第24話 賢者のカギ

 あれから3日が過ぎて村の復興もほぼ終わり、日常を取り戻していた。


「早いない、おい!」

「もともとたいした家も施設もなかったでござるから」


「だがこちらには大きな問題が残っているぞ」

「そ、そうなんだよなオツ。俺はそれで悩んでいるんだ」

「なんのことだモん?」


 これだよ、これ。と言ってポケットから例のカギを取り出す。4インチサイズのスマホそっくりな白い塊。最初に入った家が俺へのプレゼントでなかった場合、これを持っているということは他人の家への不法侵入という犯罪の証拠を持っているに等しい。


「侵入どころか」

「ベッドも風呂も使ったでござる」

「犯行を上乗せすんな。あのことは絶対に内緒だからな」

「すぐばれると思うモん」


「問題はこれがいまだに俺の手にあるということだ。どうするべぇかな。いっそ捨ててしまうか?」

「証拠隠滅でござるか」


「馬鹿たれ! それは核融合炉だと言ったであろうが!」

「あ、そうか。ん? まさかこれって」

「水が切れたら大爆発を起こすであろうな」

「「「ひぇぇぇぇぇ」」」


 そんな物騒なものを持ってきてしまったのか。これはヤバい。かなりヤバい。元のところに戻すべきだろう。


「ネコウサ」

「やだモん」

「まだなにも言ってないだろうが。どんだけ察しが良いんだよ。じゃあ、ワンコロ」

「む、ムリでござる。我らではあんな場所にはめ込むなどできないでござる」


 うぅむ。うまいこと言い逃れしおってからに。


「お主が行けば済むことだろうに」

「オツは簡単に言うが、そんなことしてあの家の本当の持ち主に見つかったら大変なことになるだろうが」

「「我らは大変なことになっても良いでござるかモん!!」」

「俺がなるよりは良いだろう!」

「「「どんだけ我が儘だよ!!!」」」


 3匹にまた罵られた。と、そこにのんきな声でやってきたのが癒やし系コロボックル族で亜神のムックしゃんである。


「できたから呼びに来たのに、なに騒いでるの?」

「こいつら俺の眷属のくせ……呼びに来た?」


 なにかができたらしいのでついて行くとそこにはお頭がいた。


「時間がかかりましたが、ようやく完成しました。どうぞ、こちらからお入りになって、中をご覧下さい」


 ?マークを頭に何個か乗っけたままでついて行くと、そこにはこざっぱりとした一軒の家が建っていた。


「レンガ……じゃないブロック作りの家か。この村にしては立派な作りじゃないか。ムックしゃん設計施工で建てたんだな。お頭の家か?」

「いえいえ、とんでもありません。私どもには大きすぎて不便です。ここはコウイチ様に進呈するために建てました」

「はぁ?」


「ここに住んでいいよ、ってことよ」

「はぁ?」


「ち、ちなみに、家賃とか必要ありません」

「はぁ?」


「バス、トイレ付きで駅から徒歩7分よ」

「はぁ?」


(ムックしゃん、話が違う。なんかご不満のようだぞ)

(おかしいなぁ。駅から徒歩7分ってとこにツッコみも入れないなんて。この人の身体のサイズに合わせて設計したのに、なにが気に入らないのかしら)


「えっと、家なんていくつあってもいいわよね?」

「はぁ? はぁ。まあ、そうだけど」


(ご不満な様子?)

(どうしよう。これ以上の家なんて私らにはムリです)


 頭が混乱して現状が入ってこないのである。家をもらった? しかしあっちの家はどうなるのだ。カギがここにある以上、本来の持ち主は中に入れないはずだ。まずはこのカギをなんとかしないことには、別の家の話など頭に入ってこない。


