第25話 晴天のへべれけ

「というわけで、俺は異世界からこの世界を救うためにやってきたたたた痛たたた、耳に噛みつくなボケウサ!」

「うががごごごげげモん」

「嘘はいけない、と言っているでござる」


「へいへい。本当は異世界から飛ばされてやってきたら、ワンコロに襲われて木の上で、日本家屋があったから中に入ると洋風で、こんなカギが手に入ったんだよ」


「うんうん、全然分からない」とムックしゃん。

「それは大変でしたねぇ。それなら賢者のカギは返さないといけないですね」とお頭。


「やっぱりそうか。誰にも見つからないようそっと返すしかないか」

「なんでお頭には話が通じているのか私にはさっぱり分からないけど?」

「お頭は要点だけをうまいこと抽出するモん」

「これも特技でござるな」


 そんなこんながあって、俺たちは最初に入った家に一旦帰ることにした。あの大層な能力を持つ賢者のカギを持ったままでは、なんとなくケツの据わりが悪い。てか、爆発怖い。だから返却するのだ。


「すぐ戻ってくるから」

「この家に家具などを入れて、お待ちしております」

「帰ったらあと7,000個ほどブロック作ってね♪」


 お頭の言葉にはちょっとグッときたが、ムックしゃんの言葉になんかもう帰りたくなくなった。


「とはいえ、他に住むところはないでござるが」


 そうなんだよなぁ、とつぶやきながらあの日本家屋のふりした1ルームの家に帰る。コロボックル村だって住み心地が悪いわけではないし、皆が英雄扱いしてくれて気分は良いし、戻ることになんの不満もないのだが。


「はぁぁ、やはり風呂は良いなぁ」

「お湯をためたのはボクだモん」

「掃除したのは我が輩でござるが」


 いきなり風呂入ってんじゃねぇよ!! ←読者の声


 どうしても、ここの居心地の良さには負けてしまうのだふわふわたいむ。


 眷属どもはもうすっかり慣れて、しこたま洗い倒しても大人しくされるがままである。湯船に放り込んでやると並んでお湯に浸かる。その姿は見るだけでなかなか癒やされる。かわヨ。真っ昼間からこんな贅沢ができるのも、賢者のカギがあればこそである。


「この部屋、あれから誰も使った様子はないな。俺たちが来る以前から使った様子はなかったから当然といえば当然か」


 それならここをわざわざ手放す必要はないか? そんなことを思いながらベッドに倒れ込むと、そのまま眠りに落ちたすこすこぴー。

 まだ真っ昼間なのだが、しばらく寝具には適さない環境(地面と丸太の枕)での睡眠だったので、熟睡できていなかったのかも知れない。


 それから何時間が経っただろうか。


「つんつん」

「すこすこぴー」

「もう。つんつんつん」

「すこすこぴー」

「起きやがれこの子はもう、ぐいぐいぐい」

「すこ……ぐぐぐぐぐるじい、海で溺れる夢を見ているみたいだすこぴー」


「起きかけたのに寝ちゃった。溺れる夢でも普通は目を覚ますでしょうがこのこのこのこ……きゃぁぁ」

「ふがふが……むにっ、ん? なんだこの感触は。柔らかくて少し芯があるようなまるで成長過程のCカップおっぱいのような」


「あ、起きた……ってちょっと、もう起きたんでしょ。いつまで人の胸を揉んでるのよ」

「もみもみもみ。溺れるものは成長過程のCカップおっぱいでも揉みしだくんだぞすこー」


「私の胸は藁かよ! どんだけおっぱい好きよ。まあ、これだけ美乳なら仕方ないといえば仕方ないけどね」

「もうちょっとボリュームが欲し……ご~ん」


 なにか硬いもので頭を殴られて目が覚めた。そこには女神がいた。

 長い黒髪を頭の後ろでツインテにし、まん丸顔に特徴ある大きな目。ビーチボーイズで主役をやってた頃の女優さんみたいに可愛い。そして貧乳の。


「いい痛い痛いっての。そんなに何度も殴るな!」

「ぽかすかぽかすか、早く起きないからよ!」

「いや、そういう理由で殴られたのではない気がするのだが。それよりいま何時だと思ってやがるんだ! 真っ昼間だぞ!」

「真っ昼間、だよ?」


「真っ昼間、だったな……。で、君は誰?」

「私はマユミ。ここの室長よ。早く起きなさい。急がないともう始業式が始まるわよ」


 室長? 始業式? この部屋に住んでいたのはこの子だったか? それなら文句がでそうなものだが、ただ起こしに来ただけのようだ。

 この美少女はいったいい何者だ?? 室長ってことは部屋の長だよな。こんな1ルームでどうしてそんな職種が必要なのだ。


 いろんな疑問が俺の脳裏を駆け巡る。疑問が多すぎてなにから聞けば良いのか分からない。迷った末にでた質問がこれである。


「75のCカップ?」

「ぐわっ……」


 真っ赤になってやがる。どうやら的中のようだ。我ながら良い質問であったといえよう。


「いま発生している問題はなにひとつ解決できていないモん」

「そそそそそそそんなことはどうでもいい。ははは早く着替えてロビーに来い!!」


 と言い放って扉から出ていった。わははは、顔真っ赤にして可愛い……あの子は誰だ? どうやってここに入ってきた? それより、いま壁の向こうに消えみたいに見えたが? 俺はどうすりゃいいんだ?


「聞くべきことを、聞くべきときに聞かないから、そういうことになったでござる」


 深まる疑問。謎が謎を呼ぶ美少女の行動。そういえばアマチャンに可愛い妹が欲しいと希望を言ったが、あのときは拒否された。だが、もしかしていまそれが叶ったのだろうか?


「絶対に違うモん」


 勝手に家に入って怒られるはずが、むしろこの状態が当然のような対応をされたことになる。予想外の展開に俺の頭はついて行けないのであった。


「晴天のへべれけでござるな」

「へきれき、な。そこまでの衝撃じゃねぇよ」


 さて、次話からは第2章に突入するのだけど、大丈夫だろうかこの作者。


「知らんがなモん」

「行き当たりばったりな物語について行くのは眷属も大変でござる」

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