第22話 特訓すんぞ

 訓練場でやる事は、結衣はエネルギーの操作を上げる。

 坐禅をやらせて精神統一を行いながらひたすら体のエネルギーを循環させる。

 減りも増えもしないが、操作自体は上がる。

 循環速度をどんどん上げるのだ。

 制御出来なくなると外に一気に放出される。


 おならとさほど変わりない。

 それを言うと殆どの確率で引かれるので言葉には出さないけど。

 龍虎は私との模擬戦で訓練を行う。


「おいおい。そんな状態で大丈夫か?」


「おいおいお前の目は節穴か? 問題ないさ」


 レイっちの観察眼が特別なだけで本来エネルギーで心臓とか動かしてるのは分からないか。

 機械が肺とか心臓とか動かしているので、私は戦いなだけエネルギーを使える。

 つまり、あのウンゲテューム時よりも力は使えるのだ。

 結衣と接続したお陰で体の重みもかなり軽減されてるしね。


 だからこそ、舐めていると痛い目を見る。

 そもそも龍虎は舐めに舐めた結果、小型にボコボコにされている。

 だと言うのに病人的な見た目の私を舐めているのはおかしいと思う。

 ま、その考えもすぐに消えると思うけど。


「それじゃ、行くよ〜」


「いつでも来い!」


 流石に模擬戦なので魂武装は使用しない。

 構えをしっかりとしている龍虎の目は私をきちんと見ている。

 そう、見ているのだ。

 自分の動体視力を信じているからこその行動だろう。或いは癖か。


 私はゆっくりと歩いて龍虎に近づく。

 奴は動体視力だけで私の動きを観察している。

 歩き方、呼吸の仕方(してない)、目線、体の動かし方。

 その全てを観察してどのような攻撃を仕掛けて来るのかを想定する。


 それは対人戦にとっては当たり前な事だろう。

 だが、それはあくまで対等かそれに近い相手にだけに通用する。

 さて、動くか。


 私は一気に動いて龍虎の魂武装を使ってない時の最大限の動体視力では追えない速度で背後に回った。

 目の前から消えた事に驚く龍虎だったが、すぐにその思考は止まる。

 何故なら、私が大きな殺気を飛ばしたからだ。


 冷や汗を流しているのが見て取れる。

 死を錯覚してしまう程の殺気に龍虎は恐る恐る後ろを見る。

 そこには笑顔の私が待っていた。


「これで君は一回死んだね」


「⋯⋯もう一回」


「勿論」


 そしてさっきと同じ様な行動を取った。

 だが、流石に学んだ龍虎は視界から私が消えた瞬間に背後を向いた。

 だが、その時には再び背後から殺気が飛んだ事だろう。

 そう、私は背後には回っておらず、普通に目の前に居たのだ。

 誰もいない背後を急に見た龍虎。


「なん、で?」


「特殊な歩行方法だよ。ウンゲテューム相手には意味無いけどね。人間の無意識に入り込んだんだよ。だから消えたように見えたの」


「そんなやり方が⋯⋯」


「嘘に決まってるだろ」


「え?」


 純粋に龍虎が見えない速度で反復横跳びして視界から消えて、相手が背後を見た瞬間に止まらば良いのだ。

 簡単だよ。簡単。


「これで二回死んだ」


「次だ!」


 その後も何回もやっても龍虎が私の場所を見つける事は出来なかった。

 そして休憩と入った。


「な、なんでぇ」


 肩で息をしながらそう呟く。

 結局自分では気づけなかったか。


「速いから全く見えない⋯⋯目に頼り過ぎてるからか?」


 そうでもなかった。

 龍虎はしっかりと自分の弱点に気づいていた。

 嬉しい事だ。

 ここまできちんと気づいたので、褒美として私はアドバイスをする事に決めた。


「龍虎、君は動体視力に頼り過ぎている。信頼し過ぎている。確かにそれで見えるなら良いけど、今の君じゃ無理だ」


 ずっと目で見て行動を起こそうとしている。

 それでは遅いのだ。


「目だけに頼っていると不意の攻撃には対応出来ない。だから空間を把握するんだ。感覚でな」


「そんな事出来るのかよ」


「レイっちは出来てたでしょ? 彼女の特異体質は分裂思考だ。空間把握能力などは彼女の努力の結晶だ。君なら出来る」


「⋯⋯」


「君は頭が良い。だから良く考えてすぐに体が動くようにしろ。目で見て動くのではなく、感覚で周囲を把握して動くんだ。相手はどのようにどこら辺に動くのか、そしたら自分はどうするべきなのか。様々なパターンを考えろ。そして野生の勘を磨け。鋭く、正確に磨け」


 龍虎ならそれが出来ると私は確信している。

 信頼していると言っても良いかもしれない。

 だからこそ、この訓練を続ける。本当は手数を増やしいんだけどね。


「それに私の殺気を浴びる度に死を実感してるだろ? それだけ強くなるから頑張れ。慣れる事は許さんぞ」


「それは、無理だろ」


 仰向けに倒れる龍虎に軽い笑いを残して私は結衣の元へと近づいた。

 坐禅を崩さず体のエネルギーを循環させている。

 最初行っていた時よりも少しは速く動かせるようになっているが、それでも速いとは言えない。


「怖がるな」


「へ?」


「止まるな!」


「す、すみません!」


 結衣は多分一度制御できずにエネルギーを外に放出してしまったのだろう。

 それにビビってあまり速くさせようとはしていなかった。

 なので「怖がるな」と声を掛けたら、それに反応してエネルギー循環を止めてしまった。

 あまりにも成長が遅いようだったら、私が手伝って無理矢理循環させてやろうかな。


 他人の力でエネルギー循環させられるとかなり辛い。

 全身がとても痒くなるのだ。

 私は時計を見た。


「そろそろ晩御飯の時間か。食堂行くか?」


「はい!」


「ああ」


 私達は三人で仲良く食堂へと向かう。

 向かっている間にも結衣はエネルギーを循環させる練習をしている。

 日々の積み重ねが強さへと繋がる。

 良い覚悟だ。


 龍虎の方は下の方を向いて、聴覚、嗅覚などの感覚で周囲を把握していた。

 数時間の訓練だけで二人の意識がだいぶ変わった。

 いや、変わり過ぎ。


 これは、あれだ。

 前回の大型戦のお陰で二人の考えが変わったみたいだ。

 ここまで仲間の考えを正す事が楽なのは初めてかもしれない。

 あれは良い経験だったな。


 そんな二人の緊迫状態を後ろから微笑ましいそうに見ながら歩いている私。

 食堂に向かっている途中で空先輩と遭遇する。


「あと三日だね」


「そうだね」


 世話になった兵器の一人が寿命をあと三日で迎える。

 三十まで生き残った兵器はその一人だけだ。

 彼女の同期は皆死んで行ったのは言うまでもない。

 私もお世話になった経験があるので、やっぱり悲しい。

 今は幸せに暮らしているが、彼女の死をきちんと家族は受け入れてくれるだろうか?


 祖母よりも早くに旅立つ彼女の最期には当然私も空先輩も立ち会う予定だ。

 私が良く関わりを持っている人の殆どはその人に世話になっている。


「最後は笑って別れましょうね」


「勿論」


 流れてさよならよりも、笑ってさよならの方が良いだろう。

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