために用意された家だと思っていたのだが)

(そんわけなかったでござるな)

(すごくまずいことになってるかも知れない)

(もう近づかないようにしたほうが良いモん)

(だけど、俺が鍵を持っているんだが)

((((どうしよう?))))


「じゃ、じゃあこっち側ってのはなんだ?」

「こっち側は亜人と魔物と亜神が住む世界です。あ、ちなみに私はノームと呼ばれる亜人です」

「お頭たちはコロボックルじゃなかったのか」

「一部地域でそう呼ばれることもありますね」


「なにを隠そう私は亜神のムックよ」

「亜神!? ムックしゃんは商人じゃなかったのか」

「そっちは商店名! 私はムック。かりそめの夜を統べる亜神よ」


「かりそめとはいえ亜神って神様だろ? なんで商人なんかやってんだよ」

「半分は人間だもの」

「どこのみつをだよ」


「だ、だって仕方ないのよ。信者を最低5人集めないと神様になれないんだから」

「部活動かよ」

「それまで食べてゆくのに仕事しなきゃいけないの」


「そ、そうか。それはなんというか」

「世知辛い世の中だモん」

「あんた、私の信者にならない?」

「部室はもらえるのか?」

「部活動じゃないっての! 活動実績がないともらえな……だから部活動じゃない!!」


「割と面白い亜神だな」

「ノリノリでござるな」


「それで夜を統べるってってことは、暗殺とかできたりして?」

「ち、違うわよ!! ひ弱な私がそんな物騒なことするものですか」

「それもそうだ。じゃあ、なにをする神もどきなんだ?」

「もどき言うな。あと数百年もすればこの世に闇をもたらす亜神とな……ちょっとちょっと、なんか殺気を感じるのだけど」


「いや、昼がなくなったら困るからいまのうちにきゅっとね?」

「きゅっとね、じゃないわよ! 私だって神様もどき……じゃないって言ってるでしょ! 神様の眷属なのだから軽々しく扱うとバチが当たるわよ」


「なんだただの眷属かよ」

「なにそのがっかりしたような顔は」

「我が輩には表情筋はないでござるが」

「あんたのことは聞いてない! もうどうしてこの人たちはそろいもそろってボケばかりなのよ!」


「良いツッコみ役を探していたモん」

「ポンコツ亜神でも役に立つ場面があるものだ」

「誰がポンコツよ。そんなもんになる気はないわよ。それより」


 会話が成立したのはそこまでだった。そのとき当然地面が揺れた。俺の体感では震度5強というところだった。このぐらいならすぐに収まる……なにをびびってんの、この子たちは。


「わぁわぁわぁ」

「わぁわぁ、ゴブリンの次は地震だわぁ」


 そのわぁわぁってのはお前らの公用語かなにかか。それをつけないと会話が成り立たないのか。それを言わないと走っちゃいけないルールでもあるんか。


 コロボックルたちはクモの子を散らすようにバラバラに逃げ出した。


「情けないなあ、こんな程度の地震で」

「待てコウイチ、ちょっと様子がおかしいぞ?」

「なんか不気味な揺れ方だモん」

「あまり体験したことのない揺れでござる」


「お前らまで……確かにちょっと長いか……お、だんだん強くなってきたか?!」

「コウイチ、ここは危険だ。震度7ぐらいあるぞ」

「わぁわぁわぁ、これは大きいぞ!」

「ご主人もわぁわぁ語になっているでござる」

「そんなことはいいから結界魔法を使え! 建物の下敷きになるぞ!!」

「ケツっ!」


「自分だけ入るな!!!」

「あ、すまん。ついうっかり」

「ボクも入れて欲しいモん!」

「せせ、拙者もでござる」

「じゃあ私も」

「カイ! そんでもって、ケツ!!」


 ひとり違うのが混じったようだったが、無事俺たちは結界の中に避難することができた。


 しかしその直後に沸き起こる猛烈な振動とそして真っ赤に燃える空。そしてまばゆいばかりの光に包まれた結界。


「わぁわぁわぁ」

「それはもういいでごじゃるぅぅぅぅ」

「なんかぐるぐる目が回るモん。前が見えないモん」


 結界は動かない。回りの景色が激しく動くので酔ってしまったのだ。やがて振動が収まると、ワンコロだけを収納して(どこにだろね?)俺は眠りに落ちた。


「良く寝るやつだモん」

「村人はどこかに行ってしまった。火事もないようだし、俺たちも寝るとしよう」

「それがいいわね。今日は私も疲れた」

「「「ムックしゃん!?」」」

「それは店名だっての!!」


 目が覚めると空が明るかった。


「次の日になってるモん」

「よくそんなぐーすか寝られるもんだなコウイチ」

「あいたたた、変な体勢で寝たら首を寝違えちゃった。枕なしで寝るのはきついな」

「いや、私がずっと枕になってたんだけど!」


 次からは枕を選ぼうと思った俺である。小さい結界でも出してみるかな。


「そんなことより大変なことになってるわよ。ちょっとここから出してちょうだい」

「ムックしゃんか。入れた覚えはないのだが、カイっ!」

「こんな大もうけのチャンスを逃しちゃいられないわよ、それぇぇぇっ」


 なんかダッシュして行ってしまった。大もうけのチャンス?


「回りを良く見てみると分かる」

「回りって……あっ」


 せっかく火事から逃れたはずのちっちゃな家屋が、軒並み倒れて見渡す限りガレキ置き場になっていた。


「お目覚めですか、英雄様」

「あ、ああ。お頭か。英雄様はやめてくれ。こしょべたい」

「それではコウイチ様。これから朝食でもいかがですか」

「この悲惨な状況の前で良くそんな余裕のあることいただこう」


「そうくると思ったモんもぐもぐ」

「さすがコウイチ殿でござるむしゃむしゃ」

「みんな無事なのか?」

「早く逃げたので全員無事です。ただ、家はほとんど立て直しですが……」


「まあ、元気だせよ。あれだけの大地震、生きてただけでめっけものだ。それにしても良く助かったな」

「ああいうときは、わぁわぁ走り回っていればだいたい大丈夫なのですよ」


 雑な生き物だな、おい。


「だいたい見積もりはできたわよ。お頭、こんなもんでどう?」

「こ、こん、こんなにするのか?!」

「村をまるごとですからねぇ。それに大地震に備えてもっと丈夫な家にしようと思って」


「いや、いままで通りで良いのだが」

「もう材木なんかぼろぼろよ。火事で焼けたものあるし。ここはひとつ奮発して石材を使って、こんな感じでパチパチ」

「いやいや、そうは言ってもだな、こちらの財政でパチパチこのぐらいにならんか」

「ひえぇぇ、そんなんでは犬小屋も建ちまへんがな、パチ。せめてこのぐらいにしておくんなはれ」


 ソロバンの目を動かして値段交渉をしているムックしゃん。なんか訛ってんぞ。


 大もうけって言ってたのはこのことか。商人にくせに建築まで手がけるのか、すごいな。


「しかしまた地震が来たらいくら丈夫にしても同じことだろ?」

「そんときはまた儲けさせてもらいまっさ」


 こらこら。せめて安上がりにして差し上げ……あ、そうだ。


「なあお頭。俺にアイデアがあるんだが」

「コウイチ様、なんでしょうか?」

「もっと安上がりで地震にも強い家を建てられるぞ」

「は゛ぁ!」


 ムックしゃんの睨む目が怖い。続く。

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