第23話 葬式

 同じ様な訓練を三日間行い、今日の夜は部屋に戻ろなかった。

 とある上司に世話になった人達が同じ家に向かって歩いていた。

 今は民間に暮らして旦那と一人の普通の赤ん坊と暮らしている。

 そしてそんな人は明日で三十歳を迎えるのだ。


「奏美、眠くないか?」


「なると思いますか?」


「ないな」


 今は午後11時30分のガッツリとした深夜だ。

 今の日本に娯楽は少ない。

 それでも、愛し愛された人と余生を過ごしたのだから、ある程度の幸せは感じている筈だ。

 私達には理解出来ない幸せを感じてくれていると、今歩いている全ての兵器は思っている。


 先頭は司令官である。

 そして彼女達が住んでいるマンションへとやって来た。


「こんなぞろぞろとやって来て、普通に迷惑ですよね」


 そんな呟き。

 合計16人だ。

 本当ならもっと多いだろうが、戦死している。

 司令官がノックすると、中から旦那さんが出て来る。

 その目に悲しさは秘めていなかった。

 みんなそうだ。悲しさは秘めてない。


「息子が寝てますので、ご静かにお願いします」


「当然ですよ。失礼します」


 司令官が先に入り、その後からぞろぞろと入る。

 寝室にはベットに寝っ転がっているその人⋯⋯今は綾波冬華さんだ。


冬華とうかさんお久しぶりです」


「奏音じゃないか。あんた随分変わった格好してるね?」


 兵器の再生能力が高く、引き残っていれば大抵の傷は治る。

 だと言うのに機械に繋がられて持ち運んでいる私を不思議がる。

 とりま話を逸らす事にした。


「大勢ですみませんね」


「ほんとだよ。一気に気配が来たからビビったわ」


 そう優しく笑いながら答える。

 別に力などが衰えている訳では無いようで安心だ。

 とても元気で全ての人が一言一言言葉を残していく。

 泣く者はいなかった。


「兵器として生まれ、今まで戦ってくれた。ご苦労だった」


「はい。ありがとうございますね司令官」


 そして旦那さんが会話をする。

 私達はそれを聞きながら時間の流れを感じる。

 そして、旦那の胸の中で明日に備えて目を閉じた。


「貴方達が来た事を後悔させる為に12時2分に起きてやるよ」


「期待してますよ」


 11時57分。


 訓練された兵なのだから、寝ようとしたら一瞬で寝れる。

 寝息を遅く立てている。

 誰も信じないよな。

 こんな明日も普通に生きれそうな人がいきなり命を落とすなんてさ。


 だからこそ、だれもが悲しまない。

 また明日があると信じているから。

 だからこそ旦那さんも悲しまない。みんな笑顔だ。

 認めたくない現実から目を逸らすような笑顔じゃない。

 ここにいる誰もが。


 11時58分。


 ゆっくりと時間が流れ、この部屋にある時計の針だけが音を鳴らす。

 チク、タクと。

 一秒感覚で刻まれて行く時間は私達にとってはとてもゆっくりに感じられた。

 もうすぐで明日が来てしまう。


 11時59分。


 誰もが顔に焦りを生み出したが、当の本人は小さな寝息を立てている。

 まだ生きていると証明してくれているようだった。

 彼女はゆっくりと細く目を開けて微笑んだ。


「じゃあね」


 その言葉を残して最後の一刻が刻まれた。


 12時。


 彼女の呼吸は止まった。心臓の鼓動が聞こえない。

 最期の最期まで言葉を出していたとは思えない程に静かになった。

 そして、この世からまた兵器の一人が去った。

 まだ現実身がない。


 この中に医者が入って来る。

 そして、ゆっくりと首へと手を押し当てる。


「鉄のように冷たいね⋯⋯ご臨終です」


 その言葉を聞いてこの中の人達は全員泣き出した。

 赤ちゃんも泣き出し、旦那さんも泣き出した。

 私が学校で喧嘩売られて、先輩をボコした時に当時の軍人だった冬華さんが喧嘩の当事者を叱った。


 それだけじゃない。

 私と空先輩が仲良くなるきっかけをくれたのも彼女である。