「いや、じつはこれなんだが」


 そう言いながらカギを見せると。


「こ、こ、これ、これは!?」

「ま、ま、ま、まままさかのまさか!?」


 なんで驚いてるんだろう。だがこれを知ってるのなら都合が良い。


「なんとか処分できないだろうか?」

「「冗談じゃありませんよ!!!!!」」


 ものすごい怒られた。なんか俺って怒られキャラなのか。


「コウイチ様。これは、世に言うところの」

「ふむ?」


「賢者の石です!」

「錬金術師の月灯りよ!」

「お家のカギだモん?」

「天使の羽衣ですよ」

「魔女の万能薬でしょ」

「家のカギでござるが?」

「河原の石ころだと思う」

「手のひらサイズの核融合炉だっての」

「未来からの招待状だ」


 ひとり舐めてるやつがいるようだが、そんな名前をいくつもつけるなよ。ますます混乱するだろうが。


「……なんでもいいから俺はこれを処分」

「「「「「冗談じゃありませんよ!!!!!」」」」」


「じゃあどうすれば?」

「それを持っていればアッチ側でもフリーパスで入れるのよ。身分証明にもなるんだから、なんで処分しないといけないのよ。って処分なんて簡単にできるしろものじゃないわよ」


「そ、そうなのか。これ、あの家の入り口にあったカギなのだが」

「賢者の石をカギに使うなんて、なんて贅沢な」

「いや、そういえば聞いたことがあります。ドームの中にある学生寮では天使の羽衣をカギ代わりに使うとか。個人認証も一度にできて便利らしいです」

「いや、それでも魔女の万能薬を全部持ってくることはないでしょ」


「あの、せめて名称ぐらい統一しない?」

「じゃあ、賢者の月灯りが招待状で未来の羽衣と」

「分かった、もういい。これはカギだ、カギ。以降、そう呼ぶように」

「「「「「ぐっ」」」」」


「ところでムックしゃん。全部持ってくることはない、とはどういうことだ?」

「それ、端末が3つついてるわよね」

「4つじゃないか……。ああ、そうか。ひとつは本体で3つは子機のようなものか」

「子機ってなに? ともかく、こうしてはずせばいいのよ。カギなんてひとつあれば充分なんだから」


 どうしてオツとムックしゃんの会話が成立しているのか不思議だが、もともとたいそうな設定はしないというのがポリシーなので気にしてはならないのである。

「ポリシーでござるか?!」

「知ってたモん」


「ほら、こうやってここを引っ張るとひとつだけ抜けるでしょ」


 そう言ってムックしゃんがカギの短手の真ん中辺りを指で挟み手前に引っ張ると。


 麻雀牌のキーホルダーが出てきた。


「麻雀牌とか言わないの。これひとつでドームの中ならどこでも入れるわよ」

「赤い字で中って書いてあるようなのだが」

「チュンって呼ばれてるわね」

「麻雀牌じゃねぇか! しかも三元牌かよ」


「家を出るときにこれだけ持って出れば良かったのよ。なんで全部持ってくるの、そんなことしたら家の電源が全部落ちちゃうでしょ」

「確かに最初は落ちてた……いや、これが分割できるなんて知らなかったもので」

「なるほど、核融合炉が4つあるのは、そうやって機能を分割して使えるようにするためか」


「賢者の石、ね」

「錬金術師の月灯り」

「天使の羽衣」

「魔女の万能薬」

「カギが一番短いからそれに統一しろっての!」


「さすがにそれはちょっと」

「なんだ、ムックしゃん。文句があるのか」

「せっかくの異世界ものなのだから、もうちょっと格式ってものが」

「登場人物が余計な気を使うなよ」

「せめて、賢者のカギ、にしない?」

「ま、まあ、そのぐらいなら、別にいいけど」


 いろいろご不満もありましょうが、今後はこれは賢者のカギで統一することになりました。


「で、その賢者のカギがあるから、家には不自由してない。こんなおんぼろ家なんかいらねぇよ、ってそういうこと?」

「いや、そんなことは言ってない。ただ」

「ただ?」

「えぇと、それはその」


「もう、全部正直に話すでござる」

「それが一番だモん」

「そうか、そうだな。じつはな、ムックしゃん、お頭、その他大勢のこびとさんたち」


「英雄様の言われることですから、なんなりと」

「相談に乗りましょう」

「これをこっそり処分する方法を」


「「「「「冗談じゃありませんよ!!!!!」」」」」


 今世紀最大規模で怒られた。

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