第7話 奏美の本音
謹慎とはなんだろうか。そう疑問に思った事はないだろうか?
ちなみに私は毎回謹慎処分を受ける。最初は私が悪かった。
次の年からは仲間が独断行動をするので一緒に謹慎だ。
いつもなら普通に謹慎処分を楽しんでいた私だったが、今回は違った。
「広島支部から食糧難により、食料を要請させました。今回は下級一番隊と超級、東雲空と共に運搬作戦を行って貰います」
副司令官事私の妹が私が所属する部隊に宣言する。
いきなり呼び出され何を言われるかビクビクしていた龍虎は唖然としていた。
かく言う結衣も目を点にしてぱちくりしている。
そんな私も表情だけは冷静だが、内心は混乱していた。
「え?」
「本来は謹慎中だ。他部隊は実戦訓練を続行するが、君達は別だ。これが今回の処分と言う事で、しっかり先輩から学ぶと良い」
司令官がそう言った。
まぁ実際護衛なんて要らないと思うが、我慢を与えるには丁度良い作戦なのかもしれない。
外の中庭へと向かう。そこで空、私の一つ上の先輩が待っている。
私の先輩でも上級の人は普通に居る。超級の方が珍しいくらいだ。
それに、超級に上がった戦闘員は殆ど死んでいる。
超級と成れば、それだけの期待と信頼が寄せられ、大きな作戦に配属される。
大きな作戦、それは勿論日本奪還と言う大元の作戦である。
主との対決、これは毎回大勢の死者を出す。私も主とは一度しか戦ってないが、あれは地獄だ。
◆
司令官と奏美が司令室には残っていた。
「やはり、姉には戦って欲しくないか?」
「当たり前です。奏美は正直、日本奪還とかどうでも良いんです。姉さんと居られたら」
振り返ること無く、司令官と会話をする奏美。
本来なら良くない事だが、目を合わせたく無かった。
パネルを操作しながら、他の下級部隊の実戦訓練の指示を飛ばす。
小型のウンゲテュームで戦いの感覚を掴む訓練。後に中型にクラスアップさせて訓練の難易度を上げる。
しかし、龍虎の様な輩が多いと訓練でも普通に命を落とす。
訓練であり実戦なのだ。
「司令官」
「なんだね」
「なぜ、我々は産まれて来たのでしょうか。どうして戦わないといけないのでしょうか」
「それは⋯⋯」
「分かってます。人間ではどんな手を使ってでも勝てる筈のない怪物。そんなヤツらを相手出来るのは兵器である我々。我々には多少の人権はあっても、ほぼ道具と変わらない」
「そんな事は⋯⋯」
「司令官は優しいんですよ。命令だけして高みの見物、何かを成している訳でもないのに先祖の栄光を盾にぐうたらしている上層部とは違う。奴らは道具としてか兵器達を見てない」
「⋯⋯」
「長年の結果、まだ少ない土地ですが、日本を取り戻せている。畑が出来、家畜が繁殖し、食料が手に入る。娯楽と言うなの洗脳でウンゲテュームの脅威を広める」
「言い方⋯⋯」
「恨み、辛み、悲しみ、そのような負の感情は薄まって行く。大抵その感情は兵器にある。仲間が死に、自らも死ぬ。学校での学習と言うなの集団催眠によりウンゲテュームを悪として狩る」
「間違っては無いだろ」
「ですね。まぁ重要なのはそこじゃありません。国内で暮らす一般市民は既にウンゲテュームの『恐ろしさ』を無きモノとして過ごしている。これが許せない」
「⋯⋯」
「分かってます。そう出来る、そうさせるのが我々の役目であり使命だと。だけど、どうしても思ってしまうんです。こののうのうとした笑顔の為に、何人もの兵器が犠牲に成っていると思うと、許せない。兵器を軽んじる輩も現れ始め、ウンゲテュームを怪物だと思わない輩も現れ、今の生活を『当然』『当たり前』と称して仲間達に敬意を持ってくれない輩」
「副司令官⋯⋯」
一呼吸、奏美は落ち着いて再び淡々と話し始める。
「なんでそんな奴らの為に戦い、命を落とさないといけないんでしょうか。最近ではよく分かりません。奏美は別に、人間に感謝はしていません。奏美には姉さんしか居ない」
ウンゲテュームが日本に現れてから数百年と言う長い時が経過し、普段戦地に足を運ばない市民達は恐れを忘れていた。
恐れてないモノの為に必死に戦う人達を笑う人も現れ始めていた。
それは単に、その場だけが『平和』を実現出来ている証拠でもあった。
その平和を守り維持するのが兵器としての役目。
そんな役目を奏美は疑問に思っていた。
見返りもなく、ただ淡々と道具として戦いその命を早くに終わらせる仲間達。
安全圏に居る奏美はそれを沢山見て来ていた。
それが多大なストレスとなり、一度は反旗を起こそうともしていた。
そんな奏美を止めていた存在が、奏音であった。
「いっそ姉さんと一緒に海外に逃げてやろうかと思った事があります。姉さんの力と奏美の力なら可能だと⋯⋯まぁ姉さんがそれを拒否したんですが」
「既に準備段階に入っていたのか」
「姉さんはウンゲテュームを倒し日本を奪還する事に執着しています。亡くなった母さんの影響ですね」
奏音達の母親はウンゲテュームとの戦いで死亡、父親は悲しみ怒り、自らその命を投げ落とした。
二人は自分達の力で必死に生きたのだ。皆に居る親が無い状態で。
奏美の奏音依存はそこが大きかった。
「だから奏美も自分の疑問を押し殺して仕事をしてます」
「あぁ、助かってるよ」
「後、一年と六ヶ月らしいです」
「ッ!」
「人類の希望である救世兵器と上層部で二つ名が与えられた姉さんの寿命が、後一年と六ヶ月」
「⋯⋯」
「姉妹として遊ぶ事も、笑い合う事も少ない奏美達は、近々別れる事に成るでしょう」
「⋯⋯」
「奏美は姉さんを追い掛けるつもりでいます」
「え」
それは司令官にとって衝撃な事実だった。
奏美の力は奏音には劣るモノの、汎用性が高く強力な力だからだ。
部隊の監視、敵の偵察、その他諸々を一人でこなす事が可能な奏美。
「ですから司令官、どうか、姉さんを助けてやってください」
振り向き、その瞳を向けた。
縋るような、悲しみに満ちた瞳を。
「研究班は必死に研究をしている。きっと実を出す筈だ」
「期待してます。姉妹らしい事してない状態で、別れたく、ないんです」
奏音が下級の部隊に配属される理由の一つが寿命であった。
奏音のとある力を使うと自らの寿命を削ってしまう。
それを避ける為に大きな戦いに参加する上の階級ではなく、下の階級なのだ。
成る可く力を使わせない為に。それが数少ない出来る事の一つだった。
「すみません。変な事を言って」
「いや、良いんだ。一人一人の意見を聞く事は大事だからね。教えてくれてありがとう。君の考えが分かったよ」
「はい」
「君は日本や国民よりも姉を優先する」
「当たり前です」
「だから、君は日本を守り国民の為に力を振るう」
「基本裏方で奏美が兵器だと、あんまり思われてないですけどね」
「したかないさ。君の力はおいそれと使って良い力ではない」
「⋯⋯そろそろ姉さん達が出発すると思うので、見て来ます」
「あぁ、行ってらっしゃい」
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