第32話 訛ってる
「ただいまー」
「ただいまー。じゃないわよ! いったい、なにをやったの!!」
「ちょっと待てマユ姉。勝って帰ってきたのに、なんでお小言だよ!」
「そ、そうか。そうだった。良くやったわね。それは偉かったわよ」
「そうそう、それでいいのだわっはっは」
「で?」
「で? って?」
「なんであんたと戦った人がふたりとも病院送りになってんのよ!」
「いや、それは俺のせいじゃないというか……」
「それは我らが頑張ったからでござる」
「!!??」
「そうだモん。あれはボクらの仕事でコウイチはなにもしてないモん」
「!!!???」
「お前らの仕事がしやすいようにお膳立てしたのは俺だがな」
「な、なによ。この子たち。どうしてこんな、ええっ?!」
「こいつらは俺の眷属だ。審判が使っても良いと言ったから戦闘……だったのかなあれ。まあ、使ったんだ」
「あの戦士ふたりとも、この子たちにやられたってこと?!」
「ま、まあ。そういうことになるかな(嘘は言ってない)」
「いったいどうやって……でもあんたたち、そのなりでとても強いのね」
「ま、まあ。そんなもんだモん」
「あら、言葉もしゃれるんだ、すごいわね。もふもふ、あんたの名前は?」
「ネコウサだモんあへあへあへ」
「ネコウサちゃんかぁ。すごいわね、このもふもふはクセになるわ。で、こっちの子は?」
「え、えと。ワンコロでござる」
「そうか、ワンコロ……ってあんたあの凶暴なタイガーウルフのようにも見えるんだけど、似ているだけよね?」
「ああ、そういえばそんなこと言ってたな」
「だ、だ、誰がそんなことを言ってたの?」
「その本人が」
「うぎゃぁぁぁ、あ、あんた。いったいなにをしてくれとんのやぁぁぁ!!」
「訛ってる訛ってる。落ち着けマユ姉」
「これがおつちていらからぁぁ」
「言葉の順番が間違ってるぞ」
「タ、タイガーウルフというのは、もう100年も前から絶滅危惧種指定されていて、この大陸では最後の1家族がこの近所に生息しているだけの」
「そうそう、それそれ。それがそいつ。ワンコロ」
「うぎゃぁぁぁぁぁぁ」
「ちなみに、そいつを残して残りは全部俺が退治しちゃったようだ」
「うんげあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「まあ、やっちゃったもんは仕方ないから気にすんな」
「いや、それはこっちのセリフ……じゃないっての! 気にしろよ!!」
そんなマユ姉をなだめすかしもふもふさせながら、俺たちはエルフ寮に帰った。
と、そこではもうお馴染みとなった光景が繰り返されるのである。
「か、か、かわいわぁぁぁどこの子? ねぇ、どこの子なのわふわふ」
「なんてもふもふなの、この子たち可愛い可愛い触ると気持ち良い」
「わぁぁぁ、私も私ももふりたいもふりたい」
「騒がしいな、おい。静かにしろよ」
「もふもふもっふもふ。ステキだわ、この肌触り」
「モんモん。いや、我はそのあの」
聞いちゃいねぇな。
「わしゃわしゃごっしゃごしゃ。この固めの毛並みがなんとも言えず気持ちが良いわもっしゃもっしゃ」
「え? あ、いや、それは。その。なんか照れるでござる」
「「「言葉しゃべれるの!?」」」
そんなイベントを一通りこなしたあと、マユ姉の言葉がこいつらを再び蹂躙するのである。
「あんたたち、またパンツ一丁だけど、それで良いの?」
一瞬固まり、顔を見合わせるエルフたち。そして。
「「「「ぎゃぁぁぁぁ、忘れてたぁぁぁぁぁぁ」」」
「エルフの男なんて見たことないからねぇ」
習慣というものはなかなか改善されないようである。
「俺は一向にかまわないのだぎゃぁぁぁ」
「あんたは気にするように。分かった?」
「ワカタワカタ、ワカタカ兄弟」
「分かればよろしい。それじゃ夕食食べて寝るとしよう。明日も早いぞ」
「早いってなにをするんだ?」
「決まってんでしょうが。仕事に行くのよ」
「働くのは嫌でごごごごご」
「なんだって?」
「ごごご、午後からで良いのではないががががが」
「朝からよ!」
「ぐげぇぇ」
「今日のうちに死んじゃいそうでござる」
「良い気味だモん」
「首を絞められてる俺の心配をしろ!!」
忘れていた。学校が夕方から始まるのは、昼間働いているからだった。それで、俺はなんの仕事をするのだろうか? 軽作業ならいいけど、重労働だったらあっちの家に帰るからな。
という勝手なことを言っていた俺なのだが、結局これから27ヶ月ほど、ここで過ごすことになる。
「えらく半端な月数でござるな」
「普通に2年と3ヶ月と言えば良いモん」
「それは違うぞ、ネコウサ」
「すっかり忘れられてるオツ殿、どうしたモん」
「やかましいわ。この世界なりに事情というものがあるのだ」
「という引きでござるな」
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