第28話 グリーンランド

 マユ姉のあとについて行き、なんかかんかがあって講堂のような建物に入ると、そこにはすでに並んで座っている人たちがいた。


 いや、人もいたのだが。どう見てもあれは異世界の住人……って当たり前か。ここ異世界だったな。マユ姉が説明してくれた。


「並びは左からドワーフ族。次が妖精族、付喪神、人族、そして我らエルフ族だ」

「みんな5人しかいないんだな」

「ああ、毎年枠が決まっているからな」


 ところで、なんだよ付喪神って。ツッコみが遅れちゃったじゃねぇか。なんで刀が椅子に座ってんだよ。


「ああ、あれは刀剣男子といってな」

「分かった、それはもういい」


 そういえばアレも付喪神って設定だった。



 俺たちが最後の入場者のようで、全員が着席すると校長の挨拶が始まった。この場所は「グリーンランド」と呼ばれる地名らしい。チュウノウ国グリーンランド市、ってことかな。ゴンならともかくヒソカとかいないだろうながくぶる。


(それはグリードアイランドだモン)


 どこの世界でもセレモニーというのは、実にくだらない退屈なものである。校長の挨拶は長い。


「で、あるからして、君たちの輝かしい未来のために」


「ぐぅぅ」

「お、おい!」

「ぐぅ?」

「こら、起きろ」

「ぐぅ」


(夢の中で返事をしているモン)


「と、ということで、がんがんがんばってくださいくぅぅぅぅ」


「お、おい、コウイチ、起きろっての」

「ふわぁ」

「校長が泣いちゃったじゃないか」

「くぅ」


「もう終わったから起きろコウイチ」

「あ、終わったか。次はなんだ?」

「「「ほんとに寝てたのか!?」」」


 校長がむさいドワーフの男だったので、興味をなくした俺であった。


「次は保健室へ行くぞ」

「保健室だと? なんて淫靡なひびき」

「なにを勘違いしている。身体測定と予防注射だ」


「あ、俺。ちょっと仕事ができたので家にかえぐえっ」

「そう来ると思った。逃がすわけないだろ」


(コウイチの行動を予測していたモン)

(マユミ嬢、なかなかの強者でござるな)


「い、嫌だ、嫌だ。俺は注射はもう卒業したんだ」

「入学したばかりで卒業できるか! 全員受けることになってるんだ。黙ってついてこい」

「ぐぇぇ、首を絞められると、ついてゆへまふぐぇぐぇ」

「マユ姉、面倒だからそのまま運んであげて」

「ぎゃぁぁぁ」


 そして無理矢理なお注射をされたしくしく。ただそれは、まるでBCG接種のように、スタンプみたいなものを肩に押されただけで終わった。痛みもなく跡も残っていない。なんだこれ。


「皮膚からエアーでナノマシンを打ち込むだけだ。痛いわけがないだろうが」

「そういうことは先に言えよ!」


 お注射が終わると、今度は身体測定である。またおにゃにょこのパンツ一丁が見られるのかと期待したが、制服の上からなんか変な光線でスキャンされて、それだけで終わった。個人情報とかまったく漏洩する様子もなかった。二重にがっかりである。せめてFカップの尻サイズは知りたかった。


 そして全員が教室に入ると軽く自己紹介をさせられた。年齢は12才から17才と、若干のばらつきがあった。入学の基準に年齢はあまり関係がないようである。ちなみに俺は14才と言っておいた。このクラスの平均がそんなものだったからだ。


(そんな適当でいいモン?)

(どうせ分かりゃしない。戸籍があるわけじゃなし。まさかあっちでの年齢を言うわけにもいくまい)

(その容貌で40才と言ったら引かれるだけだわな)


 そして1時間目の授業が始まった。国語である。


「いいか、日本語はすべての基本だ。数学だろうが物理だろうがM-1グランプリだろうが、それはすべて日本語が読み書きできなければ意味さえ分からない。だからこれはみっちりやるつもりだからそのつもりでいろ」


 ここ日本語が公用語なのね。それは助かる。国語の先生は人間の女性であった。キレイだが30過ぎの目つきが悪いオールドミ……いや、なんでもない。どの国でも基本が国語なのはその通りだが、なんだM-1グランプリって。


「日本語が分からないとツッコみも入れられないだろ?」


 聞こえてやがった!? いや違う、俺が聞きたかったのはそういうことじゃない。


「じゃあ、まずは、次の文を私が読むから、あとについて唱話するように」

「「「はーい」」」


「さいた、さいた、さくらがさいた」

「やかましいわっ!」

「「「さい……???」」」


「なんだ? えっとお前はコウイチか。ふむふむ。身長は163センチメートル、体重52キログラム。バスト83,ウエスト65,ヒップ88か。まだまだ未成熟だな。それでどうした?」

「個人情報ダダ漏れじゃねぇか!!!」

「教師に隠し事はでき……ん? お、お前?! お前は」


 やばい、男だってばれたか?! スキャンされたときばれないかと危惧したが、誰もなにも言わないから安心していた。まずいぞ、男がこんなスカートはいていたら変態扱いされかねない。


「ファミリーネーム持ちか!!」

「そっちかよ!」

「そっち? いや、驚いたな。ファミリーネーム持ちが入学してくるとは。それじゃこの授業は退屈だろう。だがルールはルールだ、しばらく大人しくしていてくれ。今日のカリキュラムが終わったら飛び級試験があるので、それで合格すれば9級に上がれる」


「そ、そうか。大声でツッコんで悪かった。大人しくしておくよ」


 9級ってなんだろ? と思いつつ俺は再び眠りに落ちたぐぅ。


(ついさっきまで熟睡してたのにモン)

(良く寝るご主人どのでござるな)

(こんな働かない主人公で大丈夫か、このラノベ)

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