第27話 制服

 この学生寮には部屋は6つあり、最大12名が入居できるようになっていた。ただ、現在では学生が俺を入れても5名しかいないので、ひとりで一部屋使えるようである。


 例のカギを使って部屋を出ると、ロビーと呼ばれる共有スペースとなっており、ソファーやドレッサー、長机、椅子などが設置してあった。まるで楽屋である。寮生のくつろぎスペースかな?


 また、部屋とは別にひとりにひとつずつロッカーが用意されており、そこで着替えをするようだ。


「「「この子のこの子この子、男だって言ってるけど!!」」」

「あら、そうだったの。それは珍しいわね」


「なんで落ち着いてるのよ!」とDカップ

「なんでって、いまさらどうしようもないでしょ。そもそもエルフに男なんかめったにいないんだから気にしない」

「いや、そういうことじゃなくて!!」Fカップ

「どういうこと?」


「「「どうしてここに男がいるのよ!!」」」

「エルフはみんな女だという、運営の思い込みね」

「そ、そんなの酷いわよ!」

「そ、そうよ。ダメよそんなこと許しちゃ」


「そんなことよりあんたたち、男の子がいるのにパンツ一丁で大丈夫なの?」


 見つめ合う3人である。そして。


「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」」」


 と叫んで自分の部屋に戻っていった。俺の至福(主に目)の時は終わったようである、残念無念因縁怨念。


「自分の部屋に戻るんじゃなくて、ロッカーの制服に着替えろと言ったんだがなぁ」

「あんたはさっきの……えっと、Cカップさん?」

「マユミだ! 人をカップサイズで覚えるな!!」


「で、このロッカーってどうやって開ければいい?」

「自分の部屋の出入りと同じだ。コウイチは4番の部屋だから、4番のロッカーを使ってくれ。カギを差し込めば開くようになっている」


 やってみた。


 いきなり狭い部屋に閉じ込められた。ロッカーとしては広いが、部屋としては狭い。まあ着替えるだけの部屋なのだから、これで充分か。

 目の前に掛かっていた制服と思しきものは、ピンクをベースにしたシャツとジャケット、リボン、そして赤いスカート。


 俺は慌てて外に出る。


「ご、ご、ごらぁぁぁぁ!! この制服、女物じゃねぇか!!」

「それにしてはしっかり着替えているけど? さっき言ったでしょ? エルフには男はめったにいないの。だから男用の制服なんて用意されてないのよ。それでいいから着てなさい」

「い、いや、嫌だ。男としてのプライドが」


「それならなんで着たのよ。それにね、制服が入校許可証になっているの。それを着ないと学校に入れないわよ?」

「そうか、じゃあ学校辞める」


 もともとそんなとこに行くつもりはなかったのだ。知らないうちに流れでこんなことになっていただけだ。学校なんか行かなくても問題はなかろう。最悪でも、俺専用の家があるコロボックル村に帰れば良いだけだ。


「あらそう。じゃあ落第扱いとするわね」

「落第扱い?」

「そう、入学前に落第って珍しいけど、ないわけじゃないの。ただそうなると、上級国民の身分は剥奪されて奴隷職にしか就けなくなるわよ」


 上級国民ってコロボックル村でも聞いたな。ここは身分制度の厳しいところのようだ。どうしてそんなものになっているのかまったく分からないが。


「なんだ奴隷職って?」

「鍛冶とか配達人とか組み立てラインの人とか、ようするに単純労働者ね」

(コーイチはもともと軽作業んぎゃっ)

「お前は黙ってろ! ぼかすか」


「なにいまの? 質問しておいて黙ってろはないでしょ」

「あ、ごめん。こっちの話だ」


 俺の眷属どもはまだ見えないように隠してある。それでどうしてどつけるのかは、考えてはならない。


(いまさらでござるな)


「それで、学校に行けばどうなるんだ?」

「成績次第だけど、最上位で卒業すれば遊んで暮らせるお貴族様ね」

「あ、俺それにする」

「それにする、でなれたら誰も苦労はしないけどね。それじゃその制服で文句言わないこと。さぁ、みんな出てきて着替えなさい。出発するわよ」


 ということで、エルフ4人と俺との、異世界での学校生活が始まったのである。


 いままで分かったことをまとめておくと、どうやら俺は上級国民であり、その中でもファミリーネーム持ちという超上級国民と呼ばれる部類に入るようである。


 うむ、苦しゅうない。


「軽作業者だと聞いてたモン。なんかおかしいモン」

「うるさいよ。仕事なんかしないで済むならそれに超したことはないだろうが」

「拙者は、もうちょっと冒険者的な活動を」

「それは嫌だ」

「また食い気味に拒否りおった」


 Cカップを先頭に、Bカップ、Dカップ、Fカップ、Nカップ(カップなし。俺である)の5名は並んでロビーを後にして、学校に向かうのであった。

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