 そこそこ年が離れているのにも関わらず、学校にも良く顔を出して後進を育成していた。

 私が軍人になって、私が率いていた部隊に戦い方を明確に教えてくれたなは彼女だ。


 言わば師匠。

 自分の力に奢ってひたすら暴れ回っいた私に正しさを教えてくれた。

 私を大人に変えてくれた。

 そんな恩人が、この世から去った。


「安らかに、眠ってください」


 寿命は私の力でもどうしようもない。

 実験する訳にもいかない。

 一時間、静かにこの時間を過ごしたのは言うまでもない。


 冬華さん。

 本当に、私達のような人に正しいさを教えてくださり、ありがとうございました。

 あの世でも楽しく暮らして、私達の行きを他の皆と待っててください。

 私も近々行く事になると思いますから。


 そして今日の午前8時から葬式が始まる。

 暗い面持ちで入るのは当然世話になった兵器や身内だ。

 彼女の親達も現れている。

 棺桶には静かに冷たい彼女が収まっている。


「あんなに元気だったのに、兵器の運命は残酷だな」


 私が奏美に小さく愚痴を零すと、「そうですね」と拾ってくれる。

 奏美の力を気持ち悪いと思わなかった上司は冬華さんが最初だった。

 奏美の力を認めてくれた人の一人。だからこそ、奏美は私以上に悲しいだろう。


「冬華さん。いい意味で裏表の無い人でしたね」


「そうじゃなきゃ、こんなに慕われてないよ」


 後ろを見れば兵器以外の普通の人達が沢山来ている。

 日頃関わりを持っている人だったのだろう。

 耳を澄ませば五十歳くらいの人達が「あんなに若いのにねぇ」「そうねぇ」などの会話をしている。


 本当にその通りだ。

 なんで三十って言う若い年であんなにも静かにあっさりと死なないといけないんだ。

 長年兵器の寿命を伸ばす術は見つかってない。


「⋯⋯お疲れ様でした」


 そして、この場の全ての人がお辞儀をした。

 赤ちゃんだけがワンワン泣いていたが、誰もが鬱陶しいなどの感情はなかった。

 赤ちゃんは周囲の雰囲気や感情に敏感だ。

 それにまだ一歳にも満たないのに、母親を失ってしまった。


 子供は残酷だし、今後の人生でどのように思われ言われるかは分からないが、『自分の母親は立派』だと言う考えは持って欲しい。

 それは旦那さんの育て方次第だろう。


 そして火葬場へと入って行く。

 ギリギリまで付き添って言葉を残すのは一番世話になった兵器と旦那さんだった。

 そして終わるまで私達は一箇所の場所で集まり、時間が来るのを待つ。

 昼ごはんも用意はされている。


「奏音んん! かなじいなぁ! なんでぇ! あんなにげんぎだっだじゃんがぁ!」


八雲やくもさん。こんな場くらい酒飲まないで下さいよ」


 棟上とうじょう八雲は22歳の超級だ。

 彼女の同期で超級なのは彼女だけである。


「こんなの、飲まずに受け入れる事でぎるかぁ! あの人はなぁ! 自分の仲間が大阪でぜーいん死んじまった時に、自分を慰めてくれたんだ」


 いきなり冷静になった。

 アルコールが内部で分解されて回復したようだ。

 酔いたくてもすぐに回復する体は時として嫌だな。

 ま、私は酒飲めないけど。未成年だし。


「大阪では自分の幼馴染も一緒に居たんだ。それが目の前で大型の奴らにぐちゃぐちゃに潰されてよぉ」


「体が残っていれば⋯⋯」


「おめぇの力は神レベルに凄いが万能じゃないって事だ。悔やまないでくれよ。こっちは割り切ってんだ。⋯⋯菊! 酒瓶持ってこーい!」


「もう空ですよ」


「まじかよ。冬華さんは優秀な人だった。仲間を支持して生き残れる最前の手立てを打ちながら、臨機応変に対応してたんだぁ。流石に大阪には参加しなかったけど、一個前の県奪還作戦では活躍したんだぁ」


 大阪の一個前⋯⋯か。

 詳しくは知らないけど生きて帰って来た兵器は30人近くだったって聞く。


「ほんと、どんなに優秀でも運命には勝てないのかね」


「⋯⋯運命に、勝てない」

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