第22話 lzh
「まず、簡単でいいから整地だけしてくれ。丁寧に馴らす必要はないからな」
「あの、私の商売の邪魔をしないで」
「そしたらその上に、俺が結界魔法でくり抜いた岩盤を敷く。大きさはどのくらいがいい? 5メートル四方もあればいい? 分かった」
「だからそんなことしたら基礎工事が不要になっちゃうじゃないの」
「宙に浮いているから地震が来ても大丈夫だ。俺の結界が切れたときは下に落ちることになるが、ほんの10cmほどだ。衝撃があったとしても知れてるだろう」
「だから私の儲けが」
「うるさいやつだなもう。その土台の上に石組みで家を建てればいい。そこはムックしゃんの出番だろ」
「そ、そっか。土台だけ魔法を使うのね。そして石材だけで家を建てるつもり?」
「いくらなんでもそれはムリだ。骨格部分は木材にしよう。あと屋根は任せる」
「うぅん、そんなの……」
「できんのか?」
「で、できるわよ! でもそれだけじゃほとんど材料費だけで済んじゃうなぁって」
「安くあがってとても助かります」
「大もうけのチャンスだと思ったのになぁ」
「ちなみに、石材は昨日くり抜いた花崗岩を使うぞ」
「ちょ、ちょっと! あれは私のものよ!」
「切り出したのは俺だ」
「あんたは捨てるつもりだったじゃないの。私にくれたんでしょう?」
「ぐっ。そういえばそんなことも言ったか……。仕方がない。それならまた切り出そう。作業は簡単だからぐぇぇぇぐるじい」
「分かったわよ、使っていいから。お安くしとくから」
「分かったぐぅうのなら、おでの首を絞める手をげわおぉぉ」
「1個銅貨5枚ね」
「そでは高……それで良いでずぅしむ」
ぜぇぜぇ。なんで俺は関係ないのに値段交渉なんかで首を絞められてるのだろう。まあいい、それではカットして運ぶぞ。ネコウサ、ワンコロ、出番だ。
「ほいきたでござる」
「お頭は区画を指示してくれ。そこに運ばせる。まずは土台になる岩盤からだ」
「もともと空いてたとこに適当に建てていただけだから、この際区画整理をしましょう。私が指図するので神獣様たちは、こちらに」
「ホイモん」
そうして村の再建が始まった。
「ねぇ、土台はもういいから、このぐらいのブロックを切り出してくれない?」
「ん? ああ、直方体にするのか。まるでレンガだな。こちらのほうが材質的にずっと頑丈だが。ほれ、こんなもんでどうだ?」
「うんうん、ちょうど良い感じね。これをたくさん作って。数百個はいると思う。あとね、このぐらいの真四角のも作って欲しいの。スキマを埋めるのに必要なのよ」
「ふむふむ。20cm角よりちょっと大きい立方体のブロックか。それならレンガのサイズもそれにあわせてこんな感じにしよう。これでどうだ?」
「うんうん、ぴったりよ。これもあと2,000個ぐらいお願い」
なんか面倒くさい依頼が来た。数百個とか2,000個とか、言うのは簡単だろうが切り出すのは俺……待てよ? あの結界は俺のイメージ通りになるのだから、こんなことはできないかな。さいの目に切った豆腐みたいなケツ!
最初に切り出した2メートル角(をイメージしたら約2割増しになってるがこんにゃろめ)の岩から、立方体の岩を切り出そうと思ってマトリックスをイメージしてかけた結界魔法。
予想は見事に的中した。まるでルービックキューブのように岩はたくさんの結界に包まれた。たくさんあるぞこれ、ひーふーみーよ……。
「計算すれば早いモん。10×10×10で千個だモん」
俺より賢い眷属は嫌いだよ。つまりは2メートル立方の岩から20センチ立方の岩が千個採れたのか。
「センチではないことに、いい加減に気づけよ」
「オツか、どういうことだ?」
「お主が切り出した岩は10メートルの2割増しではなく、正確には2.54メートル立方だったということだモん」
「そうか、2割増しよりもうちょっと大きかったか」
「そういうことじゃなくてだな」
「ああ、もうイライラするモん!」
「俺に分かるように言えよ!」
つまりは、100インチ角の岩から10インチ角の岩がたくさん採れた、ということだ。まあ、知ってたけど。
「「「「嘘つけ!!」」」」
3匹+1ムックに怒られた。こんにゃろめが。
「こっちはあと3コイチ必要だ」
「こっちはあと20コイチくれ」
「そこは2列に並べるから114コイチ必要だな」
「まだまだ在庫は500コイチぐらいあるから、どんどん使っちゃってよ」
「なあ、オツ。こいつらなにを言ってるんだ?」
「分からんのか。コウイチだと長いから縮まってコイチになったんだろ」
「ほぉん。で、それがどうしたと?」
「もう説明するのも嫌になるでござる」
それまでなにを作るにしてもだいたいで作り、サイズが合わなければ作り直せば良いというのがこの世界の常識であった。
だが、コイチという統一規格ができたことで、建築作業は進みに進んだのであった。そしてその便利さに気がついたものたちは、その最小単位を1コイチと呼ぶようになったのである。
統一規格の誕生はこの世界の生産性を飛躍的に高め、のちに産業革命のきっかけを作ったとして、コイチの名は長く語り継がれることになる。
知らんけど。
「知らんのかい」
それより、人の名前を勝手に単位にするんじゃねぇよ、まったくもう。
「ところでムックしゃん、ブロックは積むだけでいいのか? 強度が心配だが」
「建築用の接着剤があるわよ、ほらこういうの」
『万能接着剤』
「そんな便利なものがあるのか、ここの技術水準がまったく分からん。それはどこで手に入れたんだ?」
「ドームの中でならいくらでも売ってるわよ。1本四千ドルぐらいするけどね。だけどこれ1本でこの村の規模なら10回は立て直しできるわね」
便利な道具があったものである。そしてどうやら通貨ドルはドームの中(上級国民?)。そして外では金銀銅貨が流通しているようである。
「ムックしゃんはドームの中に入れるのか?」
「入れなかったら商売ができないじゃない」
「そういうことか。ドームの中の進んだ技術をこちらで売ってボロ儲けをしているわけだな」
「ボロ儲けはしてないわよ。それにあちらだってこちらの物資がなければ食べるものだって困るのだから、それを運ぶ私たちは貴重な存在なのよ」
「どんな商品があるんだ?」
「こちらから持っていくものとして私が扱うのは、まず魔獣の肉、それに薬草類。米や麦。材木や石材、など、街では手に入らないものね」
「よくそんな重いものを……ってもしかしてムックしゃんもほほ袋を持ってるのか?!」
ワンコロが持ってるほお袋はもしかすると一般的なものなのかも知れない。
「私はハムスターか。違うわよ。lzhっていう圧縮魔術があって」
「はぁ!?」
「それで圧縮して持ち歩くの。重さならだいたい1/100からものによっては1/1000ぐらいになるわね」
「い、いや、待て。あれ、せいぜい半分だろ」
「lzh魔法を知ってるの? 大昔はそんなもんだったらしいわね。でも最近は改良されて1/100が標準よ」
「そんなすごい魔術にそんなおかしな名前を付けるなよなぁ」
「あ、最近ではzipってのも出てて」
「やかましいわ!」
もうなにがなにやら。俺は選りに選ってとてもややこしい世界に来てしまったようである。
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